前回は、サーブ9LVシリーズを引き合いに出して、艦載戦闘システムに求められる要件や、基本的なシステム構成について解説した。今回はその続きとして、個別の構成要素に踏み込んでみる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • スウェーデン海軍のヴィズビュー級コルベット。もちろん、頭脳として9LV指揮管制システムを備えている 撮影:井上孝司

CICには多機能コンソール

実際に戦闘情報センター(CIC : Combat Information Center)で艦の乗組員が操作するのが、多機能コンソール(MFC : Multi-Function Console)。コンソールといっても単なる入出力装置ではなくて、これ自体が一つのコンピュータ、処理装置になっている。ハードウェア自体は同じものでも、そこで走らせるソフトウェアを変えることで、さまざまな用途に対応できる。

単体でコンピュータとして機能できるコンソールを複数用意して、ネットワークで結び、ソフトウェアの変更によって用途を変えるところは、ロッキード・マーティンのAN/UYQ-70も同じである。

  • 9LV用の多機能コンソール。上にある30インチのディスプレイは情報表示用で、操作は手前にある15インチのタッチスクリーンと、キーボード、トラックボールで行う。9LVに限らず、トラックボールは艦載コンソールで一般的なアイテム 引用:SAAB

9LVのコンソールで面白いのは、”Firing Pedal” の存在。武器の発射を指令するのに、ボタンを押すのではなくペダルを踏むということのようだ。両手がキーボードやトラックボールなどの操作でふさがっていても、足は空いているだろうから、という考え方かもしれない。

CICのイメージと作業の流れ

その多機能コンソールを配置したCICのイメージ図が以下のもの。この図ではかなり余裕のある配置になっているが、筆者が実見したヴィズビュー級コルベットのCICはこんなものではなく、コンソールがギッシリ並べられていて、かなり狭いとの印象を受けた。そもそも艦が小さいのだから無理もないが。

  • 9LVを使用するCICのイメージ図 引用:SAAB

CICでは一般的に、「対空戦」「対潜戦」「対水上戦」「電子戦」「全体指揮」といった担当ごとに多機能コンソールを配置して、各々の仕事に合わせたソフトウェアを走らせる。多機能コンソールのハードウェア自体は同じものだから、もしも故障や損傷で使えなくなるコンソールが出たら、他のコンソールで代替できる。

以下の図は、対空戦と対水上戦における作業の流れをまとめたもの。いずれも基本的な考え方は共通しており、「センサーから、探知・追跡している目標に関する情報が入る」「それを基にして脅威評価を実施する」「脅威度が高い目標に対して武器割当を実施する」と、ここまでが対空戦担当(AAWO)あるいは対水上戦担当(ASuWO)の仕事。それを受けた射撃指揮担当(FCO)が、武器管制システムを用いて実際に交戦するための操作を行う。数字は順番を意味している。

  • 艦載戦闘システムによる交戦の流れ 引用:SAAB

脅威評価とは、優先順位付けのこと。「どの探知目標から順番に叩かなければならないか」を決めるためのプロセスだ。たとえばの話、自艦の近くまで来ているミサイルがあるのに、遠くにいるミサイルを先に叩き落とそうとするのは間違った脅威評価である。自艦に真っ先に着弾しそうなものを見つけ出して、まずはそれと交戦しなければならない。

上の図を見ると、その脅威評価はシステムが実施した上で、担当者に「リコメンド」を出す形になっている。つまり、最終的な意思決定を、コンピュータではなく人間に委ねている。

こうした分野ごとの交戦とは別に、指揮官は海空の全体状況を見ながら意思決定して、交戦の指示を飛ばしたり、操艦の指示を飛ばしたりしなければならない。

艦載戦闘システムを構成する3つの基本要素

話がいささかとっちらかった感があるが、「ソフトウェアの変更で、さまざまな用途に対応できる多機能コンソール」「各種の武器とセンサー」「それらを結ぶネットワーク」「インタフェースの標準化」が、当節の艦載戦闘システムを構成する基本要素であるとご理解いただければ、目的は達せられる。

今回はたまたま手元に資料があったので、サーブ9LVの話を主体にしているが、他国の艦載戦闘システムも、似たような考えで作られている。同じ業界で同じような使い方をしていて、軍やメーカーが置かれている立場も似たようなものだから、用いるソリューションも似たものになってしまうわけだ。

そして、情報通信の分野は進化や変化が早いだけに、艦が完成した時点で搭載していたシステムを、退役までそのまま使い続けることは少なくなった。寿命中途で1回ないしは複数回、搭載システムの入れ替えが発生するのが当たり前、と考えてかかる必要がある。

それには当然ながら費用と時間を要するから、艦の運用・整備スケジュール立案でも、あるいは予算の確保でも、最初から搭載システムの更新を考慮に入れてかからなければならない。そこで財務当局あたりが「どうして、すでに完成している艦のシステムに、改めておカネを出さなければならないのだ」などと理解のないことをいいだすと、困ったことになる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。