第597回で、BAEシステムズが手掛けているHMD(Helmet Mounted Display)付きヘルメットの話を取り上げたときに、音声警告の話にも言及した。「僚機の操縦士が無線で喋った声が、僚機がいる方向から聞こえる、といったことが可能になる」という内容であった。

脅威の存在を聴覚的に把握する

そのとき、「レーダー警報受信機(RWR : Radar Warning Receiver)の警告音を脅威の方向から聞かせるようなことも可能ではないか」と書いたのだが、それを実際にやっている機体がある。

それが、米空軍のF-16で導入を進めている3Dオーディオ・システム。まず2024年11月に900万ドルで発注、続いて2025年10月に1,050万ドル・170セットの追加発注があった。これで累計受注は310セットになるという。

  • 2025年9月に開催された「三沢基地航空祭2025」で、米空軍F-16ファイティング・ファルコンが不活性弾を投下したデモンストレーションの様子 写真:US Airforce

    2025年9月に開催された「三沢基地航空祭2025」で、米空軍F-16ファイティング・ファルコンが不活性弾を投下したデモンストレーションの様子 写真:US Airforce

この3Dオーディオ・システムは、通信機、インターコム、警告用トーンで構成する。また、ノイズ低減の機能も備えているというから、警告音声を明瞭に聞き取る役に立つと思われる。

これを手掛けているメーカーは、デンマークを本拠地とするテルマ(Terma A/S)のSPS(Self-Protection System)部門。テルマは防衛電子機器の分野では著名なメーカーのひとつで、レーダー製品や電子戦機器の分野で知られている。F-16向けに、さまざまな電子戦機材を手掛けてもいる。

ベトナム戦争の頃から、地対空ミサイルの脅威に対抗するため、RWRの搭載が一般化した。敵の対空機関砲や地対空ミサイルが射撃管制レーダーを作動させれば、その電波を逆探知できる。複数のアンテナを用意して位相差を調べれば、脅威の方位を計算できる理屈となる。

普通、その情報は計器盤に設置したディスプレイに表示する。円形のディスプレイを用意して、その中心が自機。そして脅威の方位に輝線を表示するとか、脅威の方位を示すブリップ(輝点)を表示するとかいう使い方をする。併せて、警告音を発する。

これで、脅威がどちらに存在するかは分かる理屈だが、ひとつ問題がある。計器盤に視線を落として、ディスプレイを見なければ、脅威がどちらの方向にいるのかが分からない。

3Dオーディオを使う際の条件

ところが3Dオーディオを活用すれば、「脅威の方から警告音が聞こえる」といった仕掛けを実現できるから、計器盤に視線を落とさなくても、どちらに脅威が存在するかを直感的に把握できる。

計器盤に視線を落とすということは、その間は外部の警戒や捜索がお留守になるということだから、戦闘機乗りにとっては嬉しい話ではない。外を見たままでも脅威の存在や向きを教えてもらえるのであれば、その方が嬉しい。

ただし、この仕掛けが能書き通りに機能するためには、ひとつ、重要な仕掛けが必要になる。戦闘機のパイロットは常に真正面を向いているわけではなくて、視覚で周囲を捜索して状況を把握するために、首をグルグル動かして周囲を見ている。

だから、頭の向きを検知するシステムを併用しなければ、3Dオーディオによる脅威警告は画餅と化してしまう。といってもこれは未知の技術ではなくて、すでにHMDとの組み合わせで多用されているものだから、それを活用できる。

第597回で取り上げた、BAEシステムズのHMD付きヘルメットであれば、もともとHMDのために頭の向きを検知する仕掛けが必要になるので、それを利用すればよい。では、米空軍のF-16は?

スコーピオンHMDとHObIT

実は、米空軍のF-16についてはHMDの能力向上計画もある。タレス・グループのタレス・ディフェンス&セキュリティが米空軍から、F-16ブロック40/50向けに導入するスコーピオンHMDを受注している。

  • タレス・ディフェンス&セキュリティが米空軍から、F-16ブロック40/50向けに導入するスコーピオンHMDを受注。写真の中の丸く囲われているエリアに写っているのがスコーピオンHMD

    タレス・ディフェンス&セキュリティが米空軍から、F-16ブロック40/50向けに導入するスコーピオンHMDを受注。写真の中の丸く囲われているエリアに写っているのがスコーピオンHMD

これは、すでに使用しているJHMCS(Joint Helmet Mounted Cueing System)の代替用。頭の向きをトラッキングするところでは、HObIT(Hybrid Optically based Inertial Tracker)という仕掛けを使う。名称からして、光学的に追跡するのだろうと読める。

JHMCSではヘルメットのバイザーに情報を投影するが、スコーピオンはバイザーの内側、パイロットの右目の前に小さなディスプレイを設置しており、そこに情報を投影する。見た目はAH-64アパッチのIHADSS(Integrated Helmet and Display Sight System)と似ている。

理屈の上では、そのスコーピオン用のHObITから頭の向きに関する情報をもらえば、3Dオーディオによる音声警告を実現できると考えられる。しかし、実際にどうしているのかについては、テルマのプレスリリースでは触れられていない。

現実問題として、HMDと3Dオーディオ・システムのために、それぞれ別個に頭の向きを検出するシステムを導入するのは、スペースと重量と経費の無駄であろう。ただ、テルマの3Dオーディオ・システムがタレスのHObITから情報をもらおうとすれば、両者の間でインターフェイス情報の開示が必要になる。

もっとも、頭の向きに関する情報を外部のソースに頼ることになれば、それはそれでシステム・インテグレーションの手間が増える話でもあるし、自由度を減らす原因にもなりかねない。リーズナブルなコストとスペースと重量で、自前のトラッキング・システムを用意できるのであれば、その方が良いという考え方もあり得よう。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。