2023年1月30日、シンガポール国立大学は、イルカからヒントを得たバイオミメティックソナーを開発した、というプレスリリースを発表した。では、このバイオミメティックソナーとはどのようなものだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

小型で高精細画像処理を実現したバイオミメティックソナーとは?

では、このバイオミメティックソナーとはどのようなものだろうか。バイオミメティックとは、生物が持っている能力・感覚・形状・機能などを研究することで模倣し、工学的あるいは医学的な観点で応用することだ。そしてソナーとは、音波によって水中にある周囲の物体を探知する装置で、主に船舶で用いられている。

今回のバイオミメティックソナーは、イルカからヒントを得ているという。イルカは頭の部分にメロンという器官があり、そこから超音波を出している。そして、物体に当たって跳ね返ってきた超音波を、アゴの部分で感じ取ることで、水中における物体との距離や形を認識することができる。そして何よりも驚くべきなのが、イルカの物体認識は、人間の眼のように可視光を必要としないため、太陽の光が届かない海中でも超音波を使って行動することが可能な点である。

では、シンガポール国立大学が開発したバイオミメティックソナーをご覧いただきたい。以下の画像にある機器は、縦横25cmほどのサイズで、ちょうどイルカの頭くらいの大きさだという。薄い円柱のようなものが3つ、正三角形を形成するように配置されているのがわかるだろうか。これがソナーの音波送信機だ。この3つの送信機であらゆる方向へ超音波を放出することができ、イルカが出す超音波のような、時間幅が短く鋭い波形を作ることができる。

  • シンガポール国立大学が開発したバイオミメティックソナー

    シンガポール国立大学が開発したバイオミメティックソナー(出典:シンガポール国立大学)

このソナーで放出された超音波の反射波を解析することで、物体の形状をより高精細に認識することができたとする。その高精細化の鍵は、ハードウェアを補完するソフトウェアだとのこと。研究チームによると、このソフトウェアはスパースモデリング技術をうまく活用しているといい、このアイデアを活用している点が非常に斬新だという。

ちなみにスパースモデリングとは、希薄な情報から全体像を構成するために必要な情報を抽出し、それらを1つに組み合わせることで全体の画像を認識する技術のこと。シンガポール国立大学のバイオミメティックソナーでは、たった3回の超音波を発するだけで、対象の物体の可視化に成功したという。

  • a,bの物体を認識した際の、従来の画像処理方法(c,d)とスパースモデリングを活用した画像処理(e,f)の精細度の比較

    a,bの物体を認識した際の、従来の画像処理方法(c,d)とスパースモデリングを活用した画像処理(e,f)の精細度の比較(出典:シンガポール国立大学)

いかがだったろうか。このソナーは、コンパクトな上に高速での画像の可視化などに適した機器だ。シンガポール国立大学によると、さらに研究を進めていくことで、船舶に活用されている従来の利用はもちろんのこと、軍事や海底探査用ロボットなどへの活用を目指していくとしている。とても楽しみなテクノロジーだ。