今回のお題はロジスティクス。民間でもなじみ深い言葉だが、軍事組織のほうが意味が広い。ただし、軍隊用語としての「ロジスティクス」のすべてを取り上げようとすると幅が広すぎて、それだけで本が一冊できてしまう(実際に書いた)。そこで、ここでは輸送・補給がらみの話に限定する。

ロジスティクスという言葉

なぜか世間一般では、「ロジスティクス(logistics)」というと、「物流」の話ということにされている。しかし、ロジスティクスのルーツは軍事組織にあり、そこでは対象を「物流」に限定していない。

戦務支援、つまり第一線の部隊が戦うために必要とされる支援業務は、みんなロジスティクスの話に分類される。つまり、使用する物資や装備の研究開発、調達、保管、輸送、交付、整備。みんなロジスティクスである。また、医療(なぜか自衛隊では衛生という)も、ロジスティクスの一分野である。

それはそれとして。

2003年のイラク戦争の際、「糧食が届かないので食事の回数を減らされた、とぼやくアメリカ海兵隊員」というニュースが報じられたのを覚えておられるだろうか。それだけ見ると「実戦になると弱い米軍」という印象操作のツールになりかねないが、背景事情まで見てみると、興味深い話が浮かび上がってくる。

「戦場で唯一確実なのは、予定通り・計画通りには行かないということである」という金言があるらしい。事前の予測をはるかに上回る分量の弾薬を射耗してしまったとか、物資を補給しようとしたら輸送船が沈められたとか、輸送車両隊が襲われたとかいう類の話は、たくさんある。

お互いに、敵軍の作戦行動を邪魔しようとして死力を尽くしているわけだから、平時と同じ感覚で計画を立てても、その通りにいくはずもない。そこで物資補給1つとっても、どうしても冗長性を持たせてしまうことになる。

例えば、陸上で作戦行動をひとつ発起しようとしたら、事前に物資集積所を設営して、弾薬、糧食、飲料水など、必要とされる物資を大量に集積しておく。それを、集積所から最前線まで運んで、最前線にいる部隊に交付する。

ところが「もしも足りなくなると困るから」といって大量に集積すると、往々にして集積した物資が余る。それを本国に持ち帰ろうとすれば人手と輸送手段と費用がかかるし、現場で廃棄すれば無駄になる。弾薬なんかは「持って帰れないから撃ってしまえ」となりかねないが、それもある種の無駄である。

そこでイラク戦争の時に「ジャスト・イン・タイム補給」という考え方が持ち込まれた。必要な時に、必要な部隊に、必要なだけの物資を補給すれば無駄は出ないというわけだ。でも、平時の物流とは訳が違うから、そうそう計画通りには行かない。それで、冒頭で書いたように補給が滞る場面も出てきた。

民間物流のノウハウ

だから、なにがしかの冗長性は必要になるのだが、効率を高めて、無駄を減らせるのであれば、それに越したことはない。

そこで持ち込まれたのが、民間物流事業のノウハウだった。形があるものを使うわけではないが、これもひとつのCOTS(Commercial Off-The-Shelf)化である。

米輸送軍(USTRANSCOM : US Transportation Command) が検証試験を済ませたばかりの輸送業務管理システム・TMS(Transportation Management System)も、COTSの利用例に挙げられている。このUSTRANSCOMとは、陸海空軍の輸送担当部門を統括指揮する組織だ。

物流の円滑化に欠かせないのは可視化だが、そこでRFID(Radio Frequency Identifier)が登場した。個々の物資、あるいは物資を入れたコンテナなどにRFIDを取り付けて、輸送の過程で要所要所に読み取り器を設置する。こうすることで、どの物資がどこまで来ているかを把握しやすくなる。

その「民間物流のノウハウ」と「物流を可視化するRFID」の組み合わせが、結果として物資の無駄を減らしたり、補給漏れを抑制したりといった効果につながっている。

  • 物資をコンテナに入れて輸送するだけでなく、どのコンテナにどこ行きの何が入っているかを把握できなければ、効率的で確実な輸送はできない。それを実現する際の鍵がRFID。写真の例では、8個のコンテナのそれぞれにRFIDを付けた様子が示されている Photo:US Army

その代わり、RFID読み取り器や、物資の流れを管理する情報通信インフラの整備という課題が生じる。異なる軍種が組む統合作戦、あるいは複数の国が組む連合作戦になると、使用する機材やシステムの相互運用性という問題も出てくる。

この辺の詳しい話は、拙著『「戦うコンピュータ(V)3』や『現代ミリタリー・ロジスティクス入門』」で詳しく書いてあるので、興味を持たれた方は御一読いただけると嬉しい。

生産過程の効率化

ここまでは戦時における前線部隊を対象とする話だが、実はそれだけでない。装備品や弾薬などの生産でも同様に、効率化という話がついて回っている。戦闘機にしろ艦艇にしろミサイルにしろ戦車にしろ、高度化、複雑化が進んで価格も上がっているから、少しでもコストを抑える努力をしなければならない。

「高く売れるほうが儲かっていいんじゃないの?」というのは見方が浅い。コストを抑える努力をしないと、「コスト高」を理由に調達数量を減らされたり、計画そのものを中止されたりして、かえって損になってしまう。

だから、ことに航空機のように複雑で高価な装備品の生産に際しては、メーカーは「カンバン方式」だの「リーン・マニファクチュアリング」だのといったことをいっている。

そして、1つのメーカーがすべて生産しているわけではなく、多数のサプライヤーが関わっている以上、サプライチェーン管理(SCM : Supply Chain Management)も不可欠である。

F-35のごときは、部品の製作を担当しているメーカーが11カ国に散在している。当初のパートナー9カ国に、日本とイスラエルが加わったからだ。

また、最終組み立てを担当するFACO(Final Assembly and Check-Out)施設は3カ所もあり(アメリカのテキサス州フォートワース、日本の小牧、イタリアのカメリ)、仕向地によって担当が分かれる。しかも、製作する機体は3種類あり、仕向地ごとに使用するモデルは違う。

そんな複雑怪奇な巨大サプライチェーンを切り回して、計画通りに機体を完成させていくのは、並大抵の仕事ではない。そして、そういう分野のノウハウに強いのはおそらく、軍需関連のメーカーよりも民間のメーカー、例えばグローバルに事業を展開している自動車メーカーである。

2017年の末に、「ロッキード・マーティン社が、テキサス州フォートワースのF-35向けFACO施設にIIoT(Industrial Internet of Things)ツールを導入する」という話が報じられた。機体を製作する過程で使用する部材やコンポーネントや搭載機器、そこで使用するツール類の動きを可視化して、生産工程の無駄を省き、効率を高めようという狙いである。

なにしろ、このフォートワースの工場ときたら、南北の長手方向が1マイル(約1.6km)もあるという巨大工場だ。うっかりしていれば、行方不明になる小物が出てくるかもしれない。工場内を見学するのに徒歩では対応できないので、電動カートに乗せられて、連れ回されたぐらいだ。

製作する機体の数が多いだけに効率化のインセンティブも大きいし、国防総省などからはコスト削減を強く求められている。そこでIIoTツールを活用しようという流れになったのだと推測される。