2022年10月25日、京都工芸繊維大学は、常温付近で成形可能な生分解性プラスチックを開発した、というプレスリリースを発表した。では、生分解性プラスチックはどのようなものなのか、そしてどのようなメリットがあるのか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
常温付近で成形可能な生分解性プラスチックとは?
京都工芸繊維大学の谷口育雄教授はマサチューセッツ工科大学(MIT)のAnne M. Mayes教授らとともに、加圧下の常温付近で成形可能な生分解性プラスチックを開発したと発表した。
では、京都工芸繊維大学の谷口育雄教授らは、なぜこの生分解性プラスチックの開発を手掛けているのだろうか。それは環境問題解決への取り組みに端を発する。プラスチックは、わたしたちの生活において必要不可欠なものだ。そのため、プラスチックの生産量は年々増加している。しかし、このプラスチックは、使用された後に適切に処理されないことにより、海洋など地球のさまざまな場所において環境への負荷が深刻な問題となっている。
そして、プラスチックのリサイクルの観点にも目を向けてみたい。多くのプラスチックは熱可塑性ではあるが、溶融成形を繰り返すことで高分子鎖の熱分解が起こるため、物性が低下してしまう特性がある。これは、プラスチックのリサイクルを妨げる主要因になっているという。
MITのMayes教授らは、その解決策として、加熱ではなく加圧によって常温付近で成形可能な高分子材料バロプラスチックを開発。ちなみにバロプラスチックとは、圧力変化によって相分離状態(秩序構造)と相溶状態(無秩序構造)間を可逆的に相転移する高分子多層系材料のことだ。
これまでMayes教授らが発表した生分解性バロプラスチックは、化石資源由来のポリカプロラクトン誘導体と再生可能資源由来のポリ乳酸からなるブロック共重合体であった。だが今回、谷口教授やMayes教授らは、とうもろこしなどの穀物とCO2から合成可能なポリトリメチレンカーボネートとポリ乳酸からなる生分解性ブロック共重合体が、加圧下常温付近で流動することを見出した。加えてそのメカニズムも明らかすることで、生分解性プラスチックとしての開発に成功したのだ。
では、今回開発した生分解性プラスチックにはどのようなメリットがあるのだろうか。まず先述したとおり、一般の溶融成形法と比べて高分子鎖の熱分解が生じないため何度もリサイクルでき、化石資源保護の観点でメリットがある。そして、CO2の排出が低減されるため省エネルギーでもあるのだ。さらに、この生分解性プラスチックは環境への負荷が小さく、もし海洋に流出しても、最終的に到達する海底の水圧で速やかに分解されると考えられるという。
なお同研究成果は、学術論文誌「Journal of Materials Chemistry A」に掲載されている。
いかがだっただろうか。この開発された生分解性プラスチックは、とてもすごい材料であることはお分かりいただけただろう。地球温暖化、プラスチックの廃棄問題という喫緊の課題を解決するための一助となる材料であり、早期の実用化が待たれる。