米国によるベネズエラに対する軍事作戦では、特殊部隊がヘリコプターでマドゥロ氏の邸宅に乗り込んだと伝えられている。そこで今回は、特殊作戦用のヘリコプターを取り上げてみたい。実は、求められる機能・能力は戦闘捜索救難(CSAR : Combat Search and Rescue)に使用するヘリコプターと共通する部分が多いのだが、特殊作戦機の方が、よりアグレッシブな使われ方をする。
特殊作戦ヘリコプターの真髄は隠密潜入
そこでまず、特殊作戦ヘリコプターとはそもそも何者なのか、という話から。
陸軍の特殊作戦部隊というと、敵地に隠密裏に潜入して、情報収集・監視・偵察、対反乱戦あるいは反乱の支援、さまざまな工作活動などを行うものである。それを支援するのが、特殊作戦ヘリコプターの主な仕事となる。
まず、隠密裏の潜入や脱出を自分の足で行うのは大変だし、移動にかかる時間が長くなる。それに、携行できる装備や物資が限られてしまう。すると、ヘリコプターに乗って潜入・脱出したり、ヘリコプターで物資の追送補給を実施したりというニーズが発生する。
もちろん、こうした任務は隠密裏に実施できる方が好ましい。敵軍と撃ち合いながら乗り込んだのでは、もはや潜入ではない。そして、ヘリコプターなら離着陸できる場所の選択肢が広い。建物の屋上に降着して兵員を降ろす、なんていう真似ができるのはヘリコプターだけだ。
固定翼機だと滑走路がなければ離着陸できないから、人員ならパラシュート降下、物資ならパラシュート投下するしかなくなる。第一、ガタイが大きい上に地形に紛れた隠密飛行ができない固定翼機では、隠密潜入そのもののハードルが高い。
さて。隠密裏に敵地に乗り込むのであれば、昼間よりも夜間の方が好ましい。夜間に地形に紛れて隠密飛行を行うためには、視界を得る手段としてのFLIR(Forward Looking Infrared、前方監視赤外線センサー)、地形追随レーダーといったものが必要になる。
また、場所を間違えたら洒落にならないが、夜間の隠密潜入では目視に頼るナビゲーションは現実的ではない。だから、精確な測位・航法システムも必要になる。慣性航法システム(INS : Inertial Navigation System)とGPS(Global Positioning System)が双璧になるが、近年ではGPSへの妨害や欺瞞が問題になっている。新たな手法が出てくるかもしれない。
そして、後方の指揮所、あるいは潜入している友軍の特殊作戦部隊などと連絡をとるための、通信手段も重要である。VHF/UHF通信機はいうまでもなく、さらに見通し線圏外の遠距離通信を行うために、HF(短波)通信機や衛星通信機も欲しい。
また、敵軍が撃ってきたときに身を護る手段も欲しい。低空を飛行するヘリコプターにとって、最大の脅威は対空機関砲や地対空ミサイルだから、レーダー警報受信機(RWR : Radar Warning Receiver)、チャフ/フレア・ディスペンサー、赤外線ジャマーあたりを載せたくなる。使わずに済めばその方がいいに決まっているが、万一の事態への備えは要る。
機体の側では、航続距離を延伸するための空中給油装置や増設燃料タンク、ホバリングしながら人員を降ろしたり引き上げたりするためのホイスト、といったものも欲しい。また、エンジン排気を周囲の空気と混ぜて温度を下げるための赤外線サプレッサーも、ミサイル避けの手段として欠かせない。
特殊作戦ヘリは交戦が前提
ここまでは、実はCSAR用のヘリコプターでも特殊作戦用のヘリコプターでも共通する話である。
ただし、CSARでは「隠密裏に潜入して、敵地に取り残された友軍の搭乗員を救い出す」ことが第一の任務だから、見つからずに済めばそれに越したことはない。戦闘任務は可能な限り避けたいところ。降着場所(LZ)がホット、つまり敵軍が近隣にいて撃ってくるような場所にわざわざ降りるよりも、敵軍がいない場所に忍び込んで救出する方が好ましい。
ところが、特殊作戦ヘリコプターはもっとアグレッシブというか、戦闘任務をこちらから仕掛ける可能性もある。地上にいる特殊作戦部隊を空から火力支援するような場面だって考えられる。
そこがCSARと大きく異なるところ。それを映像で見られる事例というと、米陸軍のAH-6リトルバードが登場する映画「ブラックホーク・ダウン」がある。
こちらから戦闘を仕掛ける可能性もあるなら、当然ながら機関銃、ロケット弾、対戦車ミサイルといった兵装を載せたくなる(CSARならせいぜい、LZを制圧するための機関銃ぐらいだ)。そしてレーザー誘導ロケット弾や対戦車ミサイルを撃つためには、それを誘導するための仕掛けも必要になる。
そのため、CSAR用のヘリコプターですら機体の外部にさまざまなセンサー機器などが取り付いて「ひっつきものだらけ」になるのだが、特殊作戦ヘリコプターならなおのことである。それを極めたのが、米陸軍のMH-60L DAP(Direct Action Penetrator)ということになる。
時には支援機も必要になる
CSARにしろ特殊作戦にしろ、隠密裏に潜入して、敵に気付かれないように任務を達成できるのであれば、それに越したことはない。しかし、それができるのは都市部から外れた場所に限られよう。
市街地の上空に突入しないと任務を達成できません、ということになれば、いくら夜間でも目視されたり、音を聞きつけられたりする可能性は上がる。主要都市なら、戦闘機や防空システムが配備されている可能性も上がる。
すると、場合によっては戦闘機や電子戦機を使って防空システムをつぶすとか、敵戦闘機を排除するとか、敵軍の通信を機能不全に陥らせるとかいった支援策を講じて、“ドアを蹴破った” ところに特殊作戦ヘリを突っ込ませるような作戦も必要になるわけである。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。




