コロナ禍になりオンライン上でのさまざまな活動が主流になりつつある現在。その中でも、特に顕著な活動が「ライブや舞台の配信」ではないだろうか。 今まで現地に行かなくては観ることができなかったエンターテインメントのコンテンツが、家にいながら楽しめるようになっていることを知っている、もしくはすでに体験したことがあるという人も多いのではないだろうか。 2021年に行われた楽天インサイトの調査では、「普段音楽を聴く人のうち、オンラインライブの利用経験は19.7%、20代では3割超」という結果が出ているという。

それだけ私たちの生活に欠かせないものになっている「ライブ配信」。そうしたライブ配信において、「ファンとアーティストをテクノロジーでつなぐ」事業を行っているのが、サイバーエージェントとLDH JAPANの「CL」だ。 今回は、2022年8月に2周年を迎えた「CL」の概要、サイバーエージェントの取り組む「FanTech」とは何かについて、CL事業本部の伊達学氏とプロダクト開発局プロダクトオーナーの鈴村唯氏に聞いた。

  • 左から鈴村氏、伊達氏

リアルタイム字幕機能で「ファンとつながる」をサポートする

サイバーエージェントでは今、ファンとアーティストをテクノロジーでつなぐITサービスを「FanTech」と定義して取り組んでいるという。

FanTechのサービスの一つである「CL」は、EXILEや三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEなどが所属するLDHのコンテンツを月額制のサブスクリプションで楽しむことができるデジタルコミュニケーションサービスだ。

「CL」は、サイバーエージェントのFanTech 事業の代表格として、2020年から提供されている。同サービスは、「オンラインライブ(PPV)」「オンデマンド動画」「ライブキャスト配信」の3つのコンテンツを中心に、他グループとのコラボ企画やアーティスト発案の企画などを通じて、LDH所属アーティストのさまざまな姿が見られる仕組みになっている。

その中でも、特に人気があるのは「ライブキャスト機能」だという。 このライブキャスト機能は、視聴者がコメントする際にエリア分けされていることが特徴。エリア分けにより確実にコメント表示がされるため、配信者とファン、またファン同士の親密な交流が可能になるそうだ。

また「ライブキャスト配信」にも「さらなる特徴がある」と語るのは鈴村氏だ。

「CLでは、『多言語対応』を強化しており、特にライブキャスト配信では『リアルタイム字幕機能』を使用しています。この機能は海外でも人気のあるアーティストである劇団EXILEの町田啓太さんからの要望で開発したもので、他国のファンの方との交流を促進しています」(鈴村氏)

  • 多言語対応について説明する鈴村氏

このリアルタイム字幕機能は、現在、日本語・英語・韓国語・中国語(簡体字、繁体字)・タイ語・インドネシア語の7言語に対応しているという。 これらの言語を選んだ理由は、CLに登録しているファンを調査し、住んでいるファンの数が多かった地域で使われている言語だからだという。そのため、今後、LDHの活動域が広がった場合は対応できる言語を追加していく予定とのことだ。

世界に誇れる「エンタメ大国」日本へ

ここまで、FanTech事業の中のCLについて話を聞いてきたが、そもそも、なぜサイバーエージェントはファンとアーティストをテクノロジーでつなぐ「FanTech」という分野に取り組むことになったのだろうか。

「サイバーエージェントは『クリエイティブ』に強みを持つ会社です。またAIやゲームなどの分野にも注力しており、テクノロジーのノウハウも持っていました。そのため、『強みの掛け算』を行うためにエンタメのデジタル化を推進する企画が立ち上がりました」(伊達氏)

  • FanTech事業の経緯を語る伊達氏

またこの事業は「コロナ禍」よりも前から構想があり、着手されていたものだったが、「なかなかライブに行くことできない」というご時世も後押しする一端を担ったという。

「コロナ禍でアーティストをはじめとする『推し』にリアルで会える機会が大幅に減ってしまいました。しかし、それを逆手に取り『アーティストをより身近に感じられる』企画をオンラインで打ち出すことで、ファンの方々に『現場に行くと楽しいがデジタルでも違う楽しみ方がある』という価値を提供することに成功しました」(伊達氏)

実際に、先ほど紹介したCL内ではファン同士の交流も活発に行われ、「普通なら会えないような人と交流できる」というデジタルならではの楽しみ方ができているのだという。

最後に、伊達氏にFanTech事業の今後の展望を伺った。

「今行っていることを世界のスケールで展開していきたいです。そして、日本を世界に誇れる『エンタメ大国』と、自信を持って言えるような取り組みをしていきたいです。そのためには、テレビ離れの進む若者世代にいかにコンテンツを観てもらうかが鍵になってくると思います。そこで、サイバーエージェントでは『デジタルで制する』ということをFanTech事業の根底に置いています」(伊達氏)

コロナ禍で失われたものや制限がかかったものは数えきれないほどあるが、筆者はその中の1つに「エンタメの制限」があると思う。

数々のライブや舞台の中止、毎年恒例の夏フェスの中止、相次ぐライブハウスやカラオケの閉店……など、その業界で働く人たちに甚大な被害があったことは言うまでもないが、突然趣味を奪われた私たちもまた大きな影響を受けた一人だったのではないだろうか。

しかし、今回のお話を伺って、どんな状況でも一人でも多くのファンを喜ばせるために「エンタメは日々進化している」ということに気付かされた。

エンタメとテクノロジー。 一見すると遠い存在にも思えるようなこの2つの言葉だが、もしかしたら「1人でも多くの人を笑顔にするために日々進化する」という同じ特徴を持った言葉なのかもしれない。