新型コロナウイルス感染症の到来は、オフィスの在り方を再定義する大きなきっかけとなった。
オフィスをなくし完全リモートワークに移行する会社や、あえてオフィス環境に投資しハイブリッドワークを実現する会社など、取り組みは十人十色だ。「出社する場所としてのオフィス」の時代は終わり、世界中の企業はオフィスに新たな付加価値を見出そうとしている。
本連載では、先進的な働き方・オフィス構築を行っている企業に潜入し、思わず「うらやましい」と声を漏らしてしまうその内容を紹介していく。本連載が、「これからのオフィスどうしようか……」と考えている読者の手助けにもなれば幸いだ。
第2回となる今回は、インフルエンサーやタレント、アーティストなどのファンコミュニケーション活動を支えるやファンコミュニティプラットフォーム「Fanicon」を運営するTHECOOのオフィスを紹介する。同社の代表取締役 CEO 平良真人氏とFanicon事業本部 ビジネス開発部 部長 寺戸悠樹氏に話をうかがった。
オフィス内に2つの配信スタジオ?
THECOOは、2022年8月22日に事業の拡大と従業員の増加、独創的なエンタメのイマジネーション促進を目的として原宿へオフィスを移転した。
YouTuberやInstagrammerで活躍するインフルエンサーやアーティストの存在が事業の中核を担うTHECOOでは、他の企業とは異なり「スタジオ」という施設の設備がオフィス移転の鍵になっていたようだ。
「場所についてはさまざまな可能性を考えましたが、配信の際に活用しているメインのスタジオが新宿にあるため、元のオフィスからそれほど離れていない場所に決めました」(平良氏)
また今回の移転に伴い、同年の9月末からオフィス内に2つのスタジオをオープン、配信活動をはじめとするエンタメのイマジネーションの促進をこれまで以上に図っていきたいという。
新設されたスタジオは2つある。1つは、レコード屋をモチーフにしたトーク配信、番組収録、対談、物販など多様な用途で活用できる「GONDORA RECORDS」。もう1つは、ネオ居酒屋をモチーフにしたトーク配信やスタジオ全体を使用したファンコミュニティ限定イベントの開催、番組収録などの用途で利用できる「空中酒場」だ。
前述した通り、THECOOには新宿にも配信専用スタジオ「BLACKBOX³」があるのだが、新設したスタジオには、新たに「気軽さ」と「リアリティ」が備わっているのだという。
「スタジオをオフィスに併設することで、『気軽に配信できるスタジオ』を実現することができました。特に、空中酒場はスタジオ内にバーカウンターやカラオケなどが設備されているため、お酒を飲みながらトーク配信を行うことができ、より自由で素に近い配信者の素顔を見せることができると思っています」(寺戸氏)
また、リアリティについては、スタジオの新設を担当した清水彩加氏が以下のように語っていた。
「空中酒場はスナックとして運営できるくらい本物に近い雰囲気を再現しました。配信することだけを考えると、こだわるのは見える範囲だけで良さそうですが、あえて全方位を本物らしく作ることで『よりリアルな世界観』を生み出せていると思います」(清水氏)
しかし、本物を追求すると配信ルームとして使いにくくなってしまう部分もある。そのため、配信環境として欠かせない防音対策や照明器具の設置などは特に注意して作られており、エンタメだけでなく「リアリティ×利便性」のあるスタジオになっているようだ。
会議室の名前は「POP」、遊び心満載の執務エリア
THECOOのオフィスは配信者が使用するスタジオ以外にも、社員の働く執務エリアにもエンタメ要素がたくさん散りばめられている。
まず目を惹かれるのは、個性豊かな会議室だ。THECOOでは、会議室にはそれぞれ「JAZZ」や「PUNK」、「HEAVY METAL」と音楽の種類にちなんだ名称がつけられている。また、会議室の内装も各音楽の雰囲気に合わせたものになっており、遊び心が感じられるとともにイマジネーションが湧き立てられる仕様になっている。
その中でも筆者が1番目を奪われたのは、「POP」の会議室だ。「POP」の部屋は「J-POP」を意識して造られている。「和風」であることをコンセプトに作られたこの会議室には、畳と襖が張られており、壁には掛け軸が掛かっているという非常にユニークな造りになっている。
フォトジェニックな空間のため、普段はクリエイターのミーティングスペースや配信などに使用されることが多いようだが、ビジネス部門の社員が会議を行うこともあるそうだ。
また、「JAZZ」の会議室は、リビングルームのような雰囲気を感じさせる造りになっている。部屋全体に置かれた大きなソファーや温かみのある照明、観葉植物などがまるで家にいるかのような落ち着きを与えてくれる。
このように、THECOOのオフィスはエンターテインメント業界の企業にふさわしく音楽の要素がたくさんあり、会議室以外にもそれは見て取れる。例えば、普段社員たちが打ち合わせや雑談などを行っているフリースペースには、前のオフィスのエントランスに飾られていた社名パネルをデザインに取り入れた大きなスピーカーが置かれている。
実際にここで音楽を流してリラックスムードを高めたり、楽しく雑談をしたりすることも多いようで、エンターテインメントに関わる企業ならではの「仕事を楽しむ気持ち」が伝わってくる。
憧れの職業を裏で支えるオフィス
2022年3月に第一生命が全国の小学生・中学生・高校生3,000 人を対象に行った「大人になったらなりたいもの」調査の小学生男子部門では、野球選手や医師、警察官といった人気の職種を押さえて「YouTuber/動画配信者」が2位にランクインしている。
それだけ身近な職業として定着しつつある「配信者」という憧れの仕事の裏には、日々エンターテインメントの可能性を探し、より配信者たちを輝かせるために試行錯誤を繰り返すTHECOOのような企業がある。
毎日エンターテインメントにあふれる環境でその限界に挑み続ける「配信者」を裏で支えるが企業があるからこそ、子どもが「大人になったらなりたい」と憧れる存在を生み出すことができるのではないだろうか。
そんなエンターテインメントの最前線が詰まったTHECOOのオフィスの今後の発展から目が離せない。