前回の冒頭で述べたように、オーストラリア海軍の次期汎用フリゲート・11隻を調達するGPF(General Purpose Frigate)計画、別名Project Sea 3000で、日本の三菱重工が提案しているFFM発展型と、ドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)が提案しているMEKO A200派生型が候補に残り、前者が優先候補に選ばれた。

前回は、FFM発展型がオーストラリア海軍に選択された背景などを考察してみたが、今回は、Project Sea 3000に求められている戦闘システムについて考えてみたい。連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • 2025年のDSEI Japanで三菱重工が展示していた、FFM発展型の模型。オーストラリア向けもこの仕様である 撮影:井上孝司

インテグレーションと試験にかかる手間・経費

オーストラリアにはCEAテクノロジーズという会社があって、艦載用のレーダー製品を手掛けている。多機能レーダーのCEAFARと射撃指揮レーダーのCEAMOUNTがあり、いずれもアクティブ・フェーズド・アレイ型。すでにANZAC級フリゲートの近代化改修で導入した実績がある。

先に建造が決まったハンター級には、改良型のCEAFAR2を載せる。第345回で書いた話の繰り返しになるが、CEAFAR2はLバンド版(CEAFAR-2L)、Sバンド版(CEAFAR-2S)、Xバンド版(CEAFAR-2X)の3種類からなる。このうち、CEAFAR-2Xがミサイルの射撃指揮用であろう。これらとイージス・システムの組み合わせは史上初である。

  • ANZAC級が後付けしたレーダー・マスト。最上段にある大きな菱形のアンテナがLバンド・レーダーのCEAFAR2で、その下にある菱形のアンテナがSバンド・レーダーのCEAFAR。その横にある、縦長の四角いアンテナがXバンド射撃指揮レーダーのCEAMOUNT 撮影:井上孝司

第575回でも書いたように、イージス・システムはオープン・アーキテクチャ化が進んであり、AN/SPY-1ファミリー以外のレーダーでも組み合わせることができる。となれば、“頭脳”にあたる部分は実績があるイージス・システムを使うとしても、“眼”にあたるレーダーは自国製にしたい……そう考えるのは当然の成り行きといえる。

ところが、FFMにしろMEKO A200にしろ、CEAFARやCEAFAR2を載せた実績はない。もちろん、「オーストラリア製のレーダーを載せられますよ」という方が売り込みに効くが、システム・インテグレーションや試験・評価にかかる時間と経費をどう見るか。

レーダーが変わればドンガラにも影響する

レーダーの物理的な形状やサイズが変われば、艦の側でも設計変更が必要になる。そしてもちろん、設計段階でもモノが完成した後でも、正しく機能することを確認するプロセスも必要になる。

これもまた、時間と経費を必要として、かつ、リスクを増やす原因になり得る。そんな事情があるので、「日独どちらの案を採用するにしても、吊るしの状態で購入せざるを得ないのではないか」といった議論が出ていた。

実は、レーダーだけでなく指揮管制装置にも同じ問題がある。すでにANZAC級の近代化改修艦やハンター級でサーブ9LVシリーズを採用しているから、Project Sea 3000でも同じ9LVにすれば合理的。しかし、FFMにしろMEKO A200にしろ、これまで9LVを載せた実績はない。

もっとも、9LV自体は要するにコンピュータ機器であるから、それを艦内に設置するだけなら、そんな大騒ぎではないだろう。その9LVを、レーダーなどのセンサー群、通信機器、ミサイル兵装や砲熕兵装、電子戦装置などと組み合わせるところが問題になる。

TKMS案と三菱重工案の違い

そうした状況の中、2025年5月にシンガポールで開催された「IMDEX Asia」展示会に、TKMSはCEAFAR2を装備したMEKO A200の模型を展示していた。そこで話を聞いてみたところ、同社はオーストラリア向けにMEKO A200とCEAFAR2の組み合わせを提案しているという。

しかも同社は6月初頭にサーブ・オーストラリアとの提携を発表していた。このことは、MEKO A200にサーブ9LVを載せる考えがあったからではないかと推測できる。つまり、現地の産業基盤維持や既存装備との共通性を前面に押し出すアプローチだ。

  • ドイツのTKMSがオーストラリア向けに提案したMEKO A200型の模型。見ておわかりの通り、上構を大幅に改設計してCEA製のレーダーを組み合わせている。「CEAFARレーダーを載せる提案をしたのか?」と訊いたら「そうだ」といわれた 撮影:井上孝司

一方、三菱重工は前回にも述べたように海上自衛隊向けと同一仕様。つまり日本製のレーダーと指揮管制装置で提案を実施した。設計変更に伴う時間や費用のリスクは低減できるが、産業基盤維持や共通性の観点からするとハンデを負う。それでも優先候補に選ばれたのだから結果オーライ、ともいえるが。

オーストラリアはProject Sea 3000において、「迅速さ」と「自国の産業基盤保護」の間でどういう選択をするか、という難しい舵取りを求められたはずだ。よその国でも同じような問題は起きるのだが、ことにProject Sea 3000の場合、スケジュールがあまりにもタイトなので、その分だけ悩みが大きい。そして結局、迅速さと低リスクを優先して、仕様変更なし・吊るしのFFM発展型を選んだことになる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。