NECは、「SX-ACE」に続く新スパコン「SX-Aurora TSUBASA」を2017年10月25日より発売している。しかし、中小型の「A100シリーズ」ならびに「A300シリーズ」の提供時期は2018年2月以降、大型の「A500シリーズ」に至っては2018年の7~9月とされており、現在、やっと手に入るようになったという時期で、最新型のスパコンという位置づけである。
なお、NECのプレスリリースやWebを探してみたが、この原稿の執筆時点では、顧客に出荷されたという記述は見つからなかった。
これまで、SCなどの学会での発表は開発を率いた百瀬慎太郎氏が行なわれることが多かった。しかし、このHot Chipsでの発表スライドには百瀬氏の名前も書かれていたものの実際に登壇されることはなく、もう一人の発表者として名前が挙がっていた山田洋平氏が発表を行った。
PCIeカードに搭載されたスパコン
SX-ACEまでのこれまでのNECのSXスパコンは、ベクタエンジン(VE)と同じチップに集積されたスカラプロセサでNEC製のOSを動かしていた。これがSX-Aurora TSUBASAでは、別にx86プロセサを付け、ここでLinuxを動かすという構造に変わった。と言うよりは、x86サーバにPCI Express(PCIe)カードの形でベクタエンジンを付けるという構造になった。
物理的な構造はともかく、独自アーキのプロセサではオープンソフトが集り難いので、標準OSを使うという道を選択したと考えられる。
そして、いわゆるスパコンと呼ばれる大規模システム向けだけでは、売れる台数はしれている。このため、小規模なシステムも安く作れるように、x86の部分は普通のx86サーバとし、ベクタエンジンをPCIeカードに搭載するというアプローチをとった。
これらは大きな方針の転換は、小規模システムまでカバーして販売台数を増やすという観点からみて正しい方向であると思う。しかし、これらはNECのSX-Aurora TSUBASAの売れ行きを増やすための必要条件であるが、十分条件となっているかどうかは分からない。
実は、SX-Aurora TSUBASAの開発を率いてきた百瀬氏は、今年、ドイツNECに転勤された。開発は一段落したので、今度はヨーロッパでSX-Aurora TSUBASAを売ってこいという人事であると思われる。
SX-Aurora TSUBASAの特徴
SX-Aurora TSUBASAはx86サーバにPCIeカードに搭載したベクタエンジンを取り付けるという構造になっている。x86 CPUとVEは1対1ではないが、VE数が増えると仕事も増えるのでx86の個数も多く必要になる。このため、4VE、8VEのマシンでは2個のXeon CPUを搭載している。
次の図では、Linux OSはx86で実行されるが、アプリケーションはすべてVE側で実行されると書かれており、コンパイルされたアプリケーションの命令はVEの中のスカラプロセサとベクタプロセサで実行される。なお、VEを制御するVEOSはLinux上で走るソフトウェアであり、VEのOSはx86で実行されるとのことである。
SX-Aurora TSUBASAはスケーラブルが売りであり、64個以上のVEを搭載するスパコンモデルであるA500シリーズ、ラックマウントの薄型サーバ筐体に2個~8個のVEを搭載するA300シリーズ、そして、1VEだけのデスクサイドタワーモデルのA100シリーズがある。
A500は40℃の水を使って冷却する水冷であるが、A300シリーズ、A100シリーズは設置が容易な空冷となっている。
(次回は9月6日に掲載します)