巨大化するクラウド市場とセールスフォースのビジネス

「今年の市場規模をみると、ようやく100分の1の水準にきた段階だと思っている」 - セールスフォース・ドットコムの代表取締役社長である宇陀栄次氏は、クラウド市場の現状をそう表現する。1月18日、東京・六本木のグランドハイアット東京で開催した「Partner Summit-OEM Program」における、同氏の挨拶でのコメントだ。

「Partner Summit-OEM Program」で挨拶を行ったセールスフォース・ドットコム 代表取締役社長 宇陀栄次氏

クラウド市場は、急速な勢いで拡大している。メリルリンチが予測したクラウド市場規模は、2011年には1,600億ドル(日本円で約16兆円)に達すると見ている。昨年行われたこのイベントで、宇陀社長が用いた同じメリルリンチの予測では、2011年に950億ドルの市場規模に達するとされていた。わずか1年で約1.7倍にまで市場規模予測が修正された。それだけ異例の成長を遂げているということになる。

急激に市場規模が拡大するクラウドビジネスだが、2011年には1,600億ドル規模にまで達するという

セールスフォースのビジネスもそれに伴って、拡大傾向にある。

日本郵政による郵便局2万4,000局でのコミュニケーション、ローソンによる全国8,500拠点のコミュニケーションツールとして活用されるという実績のほか、米国では、オバマ政権の発足に伴い、140万人の国民の声を政策に反映するツールとして、セールスフォースを活用。顧客の声を収集する仕組みを、短期間に、低コストで実現するものとして注目を集めているほか、みずほプライベートウェルスマネジメントや三菱UFJメリルリンチPB証券といった新会社の立ち上げでも、それぞれわずか3カ月でシステムを稼働。損保ジャパンと日本興亜損害保険の経営統合、バンク・オブ・アメリカによるメリルリンチ買収などでもセールスフォースのサービスが活用されている。

さらに、17カ国語に標準対応する強みを生かして、キヤノンマーケティングジャパンとキヤノンUSA、キヤノンオーストラリアにおけるグローバル対応のほか、日立グループ、シティグループ、デル、シスコなどが、それぞれグローバル対応でセールスフォースを活用している。

そして、昨今では、定額給付金の支給管理に甲府市など5区市町村がセールスフォースを活用。経済産業省、環境省、総務省のエコポイント制度でも活用されるなど、特別プロジェクトに柔軟に対応し、システムを早期にスタートできる点が評価されている。

現在、Force.comアプリケーションとして、13万5,000種類が用意されているが、「わずか半年前には7万5,000種類だった。いま発表している数値も、近いうちに小さな数字になるだろう」という点からも、新たな領域にアメーバのように広がっていることがわかる。

クラウド周辺にあるビジネスチャンス - セールスフォースが支援するパートナービジネス

だが、宇陀社長は「この規模でもまだまだ市場規模は小さい」と言い切る。そう語る背景には、クラウドサービスが、関連企業を巻き込むことでさらに市場規模を拡大する可能性があるからだ。

その考え方を、自動車産業を例にこう説明する。「自動車ビジネスは、自動車メーカーが車を製造するだけではなく、自動車部品、中古車市場、駐車場、自動車保険、ガソリンスタンド、道路事業など幅広い企業に影響している。一家に一台の自動車所有になったことで、建設・住宅産業にも影響を及ぼしている。これらを合計すると約130兆円もの市場規模がある。自動車関連ビジネスのコモディティ化といえる動き」と定義する。

クラウドビジネスにおいても、これと同じことが起こるというのだ。つまり、1,600億ドルのクラウド市場を中心として、さまざまな企業関連して、サービスビジネスが創出されることになる。

宇陀社長は、「IT産業とITサービス産業は違う」とし、コモディティ化によるITサービスビジネスの拡大が今後見込まれると予測。SIerやISVは、導入コンサルティングやForce.comアプリケーションビジネスの展開、SaaS連携アプリケーションの提供、ERP/DWHに関するインテグレーションや再構築といった、クラウドのまわりにある大きなビジネスチャンスを獲得することができるのだ。

自動車産業のように、クラウドのコモデティ化によるITサービスビジネスの拡大は実現するのだろうか

セールスフォースでは、日本郵政向けに、5年間に渡り120億円規模のビジネスが発生するが、これとは別にDWHで60億円規模の発注があり、この部分はセールスフォース以外の企業にとって新たなビジネスが創出されたことになったという。

「クラウドは"雲"という意味だが、Cloudよりも、知の集合体を示すCrowdのほうが適しているのではないか」と宇陀社長が語るのも、今後のクラウド・エコシステムの広がりによる市場拡大が期待できるからだ。

こうした動きを捉えるように、セールスフォースのパートナー戦略も大きく変化しはじめた。2009年12月に、OEMパートナー・プログラムを発表。CRMを除いたForce.comの機能をOEMパートナー提供。これを活用して、新たなソリューションを提供できるようになる。すでにNEC、日立ソフトウェアエンジニアリング、富士通、ジラッファ、日本オプロがOEMパートナーとして名乗りをあげており、Force.com上でアプリケーションを開発することになる。

従来のビジネスモデルは、ISVのアプリケーションライセンスと、セールスフォースのプラットフォームライセンスをそれぞれに提供していくものだったが、新たなビジネスモデルでは、セールスフォースがパートナーに対してForce.comのプラットフォームを提供。パートナーの月額サービス価格の一定比率をライセンス料として徴収するというものだ。これを活用することで、パートナー独自の製品ブランドや、料金体系で、Force.comを組み込んだサービスを提供できるようになるという。

サポート&サービスの1次窓口は、SIerやISVが対応し、セールスフォースはバックエンドサポートを行うほか、別途、第三者によるコミュニティ型でのサービス体制の構築もありうるだろうとしている。つまり、パートナーによるクラウドビジネスの広がりを支援する新たなプログラムともいえる。

セールスフォースのビジネスモデルの拡大は、パートナープログラムによってさらに加速することになる。

Force.com OEMパートナープログラムの概要

柔軟なサービス体系を選べるのもForce.com OEMパートナープログラムのメリットのひとつ