前回の記事では法人向けAPの選択ポイントとして、「干渉」について言及させていただきました。今回は「キャパシティ」について記載します。

  • 法人向けAPを選ぶ時のポイント。今回はキャパシティ

端末の数と通信トラフィックは増すばかり!APのキャパシティの違いとは?

言うまでもなく、Wi-Fiに接続する端末は増加傾向にあります。自分のPCだけでなく、スマートフォン、iPad等、一人が複数の端末を使用するのが当たり前の時代です。さらに、カメラやマイク、センサーに加え医療機器やPOS端末等が接続する、いわゆるIoT化も加速しつつあります。

また、昨今新しい働き方でのWeb会議やSaaSサービスの使用により、通信トラフィックの量も増えています。端末数の増加×通信トラフィックの増大で、ネットワーク機器への負担が激増している、というのは想像に難くないでしょう。

その状況下でも、通信を快適に行う環境を構築することは非常に重要です。

  • 端末数の増加×通信トラフィックの増大で、ネットワーク機器への負担が激増

第1回の記事で、家庭用APと法人向けAPの接続可能端末数の違いを説明しましたが、実は法人向けAPの中でも、その「キャパシティ」の面で差が出ることがあります。

では、なぜ差が出るのでしょうか?背景含め順を追ってご説明します。

まず、接続する端末数が多くなると、それに合わせて無線APも以前より密に置かなければならなくなります。そうなると元々3チャネルしかなく、Wi-Fi同士の干渉がしやすい2.4GHz帯のチャネル設計がますます難しくなります。

結果として、メーカーによっては、干渉を防ぐために一部のAPの2.4GHzをオフにせざるを得なくなる場合があります。

それは非常にもったいないですよね。なぜなら、APが本来使える2.4GHzと5GHzの片方しか使用できず、さらに、状況によってチャネルをオフにするという人の作業の手間が発生するからです。しかも、2.4GHzをオフにしたことがずっと有効というわけではありません。無線の状況は常に変化するため、最善な電波環境を保つために、都度電波のオン・オフの作業が発生する可能性があります。

ここで、もしかしたら一部の方はこう思われたかもしれません。

「チャネル数が多い5GHzだけ使えばいいのでは?」

「トライバンド(*1)を使って多くの帯域を使えばいいのでは?」と。

※1 2.4GHzを1チャネル、5GHzを2チャネル利用できるAP

もしこう思われた方は非常に鋭い視点をお持ちですが、それは少々誤解があります。

前回の記事で記載した通り、5GHz帯も主にレーダーによる干渉があるため、実質干渉がほとんどないチャネルはW52の4チャネル(36,40,44,48)しかありません。

  • 5GHz帯はレーダーによる干渉があるため、実質干渉がほとんどないチャネルはW52の4チャネル(36,40,44,48)のみ

また、古い端末や医療機器、POS端末など2.4GHzしか対応していない場合もあります。 したがって、2.4GHzと5GHz両方を効率よく使用するのがベストだと言えます。

また、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、Wi-Fiの最新規格であるWi-Fi6は2.4GHz、5GHz両方に対応しており、それも2つのチャネルを使用するべき理由の1つであるとも言えます。Wi-Fi5では5GHzしかサポートしておりませんでしたが、上述の通り現在では2.4GHz、5GHz両方で高スループットと通信の安定性を実現しています。

  • Wi-Fi企画の対応周波数

では、「トライバンド」を使っていれば良いのでは?という点においてはどうでしょうか。

ドライバンドとは、2.4GHzを1チャネル、5GHzを2チャネル利用するAPのことで、昨今流行傾向にあります。最近家庭用でも普及しており、もしかしたら耳にされた方もいらっしゃるかもしれません。

「これならすべての帯域を使えるし、5GHzを2チャネルも使えるから多くの端末が接続できる! さらには、実質AP2つ分のキャパシティを持ってるからAPの数を減らせるかも!?」と考えられる方もいらっしゃるかもしれませんが、そこも多少認識の齟齬が生じているかもしれません。

まず、当然ですが5GHz帯を1つ多く使用できるからといって2.4GHzの干渉のしやすさは変わりません。よって、結局干渉回避するために2.4GHzをオフにする必要性が出てくるため、上記記載させていただいた、機能でも作業の工数でも「もったいない」一面が出てきてしまうことになります。

また、トライバンドのAPでも電波の出力は変わりません。

AP2つ分の機能を持っていると思って今までのAP数を減らし、トライバンドのAPに集約する、ということをしてしまうと電波のカバー範囲が足りなくなってしまう可能性がありますし、過度な電波出力のよって干渉を引き起こしやすくなる可能性もあるので、ご注意ください。

  • トライバンドのAPに集約する、ということをしてしまうと電波のカバー範囲が足りなくなってしまう可能性がありますし、過度な電波出力のよって干渉を引き起こしやすくなる

それでは、2.4GHzと5GHzを効率よく活用し、キャパシティを向上させるのは一体どうすれば良いかというと、「2.4GHzの干渉を回避しつつ、場合によっては2.4GHzの電波を5GHzの電波に自動的に変更する」動作が望ましいです。

一見簡単そうに聞こえますが、周波数帯を超えたAPの出力・チャネル調整は相当綿密な技術が必要であり、一部のメーカーしか本機能を搭載していません。端末数(トラフィック)が爆発的に増える昨今の状況にしっかり対応可能なAPを選択することを推奨します。

参考までに、Cisco Wireless製品の機能である「フレキシブルラジオアサインメント」(FRA)を使用すれば、2.4GHzのチャネルが重なる場合、5GHzのチャネルに自動的に置き換えてくれるので、2つの周波数帯を効率よく使用することができます。

  • 「フレキシブルラジオアサインメント」(FRA)

いかがでしたでしょうか。

次回は法人向けAP選択ポイント最終章!「セキュリティ」編です!お楽しみに!

著者:重信 知之(しげのぶ ともゆき)

2014年IT企業入社。主に新築現場向けにPBX及びネットワーク機器を提案するフロント営業を経験。
2019年12月シスコシステムズ合同会社入社。EnterpriseNetworking製品の専任営業として着任。Router、Switch、Wirelessを主に担当し、導入に従事。特にCisco Wireless製品の魅力に惹かれセミナー、イベント等で幅広く営業活動中。