現在進行中の「艦載電測兵装」というテーマ。これまではずっと水上艦の話を書いてきたが、よくよく考えたら潜水艦もまったく無縁ではない。ということで、今回は潜水艦の話を。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • 潜水艦も、浮上航行の際に使用することがあるのでレーダーを備えている(写真では出していない) 撮影:井上孝司

潜水艦はどんな電測兵装を備えているのか

通常動力だろうが原子力だろうが、今の潜水艦は海に潜った状態が本来のもの。そして水中では基本的に、電波は役に立たない。しかし電測兵装とまったく無縁かというと、そういうわけではない。

実は、潜水艦も対水上レーダーを搭載している。例えば、基地と外洋の間を行き来する際に、浮上航行している場面。もちろん行合船と衝突したら事故が起きてしまうから、目視あるいはレーダーで見張りをしている。ただし、(過去に存在した若干の例外を除いて)対空捜索レーダーは備えていない。対水上用だけである。

次に、ESM(Electronic Support Measures)。水上にいる敵の水上戦闘艦、あるいは哨戒機や哨戒ヘリコプター。そういったものがレーダーで捜索しているところに、ノコノコとシュノーケルを突き出したら、たちまち探知されてしまう。だから最初にESMで「レーダーで捜索している誰かさん」がいないことを確認する。

なお、潜水艦にECM(Electronic Countermeasues)は必要ない。潜っている潜水艦のところにレーダー誘導の対艦ミサイルが飛んでくることはないし、飛んで来ても脅威にならない。

もちろん、無線通信のためのアンテナも必要になる。近距離用のVHFやUHFは当然のこと、場合によっては衛星通信に対応していることもある。GPS(Global Positioning System)の受信機を備えていれば当然ながら、GPS用のアンテナも必要になる。

電測兵装はみんな収納式

潜水艦の特徴は、これらの電測兵装がみんな収納式になっているところ。外部に露出させていたら抵抗が増えるだけでなく、流体力学的騒音まで増やす懸念が出てくる。潜水艦では、表面は可能な限り滑らかにするのが基本で、電測兵装も例外ではない。

どこに収納するかというと、船体の上部に突き出している(大抵は)角型の構造物、いわゆるセイルである。セイルとは本来、帆のことだが、潜水艦ではこの言葉が、違った意味で使われているわけだ。そのセイルの中に伸縮式のマストを並べて、頂部にアンテナを取り付ける。

そこで探し回った結果、米海軍のヴァージニア級攻撃原潜「デラウェア」(SSN-791)の就役式典で撮影された写真を見つけた。このときには、マスト類がみんな突き出された状態になっていたのがありがたい。

  • 米海軍の攻撃原潜「デラウェア」(SSN-791)。就役式典における撮影 写真:US Navy

まず、写真でいうと左端(艦首側)にある、他のマストよりも低いものが、対水上レーダーのようだ。降ろして収納したときに凸凹を作らないようにする目的で、上に「蓋」が付いているのが面白い。対水上レーダーは水平方向に向けて電波を出すから、上に蓋が載っていても動作の妨げにはならない。

対水上レーダーは使用頻度が低いから、これは専用のマストを用意して、どうしても使用しなければならないときだけ突き出す方が合理的、となる。こちらから電波を出せば、敵艦あるいは敵哨戒機のESMに捕捉されるのは必至であり、できれば使用は避けたいものだ。

しかし、敵に囲まれて二進も三進もいかなくなった場面など、対艦ミサイルをぶち込んで血路を開くとなれば、ターゲットの位置を確実に知るためにレーダーを作動させる……そんな場面はあるかもしれない。トム・クランシーの小説『レッド・ストーム作戦発動』では、対水上レーダーを出して二度回して捜索を行い、ソ連艦に向けてハープーン対艦ミサイルを撃つ場面がある。

なお、レーダーつながりで「ついでの話」を書くと、セイルからレーダー・リフレクターを突き出して、わざと自艦がレーダーに大きく映るようにする場面もある。ことに夜間には潜水艦の存在は分かりにくいから、レーダーに大きく映ることで行会船に自艦の存在を知ってもらい、衝突回避の一助とするわけだ。

潜望鏡と通信マスト

上の写真では、対水上レーダーの右手に、合計6本のマストが櫛比している。これらは開口部に横ヒンジの蓋を設けてあり、下げて収納してから蓋を閉める構造になっている。用途の関係で、マストの上に蓋を付けるわけにはいかないからだ。

このうち、先端部より少し下に凸凹のフェアリングが付いている2本が潜望鏡と思われる。ちなみにヴァージニア級の潜望鏡は非貫通式なので、これは要するにデジカメだ。センサーが捉えた映像は、発令所(米海軍では攻撃センターともいう)に設置したディスプレイに表示される。

その周囲にあり、上部に半球型のフェアリングが付いている3本は、通信用であろうか。その半球型のフェアリングを拡大してみると、「DO NOT PAINT」(ペンキぬるな)と書かれているように見える。海上自衛隊の艦でも、通信用アンテナのフェアリングに「ペンキぬるな」と書かれていることがあるから、これも通信用アンテナのマストであることの傍証になりそうだ。

では残り1本は何かということになるのだが、ESMのマストではないだろうか。他のマストと比べて長く、大きく突出している。つまり、その分だけ長く突き出すことができるし、突き出したときの深度を若干ながら深くとることもできる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。