(6)セットアップ&ホールド・トリガ

クロックに同期してデータを読み取る多くのデジタルICにとって、クロック・エッジの前後の一定時間幅において、データのロジック値が変化しないことが、安定した動作の必須条件です。これらの時間幅はセットアップ時間とホールド時間として、ICのデータ・シートに規定されています。

<使用例>:メタ・ステーブルやグリッチなどの異常波形が観測された場合、このセットアップ&ホールド時間違反もその原因の1つとして考えなければなりません。クロック・エッジに対してデータのロジック値が安定していることを確認する作業が必要です。ところが、多くの場合1クロックに対して確認できるのは、1データなのです。データは複数ですので、多数のデータから一本を選び時間違反を確認し、この作業をデータの数だけ繰返すのはとても時間がかかります。そこで、1クロックと複数のデータを同時にオシロスコープに接続して、多チャンネルの時間違反を一度に監視することができるオシロスコープが重宝します。一度接続し、データ・シートに記載されたセットアップ時間とホールド時間をトリガ条件に設定したら、後はトリガがかかるのを待つだけです。

セットアップ&ホールド・トリガ

(7)立上り/立下り・トリガ

CMOSへの入力が(HIとLOの)中間電位に留まる時間が長いと、大きな貫通電流が発生します。この貫通電流により電源電圧変動が生じ、回路動作を誘発することもあります。これを避けるため、CMOSのデータ・シートにおいて入力信号の立上り時間を規定しています。こうした原因が疑われる場合、立上り/立下りトリガは有効です。

<使用例>:稀に発生する不具合の原因の1つとして、入力信号の立上りが遅すぎることが疑われる場合、CMOSの入力波形をオシロスコープに入力し、「立上り/立下りトリガ」を選びます。データ・シートに記載された立上り時間をトリガ条件に設定したら、後はトリガのかかるのを待つだけです。

立上り/立下り・トリガ

(8)ビデオ

PALやNTSCやHDTVのようなビデオ信号に対して、このトリガにより指定した特定のラインやフレームやフィールドを表示することができます。映像信号を扱う機器において不具合が発生した場合や設計通りの動作をしているかを検証する場合、このトリガ機能が活躍します。例えば、特定ラインにおける波形を表示させ、その形とパラメータ(パルス幅や立上がり時間など)を確認することにより、設計を検証することができます。

ビデオ・トリガ

(9)バス・トリガ

組み込みシステムにおいては、コントロールにI2CやCANなどの低速シリアル通信信号を用いたデバイス(ICやユニット)が多く存在し、設計者の負荷を軽減し設計の効率化とボードの小型化に寄与しています。長い年月使われ続けているパラレル・バスに加え、シリアル・バスがボード上のデバイスをコントロールする主役になっています。ところが一旦、不具合が発生し、それらデバイスの動作を確認する必要が生じた場合、デバッグは困難を極めます。旧世代のオシロスコープには、パラレル・バスはもちろんシリアル・バスにトリガをかける機能がありません。バス・トリガがあれば、バスを流れるデータの内容によりトリガをかけることができますので、飛躍的にデバッグを効率化できます。

<使用例>:バスを流れるデータの内容によりトリガをかける機能は、多くの場合、データの内容をデコードし表示する機能と同時に供給されます。この2つの機能を合わせた使い方は非常に自由度が高く、強力です。

例えばI2Cにおいて、特定のデバイスに対してなされた特定の動作が疑われる場合、バスを構成する信号をオシロスコープに入力し、「バス・トリガ」を選びます。バスのアドレス値(特定デバイスに相当)とデータ値(特定動作に相当)をトリガ条件に設定したら、後はトリガのかかるのを待つだけです。

トリガがかかれば、疑わしい動作が画面の真ん中に表示されます。と同時にデータの内容も表示されていますので、その動作が設計者の意図した動作であるかどうかすぐに分かります。動作が意図しないものなら、原因究明も可能です。なぜならば、時間的に古い時点に原因があり、そこから時間が経過した時点で異常波形が生じる訳ですので、画面の中央から左側(時間的に過去の部分)に、異常を引き起こす原因がひそんでいることになるからです。表示する時間幅を長くしたり、怪しいとにらんだ別波形を別チャンネルに表示し同時観測したりすることにより、デバッグを進めていくことができます。

バス・トリガ

著者
稲垣 正一郎(いながき・しょういちろう)
日本テクトロニクス テクニカルサポートセンター センター長