マン・マシン・インタフェースをテーマとした4回目となる今回は、自律制御によって動作する無人機の運用と、マン・マシン・インターフェイスの関わりについて考えてみたい。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照
ロッキード・マーティンがMATRIXの動画を公開
アメリカに、米陸軍協会(AUSA : Association of the U.S. Army)という団体があり、毎年、年次会合を開いている。といってもカンファレンスだけのイベントではなくて、メーカー各社がさまざまな装備品を展示する場にもなっている。
2024年にワシントンDCで、そのAUSAの年次会合を開催した際に、ロッキード・マーティンがMATRIX自律制御システムに関するデモンストレーションを実施した。そして、その模様を撮影した動画をYoutubeで公開している。
Command an Autonomous Black Hawk Helicopter from 300 Miles Away
なぜそこでロッキード・マーティンが登場するかというと、現在、シコルスキーはロッキード・マーティンのロータリー&ミッション・システムズ部門(LMRMS)傘下にあるからだ。
300マイル離れた場所から遠隔管制
このデモンストレーションのキモは、ワシントンDCで開催されているAUSA年次会合の会場から、コネティカット州ブリッジポートの飛行場にいるブラックホークを遠隔管制するところ。説明担当者がタブレットPCで指示を飛ばすと、それを受けてブリッジポートにいるMATRIX自律制御システム搭載のブラックホークが自律飛行する。
動画のタイトルには300マイル(約480km)とあるが、Google Mapsで実測すると、もう少し距離が短いように思える。それはさておき。
ロッキード・マーティンの説明によると、LMRMS部門のボス、ステファニー・ヒル(Stephanie Hill)氏が「離陸~ホバリング~周回飛行~着陸」という内容の指示を送った。ちなみにステファニー・ヒル氏は、パイロット資格は持っていないそうである。
確かに、タブレットPCで「行先」と「タスク」を指示するだけなら、操縦操作を行うわけではないから、パイロット資格は必要ない。管制用のタブレットPCを用意して、それの操作方法を覚えれば実現可能である。
となると実は、「パイロット資格がなくても操縦できる」一方で「パイロット資格がないような人でも間違いなく操作できるようなマン・マシン・インタフェースが欲しい」という話になるのではないか。
あと、実際問題としては飛行計画を立案する部分で、しかるべきスキルを持った担当者をアサインする必要があろう。
自律制御はスプリット・オペレーションの難易度低下にも効く?
自律制御ではなく、地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)から遠隔操縦する場合、GCS側の操作は一般的な飛行機の操縦と同じになる。だから当然、パイロット資格を持つ人が無人機のオペレーターとなって、GCSにつく必要がある。
そして、機体が見通し線圏外まで進出したら、GCSと機体を結ぶ通信は衛星通信に頼らざるを得ない。すると以前からあちこちで書いているように、伝送遅延という問題は不可避であり、それを踏まえて操縦するという難しいスキルが求められる。
その代わり、機体の発進・回収と任務飛行を別々の場所にいる別々のGCSに担当させる分担も可能になる。スプリット・オペレーションとは、そういう意味である。
MQ-1やMQ-9のスプリット・オペレーションでは、衛星通信リンクを確立するというハードウェア面に加えて、操縦の難しさというソフトウェア的な課題にも向き合わなければならなかった。強引にこじつければ、これも人と機械のインタフェースという問題ではある。
しかし、自律飛行ができるMATRIXみたいな制御システムが実用品まで仕上がれば、こうした課題はなくなるか、少なくとも緩和されそうではある。
そして、機体が自律飛行で飛んでくれるのであれば、管制用のタブレットPCがある場所と機体が離着陸する場所が同じである必然性はない。両者の間にセキュアな通信網を確保すればいい。まさに、AUSA年次会合でデモしたように。これもまた、一種のスプリット・オペレーションである。
すると、任務計画立案の担当者と、その任務計画を受けてタブレットPCで機体に任務の指示を飛ばす担当者をひとつところにまとめて、機体の方はあちこちの “現場” に近い場所に前方展開させる……そんな運用もあり得よう。その場合、全体状況を俯瞰しながら最適な任務計画を立てて実行できる利点が出てくるかもしれない。
ただし、機体の動向をモニターするための通信手段は欲しいところ。何か状況が変わったり、想定外の事態が発生したりして、「割り込み」をかけなければならない場面は起こり得るからだ。また、輸送用なら飛行状況をモニターするだけで済むが、ISR (Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)用途の機体ではリアルタイムのセンサー・データが欲しい。
だから、「自律制御になれば衛星通信は要らない」といいきれるかといえば、そこは疑問がある。
なお、衛星通信でGCSと無人機をリンクするスタイルは同じでも、自律制御を活用してオペレーターのワークロードを下げている事例はある。これについてはまた、別の機会があれば紹介したい。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。
