前回は、イージス戦闘システム本体と、そこで使用するレーダーの関係について解説した。新型のレイセオン・テクノロジーズ製AN/SPY-6(V)1 AMDR(Air and Missile Defense Radar)やロッキード・マーティン製AN/SPY-7(V)では、レーダーと戦闘システムの切り分けが明確になっている、というのが本題だった。

相互運用性とは

そこで今回は、前回にもちょっと触れたが書く余地がなかった、相互運用性(interoperability)の話を取り上げてみたい。

まず、辞書的な定義である。相互運用性とは、「異なる複数のシステムを接続したり組み合わせたりした時に、全体がきちんと動作できること」という意味である。決して、「異なる複数の組織が同じモノ、同じシステムを使用すること」という意味ではない。これは、第75回でも指摘したことだ。

身近な例を挙げると、電子メールは相互運用性が問題になる典型例である。クライアントのソフトウェアも、それが動作するオペレーティング・システムも、あるいはサーバ側のソフトウェアも、それが動作するオペレーティング・システムも、種類はさまざまだ。しかし、みんな同じ標準化仕様とプロトコルに則って動いているから、「Windows 10で動作するOutlook 2019から送ったメールが、Linux上で動作するメールサーバを通じて、iPhoneで動く電子メール・クライアントに届いて、ちゃんと読める」といった按配になる。

では、艦載戦闘システムの分野における相互運用性とは何か。昔なら、戦闘システムは個艦ごとに完結していた。複数の艦が一緒に行動する場合でも、指揮官からの指令に基づいて個々の艦がそれぞれ連携しながら戦闘任務を遂行する、というぐらいの話である。

しかし現在はネットワーク化の御時世だから、艦同士、あるいは艦と航空機を交えた情報共有は不可欠だ。艦隊防空みたいな対空戦(AAW : Anti Air Warfare)任務であれば、早期警戒機と防空艦が互いに探知情報を共有する必要がある。すると、その手段となるデータリンクに相互接続性が求められる。もちろん、データの記述形式も揃えておかなければならない。

  • 現代の戦闘は、多種多様な資産同士のネットワーク化と情報共有が基盤になる 引用: US Navy

また、ミサイル防衛みたいな任務になると、衛星や指揮管制システムといった外部資産が関わってくる。早期警戒衛星が弾道ミサイルの発射を探知すると、地上の指揮管制システムにデータを送り、そこから衛星通信を介して迎撃担当の資産(イージス艦や地上配備の迎撃ミサイル)にデータが降ってくる。この流れを円滑に実現するには、データのやりとりが円滑にできるかどうかが問題になるから、やはり相互接続性の問題が出てくる。

イージス戦闘システムとデータリンク

IT分野のお仕事をされている方ならおわかりの通り、相互接続性は相互運用性を実現するための必要条件である(十分条件ではない)。では、その相互接続性に関わるデータリンク機能や情報共有機能は、艦載戦闘システムの中で、どういう位置にあるのか。

前回に書いた話と関連するが、レーダーが捜索を行い、何かを探知した場合、最終的に戦闘システムに渡されるのは、探知目標に関するデータ(トラック・データ)である。レーダーによる探知は相対位置になるから、自艦を基準にした方位と距離、それと高度の情報が出てくる。連続的に捕捉追尾することで、さらに探知目標の針路と速力に関する情報も得られる。

ここまでは1隻の艦の中における話だが、複数の艦、あるいは早期警戒機などの航空機と情報を共有する場合にはどうなるか。

イージス戦闘システムのシステム構成図を見ると、他のプラットフォームとのデータ共有を担当する機器は、ALIS(Aegis LAN Interconnect System)という艦内ネットワークを通じて、イージス武器システム(AWS : Aegis Weapon System。イージス戦闘システムのうち、AAWを担当する部分)とつながっている。

つまり、他のプラットフォームとの相互接続性とは、その、データ共有を担当する機器に関わる問題である。Link 16データリンクならMOS(Multifunctional Information Distribution System on Ship)などの端末機器がある。共同交戦能力(CEC : Cooperative Engagement Capability)なら、これはDDS(Data Distribution System)の仕事だ。

  • アーレイ・バーク級駆逐艦のマストには、データリンク用のアンテナも載っている

何をいいたいのかというと、複数の艦艇や航空機が情報共有を実現するに際して、使っているレーダーの機種は関係ないという話である。レーダーから生のデータをデータリンク機器に渡しているわけではなく、イージス戦闘システムなどの指揮管制システムが、データリンク機器を介してデータをやりとりするからだ。

つまり、前回に書いた「レーダーとC&D(Command and Decision)の切り分け」と同じ理屈で、「探知手段と情報共有手段」もまた、切り分けられている。そうしないと、探知手段の改良も情報共有手段の改良も、とてもやりづらくなってしまう。

相互運用性を実現するには、情報共有の手段以外にも統一しなければならない話がいろいろあるのだが、それは基本的に運用面の話で、少なくともレーダーの機種ではない。

ただしCECになると、「CECが求める探知精度のレベル」が高くなるので、「何でもつないでよろしい」とはいかない。ただし、イージス戦闘システム用のレーダーについていえば、現行のAN/SPY-1(D)Vでも、新しいAN/SPY-6(V)1 AMDR(Air and Missile Defense Radar)でも、はたまたAN/SPY-7(V)でも、CECとの組み合わせは可能である。

「AN/SPY-7(V)とCECの組み合わせなんてあったっけ?」と疑問に思われるかも知れないが、2021年5月に、この組み合わせをカナダ向けに輸出するとの話が、米国防安全保障協力局(DSCA : Defense Security Cooperation Agency)から公にされている。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。