ブロックチェーンはその特性上、「長期に渡り継続的な取引が行われ続けるもの」に対してのみその価値を発揮します。ブロックチェーンの登場以来、数々のサービスが注目されては消え去っていきましたが、そのほとんどがこの条件に合致していない、いわば必然的に成功しなかった取り組みと評価できます。
今回はこの条件を満たし、今後の音楽業界のみならず、金融業界までも変えてくれそうなコンセプト「音楽原盤権NFT」を解説したいと思います。→過去の「推し活3.0」を読むにはこちらを参照。
楽曲のビジネスモデルは「お札」から「不動産」に変化した
90年代、楽曲はCDとなって世に届けられ、業界内でCDをプレスすることが「お札を印刷する」と形容されるほど一瞬でお金へと変わり、アーティストや業界を潤しました。
しかし、ストリーミングの時代になったことで音楽業界の収益の基準は楽曲の再生数に変化。リスナーが楽曲を聞いたときに初めて収益に変換されるため、収益化のスピードは大幅に減速・長期化しました。
つまり、楽曲はすぐにお金に変わる「お札」から、中長期にわたって(場合によっては数十年規模で)継続的に収益をもたらす「不動産」のような存在へと変化したといえます。
この変化を敏感に捉えたSony Music Entertainmentが多くの楽曲の権利を保有するブラジルの音楽レーベルであるSom Livreを285億円で買収するなど、楽曲を取り巻くビジネス環境は急速に変化しています。
この変化は、少なくとも短期的に見るとアーティストにとっては逆風です。発売翌日にはCDショップで千円札と交換され、数カ月内には口座に振り込まれていた楽曲の収益が、半強制的に年単位の分割払いに切り替えられてしまったわけです。明日の活動資金を必要とする若手アーティストにとっては死活問題です。
音楽版REITとして注目を集める「音楽原盤権NFT」
この問題を解決する可能性を秘めているのが、音楽原盤権NFTです。
音楽原盤権はざっくり説明すると「音楽の使用権」。CDが売れたり、たくさん再生されたりすることで収益が入ってくる、音楽業界の主要な収益源の1つです。
音楽原盤権をNFT(非代替性トークン)化するというコンセプトは、従来、楽曲製作に携わった人や会社が保有していた音楽原盤権という権利を分割した上で一般の人に販売しよう、というものです。
音楽ファンは気に入った楽曲のNFTを購入することで、半永久的に当該楽曲が生み出した収益を受け取り続けられ、アーティストはストリーミングの普及により失われた短期的な収益を得られるという不動産投資信託(REIT)のようなビジネスモデルです。
グローバルに見るとRoyal(米国)、musicow(韓国)が音楽原盤権NFT関連事業で注目を集めるなど、音楽NFTの市場規模は2021年には13億5000万ドル、2031年には150億1000万ドルと、今後10年で驚異的な成長を期待されています。
音楽原盤権NFTが若手アーティスト育成の鍵に
この分野において、日本で最も先駆的な取り組みを進めているのが音楽の原盤権マーケットプレイス「OIKOS MUSIC」です。
著名音楽プロデューサー2人と連続起業家が共同創業した同社は、音楽原盤権NFTのマーケットプレイスを運営しながら自ら音楽事務所機能を有し、楽曲リリース時に原盤権の一部をNFTとして販売することで、次の楽曲制作に必要な費用を獲得するというスキームを確立。多くの若手アーティストの支持を獲得したことで、NFT市場が冷え込む中、2022年のサービス開始から約1年で4000近いNFTを販売するなど着実な成長を続けています。
2024年1月にはinterfmの人気番組「sensor -NighOut in TOKYO -」内で「聞いたその場で音楽原盤権NFTを購入できる」をテーマとした新企画を開始。来る2月18日にはtiktokで脅威の3億再生を記録したクソングメーカー「なかねかな。」を招き、その場で初披露するOIKOS MUSIC所属アーティストとのコラボ楽曲のNFTを販売するライブ開催など、Web3時代の音楽業界を切り拓く世界的にも新しい取り組みを精力的に行っています。
気に入ったアーティストのNFTを買って帰る時代が来る!?
音楽関連の権利は従来、原則として業界内でのみ流通してきました。
このクローズドだった権利がNFT化されることで、一般のファンでもお気に入りの楽曲を購入・所有できるようになるWeb3時代。これからの音楽ファンはさながらプロデューサー気分でフェスを巡り、お土産代わりに気に入ったアーティストのNFTを購入して帰る、というような未来が来るのかもしれません。
未来のヒットソングを探しに若手アーティストのライブに出掛けてみませんか。