前回は、陸上で使用するレーダーなどの電波兵器に求められる要件として「移動性」を挙げた。車載式にするか、あるいは車輪をつけて牽引車で引っ張れるようにするわけだ。これは物理的な移動の話だが、陸上で移動式の電波兵器を使用すると、電源という課題もある。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

基本は電源車の同行

艦艇や航空機は自前の発電機を持っているから、そこから電力の供給を受ければ良い。では、陸上で移動式のレーダーなどを使用する場合はどうするかというと、ディーゼル発電機を一緒に連れて歩く。

野戦環境で使用することを考えれば、現地に電力供給インフラがあるという期待はできない。そもそも、移動する前提なら電力供給インフラには頼れない。その点、ディーゼル発電機があれば、トラックや戦車を初めとする各種車両と同じ軽油を燃料にできるので、燃料の補給品目が増えることにはならない。補給量は増えるが。

米軍で使用しているAMMPS(Advanced Medium Mobile Power Sources)を例にとると、出力5kW、10kW、15kW、30kW、60kWの5モデルがあり、軽油だけでなくJP-8ジェット燃料も使える。30kWモデルの場合、燃料タンク容量16.7ガロンで平均燃料消費が毎時1.59ガロンというから、満タンにすれば10時間使える計算。

ただ、ディーゼル発電機には一つ問題がある。動かすと音をたてるのである。米軍が海外展開して設置した宿営地を撮影した写真を見たことがあるが、敷地の一角にディーゼル発電機を何台も並べていた。こうなると相応に目立つし、騒音もかなりのものだろう。

それでも、宿営地は「見れば存在が分かる」種類のものだから、むやみに静粛性にこだわる必要はないかもしれない。しかし、場合によってはそういうわけにもいかないことがある。

  • 米軍が使用している可搬式発電機・AMMPS。軽油だけでなくJP-8ジェット燃料も使える 写真:US Army

タレス製のGA10はバッテリ駆動も可能

そこで登場するのが、タレス製のGA10(Ground Alerter 10)というレーダー。いわゆるC-RAM(Counter Rocket, Artillery and Mortar)用途のレーダーで、飛来するロケット弾や砲弾を捕捉追尾して、発射地点を割り出したら、着弾地点を予測などを行う。

GA10レーダーは、2個の電子機器箱、折り畳み式のマスト、それとアンテナで一式を構成しており、半径10km・全周のカバーが可能。2名で1時間以内にセットアップできるとしている。

これを宿営地に設置して、敵の砲撃やロケット攻撃があったら警報を発して避難できるようにする。そういう使い方をする。だから “Alerter” という名前が付いている。このGA10、国連がアフリカのマリで実施した平和維持活動において、宿営地に設置した実績があるそうだ。

面白いのは、レーダーだけでなくサイレンがワンセットになっていること。つまり、レーダーがロケットや砲弾の飛来を探知して、それが宿営地の敷地内に着弾しそうだとなったら、サイレンを鳴らして警報を発するわけだ。

固定的に設置した宿営地の警戒だけでなく、移動中の車両隊が停止して休養するような場面でも使える、というのがメーカー側の触れ込み。そういうときに、小型軽量で移動展開が容易にできるGA10があれば、敵の攻撃を知る役に立ちますよとアピールしている。

この製品には面白い特徴がある(だから取り上げることにした)。それは、発電機だけでなく、バッテリから電力の供給を受けられること。サイレンの方は3~5日間のバッテリ駆動が可能で、さらに太陽光発電パネルも電源に使用できるという。

バッテリ駆動が可能であれば、騒音を発生させる発電機を使用しなくても済むので、レーダーを目立たずに設置・運用できる、というのがメーカー側の説明。もちろん、バッテリの寿命が制約要因になるし、カラになったバッテリは何らかの手段で充電しなければならないが、それはまた別の問題。

バッテリ駆動にする際の課題

「バッテリ駆動にすれば発電機は必須ではありません」。仰せの通り、その通り。しかし、口でいうだけなら簡単だが、実現するにはクリアしなければならないハードルがある。

具体的にいうと、消費電力をできるだけ抑えなければならない。いくらバッテリ駆動が可能でも、消費電力が大きくて、あっという間に電力を使い果たしてしまうのでは仕事にならない。

幸い、GA10は宿営地の周辺警備に使用するC-RAM用レーダーという用途の関係から、そんなにレンジが大きくない。前述したように半径10kmだ。ということは、レーダーの送信出力もそれほど大きくならないだろうから、これは電力消費を抑える観点からすると有利な要素。

さすがに、遠距離監視が可能な大型の対空捜索レーダーをバッテリで駆動するのは、あまり現実的な話とはいえない。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第4弾『軍用レーダー(わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。