ワシントン州立大学は、火星のレゴリスを模擬した物質をチタン合金に混ぜレーザーで焼結した複合材料が、その含有量によっては硬度が高まったという研究結果を発表した。では、この火星レゴリスを混合した複合材とはどのようなものだろうか。また、どのようなことが期待できるのだろうか。今回は、そんな話題について紹介したいと思う。

  • チタン合金に火星のレゴリス(地表の堆積層)を模擬した物質を混ぜることで、硬度の高い複合材が製造できるという研究結果が発表された

    チタン合金に火星のレゴリス(地表の堆積層)を模擬した物質を混ぜることで、硬度の高い複合材が製造できるという研究結果が発表された

高強度な火星レゴリス複合材とは?

2022年7月24日、ワシントン州立大学のAli Afrouzian博士らの研究チームは、火星のレゴリスをチタン合金Ti6Al4Vに混ぜ、レーザー焼結法を用いて製造することで、複合材料の硬度を高めることができるという研究結果を、International journal of Applied Ceramic Technologyに掲載した。ちなみに火星のレゴリスと申し上げたが、正確には火星から採取したレゴリスではなく、その成分などを模擬した模擬レゴリスを利用している。

チタン合金Ti6Al4Vは、航空宇宙分野では古くから活用されている材料。このチタン合金のサブストレート(Ti64 sub)上に、Ti6Al4Vと火星レゴリスを混ぜたものをレーザー焼結する。火星レゴリスの混合割合については、重量にして5%(Ti64-5MMS)、10%(Ti64-10MMS)の2種類、そしてサンプルとして火星レゴリス100%(100MMS)のものを準備。これらの3種類について硬度を測定し比較した。

その結果が以下の図だ。Ti6Al4Vに火星レゴリスを混合すると硬度が増すことがわかる。また論文に直接的な言及はないが、100MMSである100%レゴリスの場合が最も高い硬度を示しているが、サブストレート上に形成された100MMSの層が200μm程度と非常に薄いことが測定結果に影響しているのではないかと示唆される。5MMSと10MMSの層はともに厚さ2mmで、100MMSの層とは大きく異なっている。

  • チタン合金Ti6Al4Vに火星レゴリスを混ぜた複合材の硬度を比較したグラフ

    チタン合金Ti6Al4Vに火星レゴリスを混ぜた複合材の硬度を比較したグラフ(出典:International journal of Applied Ceramic Technology)

また、これらの複合材の断面走査型電子顕微鏡 (SEM) 画像を確認したところ、レゴリス含有率5%のものは比較的優れた品質の高い断面を示しているが、レゴリス含有率10%の複合材と火星レゴリス100%のものには細孔と亀裂が多く存在することも確認されている。概して、火星レゴリスの含有率が増加すると細孔と亀裂も増える傾向があることがわかった。

いかがだったろうか。火星移住への未来を目にする機会も増えてきたが、それを実現するためには、火星での居住施設やインフラ施設などさまざまな材料の調達が必要不可欠となってくるだろう。その材料の調達では、地球から火星への輸送、もしくは火星での現地製造の2種類が想定される。

しかし、よく考えてみると地球から火星への輸送を完全に除外できる方法は現時点ではないと感じる。とはいえ、長年宇宙産業において活用され今回の研究でも登場したチタン合金Ti6Al4Vを活用し、製造は地球上で実施することをベースに考えるとすると、火星移住を実現するだけの量を輸送する際には、そのコストは馬鹿にならない。しかし、火星に無尽蔵に存在する火星レゴリスをうまく混合することで、硬度を高めることができる複合材を製造することができるとすれば、チタン合金Ti6Al4Vの節約にもなり、火星上での現地製造に大きな期待を持たせることができるだろう。その意味でも、火星移住に向けとても有用な示唆を与えてくれた素晴らしい研究結果であると言える。