ひところと比べると話題にならなくなった感がある「自動車の自動運転」だが、軍事分野で取り組みを進めている事例がある。民間向けとして、街中で自動運転を行うのと比較すると、軍事の場合、容易になりそうな部分もあれば、面倒くさそうな部分もある。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照
レイセオン×オシュコシュ×フォーテラ
RTXが2025年3月25日に、「無人化して自律走行するミサイル発射機を用いて、実射を伴うデモンストレーションを実施した」というプレスリリースを出した。場所はカリフォルニア州のフォート・アーウィンのようだ。これには「ディープストライク(DeepStrike)」という名前がつけられている。
ただ、ややこしいことに、以前に別のディープストライクがあった。そちらは、MGM-140 ATACMS(Army Tactical Missile System)の後継となる地対地ミサイル開発計画に対して、レイセオンが提案していたもの。この件では結局、ロッキード・マーティンが開発したPrSM(Precision Strike Missile)が採用されている。
今回のディープストライクは、レイセオンが開発するミサイルとミサイル発射機、オシュコシュ・ディフェンスが用意する車両、フォーテラ(Forterra)が開発した自律制御技術を組み合わせて、「操縦手が要らない、自律運転が可能なミサイル発射機」を仕立てた。
陸戦分野では以前から、車両の無人・自律走行化を追求する動きがある。ただし当初の取り組みは、物資輸送用のトラックを無人化できないか、という趣旨が主体だった。背景事情として、イラクやアフガニスタンで輸送車両隊が襲われる問題が続発した件がある。
しかし今回の取り組みの対象はミサイル発射機。それに昨今では、不正規戦とか非対称戦とかいう掛け声は影を潜めて、グレート・パワー・コンペティション、つまり大国の正規軍同士で行う交戦に軸足が戻ってきている。
すると、無人化、自律走行化の狙いも違ったものになっている可能性が高い。 ミサイル発射機であれば、より敵地に近いところまで進出できる方が好ましい。しかしそうなると、脅威度が高い場所に送り込むことになる。それなら、人命の損耗を気にしなくても済むように、無人の方が良い、という考えがあるのかもしれない。
米海兵隊はJLTVの自律化を模索
それを裏付けるかのような動きもある。米海兵隊では現在、RGM-184A NSM(Nytt Sjønomålsmissil / Naval Strike Missile)対艦ミサイルを車載式の発射機に載せる、NMESIS(Navy Marine Expeditionary Ship Interdiction System)の導入計画を進めている。
その車載式の発射機はROGUE-FIRES(Remotely Operated Ground Unit for Expeditionary Fires)というが、ベースになっているのはオシュコシュ製の4×4車両、JLTV(Joint Light Tactical Vehicle)だ。これに、フォーテラの自律制御システムを組み合わせて自律走行化できないか、という話が出ている。
そもそもNMESISは、スタンドイン・フォース、つまり敵勢力圏内にある島嶼に乗り込んで、対艦ミサイル、巡航ミサイル、地対空ミサイルを用いて敵軍の行動を掣肘する手段として構想された。危険なところに乗り込む前提である。
そうした部隊は、ひとつところに留まり続けると敵の攻撃に晒されやすくなるので、ゲリラ的にヒョイヒョイと場所を移るようにしようと考えている。すると、より少ない人手で、よりコンパクトな部隊を編成する方が好ましい。その一環として、ミサイル発射機の自律走行化を考えたのであろうか。
考えられる課題
ディープストライクにしてもROGUE-Firesにしても、自律制御を手掛けるのはフォーテラ、車両を手掛けるのはオシュコシュ、と同じコンビである。車両は既製品を使うから、そこにポン付けして自律化できる自律制御システムを実現できるかどうかが鍵を握る。
もうひとつの課題として、自律走行そのものがある。戦地で使用するものだから、整備された道路の上だけを走るわけではないし、事前にマーカーを埋め込んでおくこともできない。そんな条件下で、進むべき道を自分で判断して進んで行ける仕組みができなければ、モノにならない。
すると、前方の路面状態や障害物の有無を調べて、その場で進むべき方向を判断して操縦する、そんな自律制御システムが必要になる。
その自律制御システムを手掛けているフォーテラという会社。あまりなじみがない名前なので調べてみた。紛らわしいことに、同名でまったく異なる事業を手掛けている会社がいくつもあって混乱させられる。
問題のフォーテラは、「軍用、あるいは民間用の自動運転技術、ロボット技術を開発している会社」で、旧社名はRRAI(Robotic Research Autonomous Industries)。米NIST(National Institute of Standards and Technology)の科学者が中心になって創業したという。
フォーテラに改称したのは2024年だが、創業は2002年というから、もう四半世紀近くにわたって自律制御技術の開発に取り組んできたことになる。そして、国防総省のさまざまな自律制御プログラムに関わっているという。
一方のオシュコシュも、米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)が2005年に開催した無人車競走イベント「DARPAグランド・チャレンジ(第2回)」に出場、規定時間内のゴールはできなかったが、「TerraMax」テクノロジーをひっさげて参戦した。2007年に行われた「DARPAアーバン・チャレンジ」でも、他社とチームを組んで参戦していた。
つまりフォーテラにしろオシュコシュにしろ、自動運転車両については長い取り組みがあるわけだ。それがようやく花を咲かせようとしている、のかもしれない。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。


