2023年6月21日に、イタリア海軍の最新鋭、フランチェスコ・モロスィーニ(Francesco Morosini。艦番号P431)が、海上自衛隊の横須賀基地に来航した。見慣れた日米の艦とは異なる思想がいろいろ盛り込まれた、面白い艦である。幸いにも取材ができたので、まずは戦闘システムの見地から紹介してみたい。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • 横須賀基地の逸見桟橋に係留中の「フランチェスコ・モロスィーニ」 撮影:井上孝司

派生型を生み出したフランチェスコ・モロスィーニ

フランチェスコ・モロスィーニは、パオロ・タオン・ディ・レヴェル級の2番艦。イタリア語ではPPA(Pattugliatore Polivalente d'Altura)、「多用途外洋哨戒艦」と呼ばれている。予定建造隻数は7隻で、搭載兵装の違いにより、哨戒型(Light)、中間型(Light+)、重武装型(Full)と3種類の派生型を用意する構想だった。内訳は、Lightが2隻、Light+が3隻、Fullが2隻。

ところがその後の計画見直しにより、当初のLight型・2隻をFull仕様にコンバートすることになった。だから、最終的にはLight+が3隻、Fullが4隻となる。

それぞれ搭載兵装の陣容が異なるので、船体や上部構造はフル装備を前提とした設計となっている。そこから引き算する形で、より低烈度の任務に合わせた軽装備の派生型を生み出したといえるだろうか。そうすれば、後から装備を追加することでフル仕様にするのも容易であり、実際、そうなった。

台座、レーダー、アンテナ・アレイ設置部

フル仕様から引き算しているから、艦橋の前方にはアスター艦対空ミサイル用のシルヴァー垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)とテセオ艦対艦ミサイルを設置するスペースが確保されている。しかし、現時点でLight型のフランチェスコ・モロスィーニでは、VLSの予定地は「空地」であり、艦対艦ミサイル発射機は架台を固定する台座しかない。

  • 艦橋の前方には、艦対艦ミサイル発射機を載せる架台の台座だけがある 撮影:井上孝司

レーダーも、Light型はレオナルド製のクロノス・スターファイア(Xバンド)のみ。Light+型はクロノス・クアッド(Cバンド)のみ。Full型はクロノス・スターファイアとクロノス・クアッドの両方を装備する。設置位置はいずれも艦橋上部の構造物。

  • 多機能レーダーは艦橋上部に組み込まれるが、左右非対称配置なのが面白い。フェーズド・アレイ・レーダーのいいところで、設置位置がずれていても、計算処理で左右の位置のズレを吸収できる 撮影:井上孝司

面白いのは、アンテナ・アレイの配置を左右対称にしていないこと。4面のいずれを見ても、正対したときにクロノス・スターファイアが右側にあり、左側にはクロノス・クアッドを設置するための「空地」が用意されている。

これはおそらく、アンテナ・アレイを設置する際の艤装設計を合理化するためではないか。左右で配置を逆にする方が美観の面では有利だが、書かなければならない図面の数は倍になる。さらに前後で設計が違えば4倍になる。前後左右のすべてを同じ設置要領にできれば、図面の数は最小にできる。

そこで真横から見てみると、4面のアンテナ・アレイ設置部は前後対称に近いと見える。また、アンテナ・アレイ設置部が独立したブロックになっており、継目ができている様子も分かる。

  • アンテナ・アレイ設置部が独立したブロックになっていて、しかも前後で同じような形になっている様子が分かる 撮影:井上孝司

この上部構造物、かなり風圧側面積が大きく、操艦に影響が出そうではある。そこは、メリットとデメリットのトレード・スタディを実施した上で、この形態に決めたということであろう。

戦闘システムの構成

戦闘システムは艦内ネットワークを用意して、センサーも指揮管制装置も兵装もみんなそこに接続する。そして、センサーからのデータ処理に始まり、脅威の評価や武器の割り当て、実際の交戦といった機能を実現するソフトウェアを用意することで、さまざまな任務に対応させる。

センサーごと、兵装ごと、あるいは戦闘分野ごと(対水上・対空・対潜など)に別々のシステムを作るのではなく、すべて一元的に扱うシステムを、モジュラー設計の下で構築する。いまどきの艦載戦闘システムはだいたい、そういう造りをしている。

指揮管制装置はレオナルド製のSADOC(Sistema Automatizzatico Direzione Operazioni di Combattimento) Mk.4。もちろん分散構成で、多機能コンソール(MFC : Multi Function Console)を複数台用意して艦内ネットワークで結んでいる。戦闘情報センター(CIC : Combat Information Center)では、中央に10台、右舷側に2台のMFCを確認できた。また、同じMFCが艦橋にもある。

ただ、Light型では20台のMFCを設置しているとの話がある。見落としがあったのか、別の場所にもあるのか、あるいはフル装備になっていないのか。Light+型やFull型では搭載兵装が増えるので、それに合わせてMFCの台数も増えると思われる。

  • CIC。同じ形のコンソールが並んでいる様子が分かる。正面の大型スクリーン左右に、艦橋に通じる通路がある。つまり設置位置は艦橋の直後 撮影:井上孝司

MFCは特定の用途が決まっているわけではなく、汎用型。通信用と思われるパネル、キーボード、トラックボール、大画面ディスプレイでワンセットとなる。ユーザーIDとパスワードを入力してログインした上で用途を選択すれば、どのMFCでも仕事ができる。なにも本級に限った話ではなくて、例えば海上自衛隊の潜水艦「たいげい」型でも同じような仕掛けを導入している。

こうすると、2種類のメリットがある。

まず、特定のコンソールでなければ仕事ができない、という制約から解き放たれる。その場の状況に合わせて、もっとも具合が良い場所、あるいは手近なMFCにログインすれば仕事ができる。

次に、冗長性。どのMFCもハードウェアは基本的に共通として、ソフトウェアの変更によって機能を変えられるようにすれば、故障や戦闘被害で使えないMFCが発生しても、他のMFCで代わりを務めることができる。もちろん、台数が減れば能力発揮に制約は生じるだろうが、いきなり全滅するよりよい。

ただし、用途によっては特定の操作系を必要とすることがあるので、一部、制約が生じる場面があるそうだ。実際、一部のMFCにはジョイスティックがついているほか、外付けのキーボードやマウスを繋いでいるMFCもあった。

なお、CICは艦橋の直後にあり、この艦橋とCICで上部構造03甲板レベルのほぼ全体を占めている。その艦橋の話は次回に。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第2弾『F-35とステルス技術』が刊行された。