これまで本誌は大分県、佐賀県など、さまざまな自治体が進めるDX(デジタルトランスフォーメーション)についてお伝えしてきた。新潟県は「暮らし」「産業」「行政」という3つの柱の下、DXに取り組んでいることから、本連載では、新潟県が推し進めるDXに迫る。
第1回は新潟県が進めるDXの全貌や「行政DX」を紹介した。第2回となる今回は、土木部の皆さんに「土木DX」について伺った。土木部が手掛けるDXは、「建設業におけるICT活用の普及促進」と「デジタル技術等を活用した公共インフラの点検等の省力化・効率化の推進」を目指している。
県民・業界・職員の三方良しのDXを
丸山氏は、土木部がDXに取り組む背景について、次のように説明した。
「建設業は現在、人材不足、高齢化、2024年問題、罰則付き時間外労働規制、老朽化するインフラ施設の増大への対応、激甚化・頻発化する災害への対応など、さまざまな課題を抱えています」(丸山氏)
新潟県特有の課題を聞いてみたところ、「面積が広いため(全国で5番目)、管理する施設が多い」「自然災害が多い」「積雪量が多い」という答えが返ってきた。「道路、橋、河川などの管理が必要ですし、冬は除雪しなければならないので、人手が必要です」と丸山氏。
こうした課題を解決するため、土木部ではICTを業務に取り入れるとともに、労力・時間などの負担を減らすことで、建設業の生産性向上を支援することにした。
丸山氏は、DXによって「安全・安心な暮らしができる県土の保全(県民よし)」「建設産業の持続的発展(業界よし)」「生産性向上による持続可能な組織体制の構築(職員よし)」の「三方良しを目指します」と話す。
土木DXの具体的な取り組みとして、「ICT活用工事」「バックオフィスDX 支援」「BUILD NIIGATA(建設産業の魅力発信、人材の確保)」を進めている。以下、それぞれ紹介しよう。
年々利用が増えている「ICT活用工事」
河村氏は、「建設業では、人手不足と高齢化が進んでおり、若い人が少ないです。その一方で、インフラのメンテナンスや整備にかかる業務はたくさんあります。こうした課題に、生産性を向上することで対処しようとしています」と、あらためて建設業が抱える課題について語った。
建設工事においては、「測量」「設計・施工計画」「施工」「検査」という工程においてICTを活用することができる。具体的には、「ドローン等による3次元測量」「3次元測量データによる設計・施工計画」「ICT建設機械による施工」「検査の省力化」が行える。
また、国土交通省は、5つの施行段階でICTを活用する「ICT活用工事」を提唱している。具体的には、「3次元起工測量」「3次元測量設計データ作成」「ICT建機による施工」「3次元出来形管理等の施工管理」「3次元データの納品」の5つのプロセスすべてにおいて全面的に活用することとしている。
新潟県には「ICT活用工事」として、「ICT活用施工」「ICT建機による施工」「簡易型ICT活用工事」の3つの発注方式がある。河村氏は「いきなりすべての段階でICTを活用することは難しいです。3次元設計データ作成、3次元出来形管理等の施工管理、3次元データの納品から始めることをお勧めしています」と、河村氏は語る。
新潟県のICT活用工事の詳細は新潟県技術管理課ホームページで公開されている。ICT活用工事を使ってもらうため、工事成績評定と総合評価落札方式で評価している。平成28年からICT活用工事の取り組みが始まり、年々件数が増えている。
ICT活用工事に取り組んでいる企業からは、「複数人でやらなければならなかったことが少ない人数でできるようになった」「作業時間が減った」といった意見が上がっているそうだ。
ICTは使ってもらうとそのよさはわかってもらえるが、使ってもらうまでが一つの山と言えるだろう。河村氏は「私たちのミッションはきっかけ作りと思っています。初期投資はありますが、長期で見た場合のメリットなどを訴求していきたいです」と語っていた。
「バックオフィスDX支援」で技術者育成を支援
土木部は「2024年問題」への対応として、令和4年度から建設業のバックオフィスの効率化も支援している。具体的には、研修と補助金助成を行っている。
研修事業では経営層向けの「意識醸成研修」、企業のDX担当者向けの「知識習得研修」を実施している。「意識醸成研修」は、DXの必要性を認識しているものの取り組めていない企業の経営層などが参加しているそうだ。「知識習得研修」は約100名参加可能で、毎年参加している企業もあるという。
補助金は、令和4・5年度と令和6年度で内容が変更された。令和4・5年度はシステム導入に対して補助していたが、令和6年度は技術者をサポートする人材を育成する取り組みを補助対象とした。技術者サポート人材の補助金は、建設ディレクターや無人航空機操縦士の育成に活用した事例がある。
丸山氏によると、今まで外注していたドローンの運用を自社で行う企業が増えているとのこと。「ドローンで上からよく見えることから、建設現場でかなり普及しています。竣工前と後の写真撮影、測量などに、ドローンが活用されています」と同氏は説明した。
さらに、補助金を活用した企業による事例発表会も開催されている。小誌でも事例を紹介する記事は人気があるが、参加した人からは「建設業のDXの取り組みを聞けるのは満足」という声が届いているそうだ。
「BUILD NIIGATA」で若い人に建設業のよさをアピール
最後に紹介する取り組みは、にいがた建設産業魅力発信ポータルサイト「BUILD NIIGATA」だ。このサイトは、建設産業への就職を考えたことがない高校生・大学生等の若者をターゲットに、3Kから新4K(給与・休暇・希望・かっこいい)へと変化する建設産業のイメージ向上を図り、就職につなげることを目的としている。
石田氏は、「建設業は人手が不足していることに加え、若者の入職が進んでいません。そこで、建設業への就職を考えたことがない高校生や大学生に対し、建設業のイメージを変えることで、就職につなげたいと考えています」と話す。
同サイトでは、建設業の業種紹介に加え、建設業で働く人のインタビュー、学生による企業の取材記事、企業の取り組みなどを紹介している。サイトを見てもらうとわかるが、若手の職員が自分の言葉でわかりやすく建設業について語っているので、建設業の魅力が伝わるコンテンツが集まっている。
今後の目標は「公共インフラの点検の省力化と効率化」
今後の展望について伺ったところ、丸山氏は公共インフラの点検の省力化と効率化を挙げた。同氏は2つの取り組みを紹介した。
1つは、AIを活用したダム管理の高度化だ。AI流入量予測システムを導入して、事前放流の円滑な実施と緊急放流の開始予告の精度向上を目指す。令和6年度は、ゲート操作により洪水調節する10ダムのうち、比較的流域の大きい6ダムでシステムを構築、令和7年度出水期から運用を予定している。既往洪水の雨量と流入量の関係を学習したAIにより、84時間先までのダム流入量や貯水位等を予測する。
「ダムの役割である治水と利水は相反する作用があるので、一定の水をためておかないといけませんが、その判断が難しい。ここにAIを活用して、予測の精度を上げて水を放流して豪雨に備えます」と丸山氏は話す。
もう1つの取り組みは、新たな技術を活用した舗装点検だ。これまで専用の車が現地でひび割れやわだち掘れ、ラインの点検を行っていたところ、カメラなど画像計測が行える機器を車に搭載して、AIにより判定を行う技術を活用する。「技術開発が進んできたので、効率よく点検ができるように活用しています」と丸山氏。今年度から、導入を開始するという。
人手不足という建設業共通の課題に加えて、自然豊かな新潟県ならではの課題にも取り組む土木部。今年、続々と新たな取り組みが始まっているので、その効果に期待したい。