話はいささか旧聞に属するが、ロッキード・マーティンが2025年1月29日に、演習「キーン・スウォード」(自衛隊と米軍が2年に一度実施する最大規模の日米共同統合演習)における同社製品の活用について、プレスリリースを出していた。ちなみに、この演習には米軍に加えて陸上自衛隊も参加していた。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

VAWSを利用して射撃指揮データを自動的に送り込む(?)

このプレスリリースのキモは、「米海軍の特殊作戦部隊が陸上目標の攻撃を実施する過程で、仮想化イージス武器システム(VAWS : Virtualized Aegis Weapon System)を活用した」ところ。「デジタル・データの形を取る射撃指揮命令を、砲兵隊のAFATDS(Advanced Field Artillery Tactical Data System)などに送る際に、VAWSを利用することで手作業の必要性をなくした」と説明されている。

いきなり、この話だけをいわれてもチンプンカンプンなので、記事にしてみようと考えた。 AFATDSは、米陸軍と米海兵隊が使用している砲兵隊向けの火力支援統制ソフトウェアで、ABCS(Army Battle Command System)用のハードウェアで走る。名称を逐語訳すると、先進野戦砲兵戦術データシステム、となる。

火力支援の統制とは何か

例えば、最前線の友軍が強力な敵軍と対峙しているとか、目標に向けて進撃するために堅固な敵陣を抜く必要があるとかいう場面を想定してみる。すると、敵軍、あるいは敵陣地を構成する構造物を破壊する必要がある。

そこでは、榴弾砲、迫撃砲、地対地ミサイル、戦闘機などといった手段を投入して、個人携行用の武器では発揮できない破壊力をもたらす必要がある。これがすなわち火力支援。

  • 富士総合火力演習における自走榴弾砲の射撃 撮影:井上孝司

    富士総合火力演習における自走榴弾砲の射撃 撮影:井上孝司

ターゲットに応じた、適切な武器の選択が必要

ただ、火力支援を行うには「ターゲットに応じた、適切な武器の選択」が必要になる。

例えば、敵軍の補給品集積所なら面目標であり、かつ堅固な防護は施されていないだろうから、榴弾砲で高性能炸薬弾を撃ち込むか、(もし可能なら)クラスター弾を撃ち込むのが最善となる。

一方、堅固なトーチカをつぶす場面では、遅延信管を取り付けた徹甲弾を精確に撃ち込む必要があろう。極端な話、クラスター弾をトーチカに向けて撃ち込んでも、「バラ園をひっかいた」程度の効果しか得られない。ターゲットに応じた弾種を選択しなければならない。

タイミングの指示も必要

そして、火力支援を効果的に実施するには、砲兵隊やミサイル部隊などに目標を指示するだけでなく、射撃のタイミングも指示する必要がある。攻撃を発起する時間が決まっていれば、それより前に射撃任務を実施しないと支援にならない。

また、同時弾着射撃(TOT : Time on Target)を行う場面では、弾着のタイミングから逆算して、個々の砲兵に対して「いつ撃つか」を指示しなければならない。全員が同じ射程になるとは限らないから、砲ごとに撃つタイミングがずれる可能性は高い。

2006年11月にユマ実験場で行われた、レイセオン製の155mm GPS 誘導砲弾エクスカリバー・ブロック Ia-1を使用した性能・信頼性検証試験(FAT : First Article Test)では、目標情報の入力という話も出てきた。

この試験では、前線観測者が持つデジタル監視システム(FOS : Forward Observer System)がターゲットを捕捉して、その位置をAFATDSに送信した。それに基づき、AFATDSが射撃計画を立てて、エクスカリバー砲弾で撃つ目標を指示した。

すると、エクスカリバーの射撃指揮を受け持つPEFCS(Portable Excalibur Fire Control System)がエクスカリバーの誘導システムを初期化して、指定された座標をプログラムする。それを撃つと、指示した座標に着弾する、という流れになる。

こうした作業を自動的に実現して、火力支援を統制するプロセスを支援するのがAFATDSということになる。ただし統制するだけで、目標データは外部の情報源から受け取る仕組みになっている。また、前線部隊からの火力支援要請もAFATDSに送り込まれる。

火力支援のデコンフリクション

ただ、実際の射撃任務では、目標やタイミングを指示する際に追加の作業が必要になると思われる。

例えば、近接航空支援(CAS : Close Air Support)を要請する場合、呼び寄せる友軍機がどんな武器を搭載しているか、それが現場に到着できるのはいつか、といったあたりが問題になる。到着が間に合わないタイミングで攻撃を指示しても意味がない。

  • これも富士総合火力演習で。AH-1S攻撃ヘリがTOW対戦車ミサイルを発射する瞬間 撮影:井上孝司

    これも富士総合火力演習で。AH-1S攻撃ヘリがTOW対戦車ミサイルを発射する瞬間 撮影:井上孝司

また、目標指示を地上のJTAC(Joint Terminal Attack Controller、統合端末攻撃調整官)に委ねるのであれば、そちらとの調整も必要になる。「○○時に座標△△のターゲットを航空攻撃するから、それに合わせてレーザーで目標を指示しろ」といった類の話になる。

さらに、CASを担当する友軍機は別の場所から現場に向けて飛来するわけだから、飛来する経路やタイミングも問題になる。味方の防空部隊に誤射されそうな場所を通らせるのは問題外だが、砲兵が撃った弾、あるいはミサイルが飛翔するゾーンを通らせるのも危ない。

加えて、攻撃の順番を考慮しないと、「最初の射撃で発生した粉塵や煙のせいで目標が見えなくなり、その後の射撃が妨げられる」なんてことが起こり得る。

そういう問題が起きないように調整するのが、いわゆるデコンフリクションである。射撃計画を立てる際には、デコンフリクションのプロセスも不可欠となる。

具体例を挙げると。JAOC(Joint Air Operations Center、統合航空作戦センター)に陣取るBCD(Battlefield Coordination Detachment, 旧称BCE : Battlefield Coordination Element。戦闘任務の調整を担当する人のこと)が、支援を担当する航空機の経路を設定する。

AFATDSは、そのCAS機の投入計画が火力支援と干渉することがないかどうかを確認した上で、実施あるいは後回しを決めることになる。後回しにする場合、データをCTAPS(Contingency Theater Automated Planning System)に送って、後で計画を立案する際の材料にする。

と前置きが長くなってしまったので、本題であるVAWSの関わりについては次回に取り上げる。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。