昨今、自社のエンジニア主導でシステム開発の内製化を進めたいと考える企業は多い。一方で、技術の発展とともにエンジニアの専門分野は細分化されており、選択する道によって描くキャリアもさまざまだ。そんなエンジニアたちをまとめ上げ、生産性を向上させていくにはマネジメントや、組織体制がカギとなる。

本連載では、2008年にLIFULLに新卒で入社し、2017年にCTOに就任したLIFULL 執行役員/Chief Technology Officerの長沢翼氏に、エンジニアのキャリアやマネジメント、組織の在り方についてお話を伺っていく。

第1回となる今回は、長沢氏自身のキャリアについて伺うとともに、同氏が考える“エンジニアの在るべき姿”について見解を聞いた。

  • LIFULL 執行役員/Chief Technology Officerの長沢翼氏

エンジニアを目指した理由とは

――エンジニアを目指したきっかけを教えてください。

長沢氏:大学では、情報系の学部のデザイン専攻に所属し、ユーザーセンタードデザインやヒューマンセンタードデザインについて学んでいたのですが、それとは別に、システムに関連する授業でプログラミングを学ぶ機会があり、“パズルみたいで楽しい”という気持ちを持ちました。大学3年時に、地方や地域の課題を解決するプロジェクトに参加して、地域医療をテーマに病院の見学をした際、ITをうまく活用し、少し変化をさせられれば、より良くなるのではないかと感じる部分がたくさん見つかりました。人の暮らしに関することをITで良くできたら、より大きな変化を生み出せるのではないかと思い、デザインよりもITの方に面白みを感じるようになったのです。その思いを持って、LIFULLに入社し、エンジニアという職種を選択しました。

――入社当初のエンジニア組織はどのようなかたちでしたか。

長沢氏:入社当初、社内には約40名のエンジニアがいました。当時は、事業やサービスごとに部門があり、その中に営業や企画、エンジニアなどが所属するかたちでした。私は不動産売買領域の部門に所属しており、6名程度のチームだったため、1人1人に大きな裁量を持たせてやらせてもらえたという印象を持っています。

ただ、事業部門ごとにエンジニアが配置されている環境だったので、事業との距離は近かったものの、他の部門のエンジニアが何をやっているか分からない、ナレッジも共有されづらいという状況もありました。エンジニア同士がコミュニケーションをできる設計が少なかったので、その部分は解消されると良いなと考えていました。

――その後、プレイヤーからマネジャーへと進まれるわけですね。

長沢氏:はい。弊社では半年に一度、上司とのキャリア面談の場が設けられます。3年後、5年後のキャリアをどうしていきたいかという話をするのですが、私の場合、エンジニアとしてのスペシャリストを目指すのか、それともマネジメントに進むのか、決定する直前まで迷っていました。プレイヤーとしてやっていく楽しさ、課題を深掘りし解決していくやりがいはもちろんありました。

一方で、エンジニアがより事業に貢献するために、組織が変わればもっとうまくいくのではないかという気付きもあったので、当時の上司と相談し、自分が組織変革をできればと思い、マネジメントコースを選んだのです。

――いろいろと苦労もあったのではないですか。

長沢氏:そうですね。初めてグループ(LIFULLにおける組織の最小単位)長になったときは、メンバーが皆、自分よりも年上で、エンジニア歴も長く、スペシャリスト志向が強い人ばかりのチームでした。そのため、メンバーに任せる部分はしっかりと任せるというスタンスを採りつつ、組織長としての意思決定には責任を持つことを意識しました。

また、私がマネジャーになったタイミングが、データセンターをクラウドに移行するプロジェクトを開始するタイミングと重なっていました。これは従来のサイト改修などとは異なる進め方が必要なプロジェクトだったため、これまでのマネジメント方法を踏襲するだけではうまくいかないのではという考えから、いろいろと試行錯誤しましたね。

経営をリードするエンジニアとは

――先ほど「エンジニアがより事業に貢献するために」という言葉もありましたが、長沢さんはLIFULL公式ホームページでの採用メッセージでも「エンジニアとして経営をリードする考え方が重要」だと仰っています。

長沢氏:その話をさせていただく前に、弊社の企業風土についてお伝えしたいと思います。LIFULLは元々、ビジョンを非常に重視する会社です。メンバーもそのビジョンに共感し、実現していこうという考えを持っています。それはエンジニアも同じで、ビジョンの実現のために、プロダクトを良くしよう、プロジェクトを進めていこうというタイプの人が大多数です。このような風土では、プロジェクトはどんどんと進んでいき、短期的には成功し、評価をされるという状態になります。

ただし、中長期的に難しい課題に向き合える技術力が育っていたかというと、少し疑問でした。短期的な視点で見れば良い改修であっても、中長期的な視点がなければ、最終的に事業の足を引っ張ってしまう可能性もあります。それで、「しっかりと技術力をつけよう、それが経営をリードすることにつながる」と発信しているのです。

また、例えば今、生成AIが世間を賑わせていますが、こういった新しいテクノロジーの力を早く理解できるのはエンジニアです。テクノロジーを事業に取り込めるのも、エンジニアがいるから。この観点からも、新しいものをどんどんと提案したり、想像以上のものをつくったりすることで、経営をリードしていこうという思いがあります。

――では、長沢さんがエンジニアに向いていると考えるのはどのような人材ですか。

長沢氏:まずは、課題解決が好きな人ですね。エンジニアの仕事は単にプログラムを書くことではなく、特定の課題を現実的な方法で、使える状態にして世の中に出せるようにすることです。特に、自分が課題解決をしたものが人に使ってもらえることをうれしく思える人が向いていると思います。

一方で、課題を解決するという目的に対し、技術は手段です。この手段を磨くのが好きだということも重要でしょう。目的のためなら何でもありというわけではありません。このバランスは難しいのですが、手段を磨くための細かさを突き詰められる人が、個人的にはエンジニアに向いていると考えています。