今回のお題は、射撃指揮システム。砲の射撃指揮と、ミサイルの射撃指揮があり、それぞれ求められる機能は異なる。しかし、射撃指揮に使用するセンサーを艦上に設置する際の条件は、どちらも似ている。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照。
砲射撃指揮システムの仕事
対地用では誘導砲弾の事例もあるが、砲熕兵器は基本的に、撃った後は弾まかせ。だから、砲身を適切な向きに指向することが肝要となる。すると砲射撃指揮システムの仕事は、その「指向すべき向き」を割り出すことになる。
艦載砲熕兵器の場合、目標は動いていることが多い。しかも、自艦も動いている上に、洋上を走るものだから揺れる。そうした中で精確に狙いをつけなければならない。
そこで、砲射撃指揮システムはレーダー、あるいは電子光学センサーを用いて、目標を捕捉追尾する。それにより、的針(目標の針路)と的速(目標の移動速度)、そして目標までの距離を把握する。昔なら、人間が測距儀を使って、目標を手作業で追っていたところだが、今は仕事をしやすくなった。
距離が分かれば、撃った弾が着弾するまでにかかる時間が分かる。的針と的速が分かれば、目標の未来の動きを予測できるので、撃った弾が着弾する時点で目標がいるはずの位置を計算できる。これらの情報が揃えば、砲身を指向する方位と仰角を計算できる。
砲が撃つ相手を捕捉追尾しなければならないから、当然、砲を指向できる範囲と、砲射撃指揮システム(のセンサー)は、指向できる範囲を揃える必要がある。艦載砲が艦の前半分を向いているのに、それを管制する射撃指揮システムが艦尾側を向いていたのでは、仕事にならない。
ミサイル射撃指揮システムの仕事
では、ミサイルの射撃指揮はどうか。捜索レーダーで目標の捕捉追尾を行い、そのデータを射撃指揮システムに入れれば済む場合もあるが、ミサイルの誘導方式によっては追加の仕事が発生する。
それが、セミアクティブ・レーダー誘導のミサイルを撃つときに不可欠となる目標照射。艦上のレーダーから目標に向けてレーダー電波を照射すると、反射波が戻ってくる。ミサイルのシーカーが、その反射波を捉えることで、反射波を返してくる目標に向けて誘導できる。
もちろん、ミサイル誘導レーダーは全周をカバーできるように設置するのが理想的。しかし実際には、前甲板にミサイル発射機があればミサイル誘導レーダーも艦首側に、後甲板にミサイル発射機があればミサイル誘導レーダーも艦尾側に、と配置するのが一般的なようだ。
もちろん、例外もある。ことに艦隊防空艦は、自艦のことだけ考えていれば良いわけではなく、僚艦も含めて広い範囲をカバーしなければならない。すると、レーダーのカバー範囲に死角ができるのは嬉しくない。ミサイル発射機の方は、垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)の導入で全周対応になったが。
そこで米海軍のアーレイ・バーク級や海自のイージス護衛艦を見ると、艦橋構造物の上部に1基、煙突の後方に2基のAN/SPG-62従属イルミネータを配置している。これで、側方向きなら3基すべてを使えるし、真正面でも1基、真後ろでも2基を確保できる。これがタイコンデロガ級だと、前後に2基ずつと数が増える。
なお、ここで「従属イルミネータ」と書いたのは、AN/SPG-62には捕捉追尾の機能がないから。それはAN/SPY-1レーダーの仕事で、AN/SPG-62はイージス武器システムから指示された通りに首を振り、電波を出すだけである。
自己完結型のSeaRAM
ここまで述べてきたのは、武器と射撃指揮システムを別個に設置する場合の話。この場合、武器の射界確保だけでなく、それとカバー範囲を揃えられるように射撃指揮システムを置く場所を見つけないといけない。では、武器と射撃指揮システムがワンセットになっていたらどうか。
たとえばRIM-116 RAM(Rolling Airframe Missile)艦対空ミサイル。RAMはパッシブ・レーダー誘導と赤外線誘導の組み合わせ。脅威の方向に発射機を指向して、シーカーが目標を捉えたところでミサイルの発射を指令すれば終わりである。ただし、脅威の方向を知るには捜索レーダーを作動させる必要がある。
そこで、Mk.15 mod.31、いわゆるSeaRAMが登場する。RAMの発射機をファランクスCIWS(Close-In Weapon System)の架台に組み込んだもので、例のR2D2みたいなドームの中に捜索レーダーと目標追尾用レーダーが納まっている。すると、捜索・目標捕捉・交戦が自己完結する。
できるだけ広い範囲で視界が開けた場所に設置したい、という基本条件に変わりはないが、設置するメカがひとつで済む分だけマシかも知れない。そういう観点から、「いずも」型ヘリコプター護衛艦や「もがみ」型護衛艦におけるSeaRAMの設置場所を見てみるのも一興だ。
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これは「いずも」の左舷艦尾側に載っているSeaRAM。左舷側から艦尾方向にかけてをカバーできる位置にあると分かる。もう1基、上部構造物の前方にもあり、それが右舷側から艦首方向をカバーする 撮影:井上孝司
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。