Web3×エンタメの先駆的な取り組みを通じて見えてきた課題の考察を通じて推し活の未来を考える本連載。今回は1、2年ほど前に爆発的な注目とお金を集め、スポーツ業界を驚かせたファントークンを取り上げます。
スポーツ界を熱狂させたファントークンという新しいコンセプト
暗号資産の次にエンターテインメント業界に広がったWeb3関連技術はファントークンでした。
ファントークンとは、第三者が発行する暗号資産と異なり、スポーツチームが自らブロックチェーン技術を用いて発行したチームの独自トークンを販売し、購入したファンはその保有状況に応じて「ユニフォーム選択に対する投票権」など、チームが用意した各種特典をもらえる、というビジネスモデルです。
チームはトークン販売によりお金を集められることに加え、オーナー意識を持ったトークン保有者たちとの交流を通じてファンエンゲージメントの向上も期待できる、一挙両得のサービスとして注目を集めました。
ファントークンの先駆者であり世界的に最も成功しているサービスはChiliz(チリーズ)です。2019年にサッカーチームのユベントスとパリ・サンジェルマンが独自のファントークンを発行したことを起点として、暗号資産バブルを背景に急成長。現在ではFCバルセロナを含む80以上のスポーツチームが参加しています。
トークン価格に見合うサービスとは?
しかしながら、ファントークンの価格は2022年を境に軒並み下落し、チームとファンにとっては必ずしも期待通りの成功を収められているわけではないというのが現状です。
これはバブルを牽引した流入資金の多くが、本当のファンではなく投機家によるものであったことが主要因といえます。ですが同時に、最も根源的で、普及に向けて解決しなければならない課題は「トークン価格に見合うだけの特典を提供できるチームが存在しないこと」と私は考えています。
端的に言ってしまうと「100万円で購入したトークンで何に投票できたとしたらファンは満足するだろうか」という問いに答えられるファンサービス担当が存在するのか、ということです。
さらに日本を含む多くの国で、ファントークンを決済手段として利用することは禁止されているため、チームとしてはどれだけ価値あるサービスを提供したとしてもトークンは回収できず、トークンを保持し続けるオーナーたちから際限なくサービスの提供を求められてしまうという状態にあります。
つまり、最初はトークンを発行するだけでお金をもらえるものの、その後は高品質なサービスを無償、かつ、無制限に提供し続ける義務が発生するという、誤解を恐れずに言えば返済方法が規定されていない「サービス対価の前借り」のようなモデルになってしまっているのです。
もちろん、将来的な改善により持続性あるサービスへと進化する可能性は全く否定しません。しかし、少なくとも現時点では、徐々に見返りとなるサービスの提供が尻すぼみとなり、コミュニティによっては音沙汰がなくなるようなチームも散見されます。このようなケースでは当然、ファントークン価格は大幅に下落し、ファンエンゲージメントもブランド力も失墜してしまうというあまり喜ばしくない結末を迎えることとなります。
持続性あるモデルの確立に向けて挑戦中
この課題を解決する方法は非常に難しく、私は明らかな解決への道筋を見つけられていません。思いつく限りでは、法律改定が前提となりますが、販売したファントークンを地域通貨のような決済手段にしてしまう、もしくは株式のように営利事業との連動性を持ったものにする、といった方法があります。
いずれも一定の現実性はありつつも、近年ファントークン周辺で発生してきた価格の高騰の要因として裏付けるには力不足であり、残念ながら参加していたファンや投機家の期待に応えられるアイデアとは言えない、というのが自己評価です。
考察を進めておきながら、良い解決策を提案できずに非常に申し訳ないです。反論や良い案があると思っているので、意見をいただけると嬉しいです。特に、類似のモデルであるIEO(Initial exchange offering)が注目を集めていることから、個人的にはこのような取り組みを通じて解決策が提案されることを期待しています。
なお、蛇足となりますが、トランザクション手数料を収益とするChilizは価格の下降も利潤と成せるため、さながらゴールドラッシュ中のスコップ売りのように営利事業としては間違いのない大成功と評価するべきでしょう。近年ではトークン販売を通じて獲得した莫大な手数料を元手に、FCバルセロナのデジタル担当子会社など、トークン発行元の株式を購入するような大胆な動きも見せており、次の展開に注目が集まっています。
ファントークンはとてもWeb3らしい、画期的なビジネスモデルです。しかし、その分、過去に例がないため解決策を見出すことがとても難しいものといえます。今後、どのようなアイデアが生まれてくるのか、期待して見ていきたいと思います。
次回は、2021年ごろに爆発的な人気を誇ったトレーディング型のNFTを取り上げます。