BTSの歴史的な活躍ぶりはもはや説明不要でしょう。彼らはアジアで過去一番の世界的なPopularityを獲得してきました。しかし、その実績以上に特筆すべきは、その実績を生み出した世界的にも類をみない熱狂的なファンたちの行動にあります。

ARMYのファンダムネームで知られるBTSファンの米国の女性たちはカメラに向かって「Wannamake them proud(彼らの誇りになりたいの)」と叫びながら慈善活動に取り組んでいるのです。BTSとARMYは「ファンが消費ではなく共創を楽しむ」というどんな世界的なアーティストでも過去、築けなかったような特異な関係性を築いています。そして私はいま彼女たちのなかに次のファン活動の未来を感じてワクワクしています。本連載ではこのようなエンタメや企業に対する新しい「推し方」を「推し活3.0」と銘打って、各社の新しい取り組みを追っていきたいと思います。第一回の本稿では、少し過去のファン行動を振り返ることでBTSの偉業と新しいファンダムの在り方への解像度を高めていきたいと思います。

Webは「リアルで盛り上がるコンテンツ」を生み出した

Webの誕生はプロ野球チームに「チケット料収入」という古くて新しい概念への注目をもたらしました。その先鞭を切ったのは2004年に帰任したボビー・バレンタイン監督率いる千葉ロッテマリーンズでした。

当時、「ドル箱」と呼ばれた巨人戦の放映権収入が急速に縮小するなか、球団は経営危機に直面していました。オリックスと吸収合併した近鉄バッファローズに続き、福岡ダイエーホークスと合併に向かう球団に強い危機感を抱いていた経営陣は「強いチームでも10回に4回は負ける。その4試合でも楽しめるかが重要だ」と声高に叫ぶ指揮官と強く共鳴し、それまで日本のプロ野球界ではほとんど注目を浴びることのなかったチケット料収入やファンの滞在時間に着目し、CRMを軸とした改革に取り組み始めました。

当時普及し始めていたインターネットとCRMシステムを駆使してコアファンに情報やコンテンツを発信し、球場ではアーティスト顔負けのステージを披露するなど、勝っても負けても変わらずに楽しめる「ボールパーク構想」を展開することで、観戦頻度を飛躍的に向上させました。結果、31年ぶりの日本一を達成したチームの躍進も相まって、2006年の取り組み本格化からわずか3年間で380%の売り上げアップを達成。この大成功をお手本に改革を続けたプロ野球界はまるでテレビ放映と反比例するかのように観客動員数を伸ばし続け、Webでつながったコアファンを中心に「リアルで盛り上がるエンターテインメント」を作り上げたのでした。

「イベントネイティブなアーティスト」を生み出したWeb2.0

2010年代になるとこの変化は音楽界へと波及しました。マスメディアの視聴率とCD売上が激減するなか、人気を博したのはももいろクローバーZやBABY METALをはじめとした圧倒的なライブパフォーマンスで熱狂を作り出す能力に長けた「イベントネイティブなアーティスト」たちでした。

Teenagerとなったデジタルネイティブなミレニアル世代たちは、当時普及し始めたYoutubeやTwitterを介して新たなスターの息吹を感じ取り、ネット上で知り合った仲間たちとともに会場に押し寄せ、ネット上で感動を分かち合い、必ずしもマスメディアには登場しない(多くの場合、一般には知られていない)新たなスターを生み出していきました。業界ではいま「ドームを埋められるアーティストはもう生まれない」と囁かれています。5万人を集めるような誰もが知っているマスアーティストではなく、1万人の熱狂的アンバサダーたちを生み出すアーティストが数多く生み出したことがこの時代の特徴の一つと言えるでしょう。

SNSネイティブなZ世代はいま、ARMYとして新たなファンダムを築き上げている

Memedays調査の「Z世代の将来に関する意識調査」によると、SNSネイティブなZ世代たちは、なりたい職業No1に「インフルエンサー」を選ぶほど、ファンとしてエンターテインメントを消費することに飽き足りず、一人のクリエイターとしてアーティストと共に創作活動を始めています。

そのパイオニアとなっているのが前述のBTSとARMYです。ARMYは防弾少年団(通称:BTS)の名前に込められた「10代・20代に向けられる社会的偏見や抑圧を防ぎ、自分たちの音楽を守り抜く」というコンセプトや彼らの活動、歌詞に自らの日々の葛藤を照らし合わせ、強く共鳴しています。曲を聴き、日々発信される動画コンテンツを鑑賞するだけでなく、BTSをラジオ局に売り込み、韓国語のコンテンツを各国の言語に翻訳するなど、BTSの成功に寄与するためのあらゆる活動を展開してきました。

また、ARMYたちは人種差別やいじめ、貧困などといった社会問題に対して特に強いエネルギーを発揮します。21年、Black lives matterが社会現象となり、BTSが1億円を寄付することを公表するとわずか25時間で同額の寄付を集めてしまうなど、ARMYはBTSが目指す世界に向けて消費者ではなく一人のクリエイター、メンバーとして率先してムーブメントを作り上げているのです。BTSのメンバーはライブ中、ときおりARMYの声を聴く時間を取ります。まるでBTSは自身の楽曲やパフォーマンスではなく、ARMYとの絆がBTSだと主張するかのように。

Z世代がWeb3と出会ったとき、次のカルチャーが花開く

そんなARMYをはじめとした、生まれながらにしてクリエイターとして育ってきたZ世代が世界の民主化を加速させる可能性を持ったWeb3と出会ったとき、どのようなムーブメントが起きるのでしょうか。BTSが所属するBig hit entertainmentはWeb3企業を買収するなど、既にその先鞭を切っています。

本連載ではエンターテインメントに限らない、ファンダムの先進事例を追いかけることで、 Web3と次の推し活の在り方を探っていきたいと思っています。次回はWeb3の技術的側面からファンダムの次の姿を見ていきたいと思っています。ご興味を持っていただいた方はフォローいただけると嬉しいです。