2022年6月9日、農研機構らの研究グループは、牛のゲップであるメタンの排出量について従来の算出式よりも使いやすい新しい算出式を開発したと発表した。

マニュアルも公表し、より容易に牛のメタン排出量の個体差や飼料によるメタン排出量の違いを比較することができるという。では、なぜこのような算出式を開発したのだろうか、今回はそんな話題について触れたいと思う。

開発された新たな牛のメタン排出量の算出式とは?

農研機構らの研究グループは、搾乳ロボットなどで測定した呼気中のメタンや二酸化炭素濃度比から牛のゲップのメタン排出量を求める従来の算出式よりも使いやすい算出式を開発したと発表した。

では、なぜ農研機構らの研究グループは、新たな牛のメタン排出量の算出式を開発したのだろうか。

まず、メタンガスの温室効果ガスへの寄与が挙げられる。実は、牛1頭から1日あたり200l~800lのメタンがゲップとして放出されており、全世界ではCO2換算で年間約20億トンにも及ぶというのだ。

これは、全世界の温室効果ガスのCO2排出量で約4%~5%を占め、地球温暖化の原因のひとつと考えられているのだ。

この地球温暖化の原因の1つとなっている牛のゲップ由来のメタンを削減するためのさまざまな技術開発が必要なことはいうまでもないが、そのためには、このメタンを測定する手段も必要だ。しかし、現状、日本国内において、牛からのメタン排出量の測定手段がチャンバーを用いる標準法にほぼ限られていて、このメタンを削減するための技術開発や削減効果の検証が加速しないという課題があるというのだ。

これまで、牛のメタン排出量は、チャンバーなどを用いて測定する方法が標準とされてきた。この方法は、どういうものかというと、牛をチャンバー内に数日間滞在させ、排出されるメタンを全量測定するというもの。精度は高いが、施設の建設、維持管理などのため、コスト高となってしまうのだ。このような背景から、牛のメタンを測定できるチャンバーが限られているのが実情なのだ。

1日の呼気の一部からメタン排出量を推定するという欧州で開発された「スニファー法」は、呼気中のメタン/二酸化炭素濃度比と乳生産量などから1日のメタン排出量を推定する方法。この技術を国内のメタン削減研究の加速化につなげるために、農研機構で蓄積してきたチャンバーでの正確なメタン排出量のデータを用いて、従来スニファー法で用いられてきたものより使いやすい算出式を開発したのだ。

乳牛では、搾乳ロボット内で搾乳中に呼気を短時間採取し、1日数回、数日間連続でメタンと二酸化炭素濃度を測定。メタンと二酸化炭素濃度を測定するシステムは非常にシンプルで簡単に設置できるので、携帯可能なガス分析計を使用すれば複数の農場での測定が可能だという。

  • 搾乳ロボットでの呼気ガス測定システム

    搾乳ロボットでの呼気ガス測定システム(出典:農研機構)

ちなみに、今回開発したメタン排出量の算出式は、次の式となる。従来に比べて、変数が大幅に減少したという。

メタン排出量(l/日)=-507+0.536×体重(kg)+8.76×エネルギー補正乳量(kg/日)+5029×メタン/二酸化炭素濃度比

いかがだっただろうか。

今回開発した使いやすいメタン排出量の算出式などを含めたマニュアルを、牛のメタン排出量の削減に興味・関心を持つ研究機関、飼料メーカー、食品企業、生産者などに普及を行っていくという。

それによって、各機関がそれぞれのアイデアによってメタン排出削減技術の開発を加速していくことが期待できるだろう。