2022年11月17日、日本製鉄は、鉄鋼スラグを活用した「海の森プロジェクト」を新たに6か所で試験開始する、というプレスリリースを発表した。では、日本製鉄の「海の森プロジェクト」とはどのようなものだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

日本製鉄の「海の森プロジェクト」とは?

まず、日本製鉄はなぜ「海の森プロジェクト」を始動したのか。同社は、日本沿岸で進む磯焼けの深刻化に注目している。磯焼けとは、浅海に生息する海藻が減少し、代わりにサンゴモのような炭酸カルシウムを主成分とする白色小型藻類が海底の岩の表面を覆い尽くすことなどが要因となり、貧植生状態に陥る現象のこと。その原因には、温暖化による海水温の上昇・水質汚濁・ウニなどの藻食動物の増加、森林からの鉄分供給の減少などが挙げられるという。

そこで日本製鉄は、磯焼け問題の解決策として鉄鋼スラグに注目。有用な藻類の生育に必要な二価鉄を多く含む鉄鋼スラグを利用し、豊富に溶け出す二価鉄を人工的に海へ供給できないかと考えたのだ。そして彼らは、「ビバリーユニット」を開発。ビバリーユニットとは、鉄鋼スラグと腐葉土を混合した鉄分施肥材で、鉄鋼スラグから溶け出した豊富な二価鉄が、錆びて沈殿することなく腐植酸鉄になることができるのだ。

この取り組みにより、実際にコンブの増加にも成功している。ちなみにこのビバリーユニットは、全国漁業協同組合連合会が制定している鉄鋼スラグ製品安全確認認証制度で安全性に関する認証を取得している。さらに、2004年から全国38か所の沿岸においてこの取り組みを推進しているのだ。

  • 鉄鋼スラグと腐葉土を原料とした鉄分施肥材「ビバリーユニット」によってコンブが繁茂した様子

    鉄鋼スラグと腐葉土を原料とした鉄分施肥材「ビバリーユニット」によってコンブが繁茂した様子(出典:日本製鉄)

そして、ビバリーユニットの効果はこれだけにとどまらず、ブルーカーボン効果も持つという。11月17日の日本製鐵による発表では、Jブルークレジットから、直近5年間の2018~2022年に吸収・固定化したCO2量(ブルーカーボン)として、49.5トン-CO2の認証を経て、クレジットの発行を受けたという。なお、漁業組合と民間企業共同での認証を経たクレジット発行は全国初だという。

また、北海道増毛町において増毛漁業協同組合と共同で実施している取り組みにおいて、別苅海岸のホソメコンブの藻場面積を測定。造成1年後の2015年には0.6haだった藻場面積が、8年目の2022年には3.3haと、約5.5倍に拡大していることを確認したという。

いかがだっただろうか。とても興味深い取り組みだ。鉄鋼スラグから沿岸の海藻を増やし、そして、ブルーカーボン効果でCO2を吸収・固定し、クレジットの発行まで受けたという。また、日本製鉄の海の森プロジェクトによる藻場再生の様子などを360度体感できる、以下のVR動画も見ていただきたい。

「海の森プロジェクト」の様子を体感できるVR映像がこちら