Flashアニメ作家・青池良輔がクリエイターになる方法を熱く伝授する連載「創作番長クリエイタ」。連載第4回では、自分のアイデアを、絵としてビジュアル化する手法を考える。絵が下手な人でも、描く方法とは?

アイデアのビジュアル化

面白いアイデアを考え(第3回)、それを作品とするためには、そのビジュアルも考えなければいけません。プロの制作する作品であれば、企画に合わせて「誰と契約してキャラクターをクリエイトしてもらおうか?」という話になりますが、ほとんどの個人制作の場合、作者が既に身に付けている絵のテイストに合わせて、ビジュアルが決定されていく事が多いと思います。ここは、自分の個性の発揮しどころですし、自分の描き慣れている線であれば、アニメーション制作時の作業効率も最も良いはずです。

キャラクターの見た目を決める作業ですが、まず、企画時にキャラクターを描いている場合があります。また、何となく描いたキャラクターを気に入り、そこから企画が立ち上がる場合もあります。このように、キャラクターのビジュアル化の作業が、自然な流れでいつの間にか終ってしまっているというラッキーなプロジェクトなら、何も言う事はありません。でも、そう上手くいかない場合もあります。「自分の絵に、納得できる個性が反映されていない」、「誰かの絵に似ている」、「そもそも絵が得意ではない」、「企画と絵がマッチしていない」等の理由で、バリバリと制作を始めるのを躊躇してしまう要素もあると思います。そんな時は、何か一工夫が必要となります。

最適のビジュアルを描くための工夫

僕が約8年前にFlashでアニメーションを作り始めた時、僕は絵があまり得意ではありませんでした。パソコンで絵を上手に描く事ができなかったのです。「でも、修行の結果、今はそれなりに描ける様になりました」と言いたい所ですが、なかなかそう上手くいきませんでした。実際に多くのプロジェクトに関わり、繰り返し作画やキャラクターデザインをしているうちに、絵を描く技術が向上したというより、自分が欲しい絵に近づく「手段」を習得していったという感じです。

たとえば、キャラクターデザインをする時に、同じキャラクターでも、紙に鉛筆で描いてみる、PC上でPhotoshopを使い描いてみる、Illustratorで描いてみる、Flashで描いてみる。このように色々とトライしてみると、それぞれの素材、アプリケーションの癖で、同じ絵でありながら見た目の印象が変わります。さらに各ツールで違う太さのラインを使用して、その差を確認してみます。この作業を丁寧にやってみると「自分の欲しい線」を確認する事ができます。

鉛筆で紙に書いたラフスケッチのほうが、クリーンアップしたものより、上手く見える事があるかもしれません。でも、それはラフに混じった余計な線によって、なんとなくプロが描いた下書きと同じような印象が生まれたり、定まっていない線が脳内で修正され、ベストな印象を与えているに過ぎません。ビジュアルは、クリーンアップして初めて実像が見えると言ってもいいと思います。

デッサンが苦手でも、「描く」手法は無数にある

デッサンが苦手なのであれば、3Dアプリケーションを利用して、下書き用のラフを作ってもいいと思います。ワンステップ余分な手間がかかり、アニメならではのダイナミックさは出しにくいですが、正確なパースを出したいのであれば、それも手だと思います。3Dが使えないのであれば、紙粘土でキャラクターを作って、写真を撮りそれを下書き用素材として取り込むという手法もあります。更に言えば、その粘土のキャラクターの写真をアニメートする方法を考えてもいいでしょう。また、人が演技をする様子をビデオで撮影して、それをトレースしてもいいと思います。このように、デジタルツールの恩恵を上手く使いながら、それを作品に反映させてもよいのではないでしょうか? 自分がこれから作ろうとする作品の為に、「なんでもあり」と思えば、様々な方法が考案できると思います。

絵を描かれる人の中には、「頭で考えた物を、手でデッサンしなければならない」という考え方の人もいますし、僕の考え方を押し付けるつもりはありません。デッサン力があるに越したことはないのですから、その努力ももちろん必要だと思います。しかし、作品を作る上で絵を描く技術が乏しいという部分は、作品を作らない理由にはならないと思います。自分が思い描く作品に近づく為には手段を選ばずに、「自分の納得できる作品を完成させる」という目標を目指す事が大切だと考えています。

青池良輔


1972年、山口県出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、カナダに渡り映像ディレクター、プロデューサーとして活動。その後、Flashアニメで様々な作品を発表。短編アニメやCFを多数手がける。最新作はDVD『CATMAN』(2008年)、『ペレストロイカ ハラペコトリオの満腹革命』(2008年)。『藤子・F・不二雄のパラレル・スペース DVD-BOX』(2009年)では、 谷村美月主演の実写作品「征地球論」の監督と脚本を担当。