マーケティングで使われる用語を解説する本連載。初回となる今回は、そもそも「マーケティングとは何か?」から始めてみたい。

マーケティングの定義

マーケティングの定義にはさまざまなものがあるが、世界中のマーケターが根拠とする資料としては、American Marketing Association(AMA:米国マーケティング協会)のものが知られる。AMAはマーケティングを次のように定義している。

Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large.

訳:マーケティングとは、顧客、クライアント、パートナー、社会全体にとって価値のあるオファリングを創造し、コミュニケーションを行い、提供し、交換するための活動、一連の制度、およびプロセスである。

  • American Marketing AssociationのWebサイト

    American Marketing AssociationのWebサイト

時代と共に変化しているマーケティングの定義

この定義は時代の変遷と共に変化している。過去に遡ると、1940年に最初の定義が制定されてから、1960年、1985年、2004年、2007年と4回の改訂を経て現在に至る。上記の定義は2007年のものであるが、2013年7月に再度承認された最新のものとなる。

AMAによる定義は、マーケティングが顧客のニーズを満たすことを目的とした継続的なプロセスであり、そのプロセスが組織とその顧客およびその他の利害関係者に価値を創造するものであることを明確に示すものである。

とはいえ、多くの人にとって、この正式な定義の文章は複雑に見えるであろう。AMAはこの説明のわかりにくい部分に補足説明を加えている。

まず、価値を提供する対象として「顧客、クライアント、パートナー、社会」としたのは、さまざまなステークホルダーに価値を提供しなければならないことを意識してのことだという。例えば、クライアントという言葉には、営利組織だけでなく非営利組織でも価値を提供するべきという考えが反映されている。

また、パートナーが意味するところは、コンサルティング会社のようなアドバイザーはもとより、サプライヤー、卸売業者、小売業者まで幅広い。さらに、社会全体とあるのは、自社だけが利益を得られればいいという利己的な姿勢ではなく、周辺のコミュニティ全体に利益を還元するという社会的責任を果たす姿勢を組織に求めてのことであるという。

次に、気になる「オファリング(提供物)」の意味についての説明はないが、製品やサービスだけでなくプロモーション、提供形態、価格を包括するものと理解できる。というのも、オファリングに続く「創造し、コミュニケーションを行い、提供し、交換する」にマーケティングミックスの考え方が反映されているからだ。

マーケティングミックス

マーケティンングミックスと言えば、多くのマーケターが連想するのは、1960年代にフィリップ・コトラー(現ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院SCジョンソン特別教授)が提唱した4P(Product(製品)、Price(価格)、Promotion(プロモーション)、Place(チャネル))であろう。「創造」は、課題を抱える市場に対し、解決策を提示する製品、サービスの開発を意味し、コミュニケーションはプロモーションの方法、提供はチャネル、交換は価値に対する対価を受け取る行為のことであり、価格を意味する。

最後の「活動、一連の制度、およびプロセス」でわかりにくい「一連の制度」とは、マーケティングの仕事の中で使うさまざまなツール、プラクティス、アプローチやメカニズムを指すという。ツールの最たるものはテクノロジーであろう。プラクティスは先行企業が実施して成功した参照可能な事例、アプローチは収益化という目的を達成するための戦略的な方法、メカニズムはその手段を意味する。

AMAは短い一文の中に21世紀のマーケティングのあるべき像を盛り込んだことがわかる。日本企業では、海外の企業のようにCEOに直接レポートするCMO(Chief Marketing Officer)を設置している組織は少なく、マーケティングを広告、宣伝あるいは営業支援の役割を担う間接業務ととらえる傾向がまだ根強い。しかし、この定義に込められた意味を読み解くと、本来のマーケティングの役割は極めて大きいものである。

マーケティングの組織における位置付けが弱い日本企業にとって、世界との差は圧倒的なものに感じるかもしれない。間接部門から収益への直接貢献を担う直接部門への転換は容易なことではないが、最初の一歩を踏み出す際は、世界のマーケターの考え方を理解することから始めてみてはどうか。