今年も量産されました

違法脱法を含め、常識外の行動や発言をTwitter上に晒す「バカッター」が流行となって久しいですが、それでもなお、今年も数多くのバカッターがネット界隈を賑わせていました。

中でも雇用企業に迷惑をかけるアルバイトによるバカッターは「バイトテロ」と呼ばれています。アルバイトが食器洗浄機に全身を投じた写真が公開された蕎麦屋は廃業し、同じく冷蔵庫に入った画像が投稿されたステーキハウスのチェーン店は閉店・撤退しており、なるほど、「テロ」のネーミングにピッタリです。

企業には被害者の側面がある一方で、「テロ」を受けた企業にまったく問題がないかというと、それはまた別の話ではないでしょうか? 今年も量産されたバイトテロを眺めていると、一抹の疑問が残ります。テロリストの味方をするわけでもなければ、IS(イスラム国)掃討作戦における誤爆を、テロと同列に語る古舘伊知郎氏を支持する気持ちも、微塵もありません。テロの封じ込めが、国際社会における喫緊の課題であるように、"バイトテロ"は封じ込められなかった雇用者側の「情報共有」と「管理責任」への不備が見て取れる事案なのです。

コンビニに潜む"バイトテロ"

直近で話題となったのは、大手コンビニチェーンでの「バイトテロ」。テロリストはコンビニのアルバイト店員で、漫画雑誌を立ち読みする客を撮影して

雑誌を買わずに読み散らかす輩って、田畑を食い荒らす害虫と同じだよね(略)。雑誌も買えない貧乏人は来るな

とツイートしていました。

彼の行為を肯定するつもりはありませんが、内容には思わず同意してしまいます。というのも、コンビニの立ち読みの劣化、というよりも悪化が目に余るからです。立ち読みを自ら勝ち得た「権利」のように、書籍棚から動かない人間が"異常繁殖"しており、購入目的で雑誌を探す客を"ブロック"する姿は営業妨害そのものでしょう。雑誌も買えないほど貧乏なのかどうかは分かりませんが、もう少し、遠慮というものがあっても良いのではないでしょうか?

600件の予備軍がいる?

話は戻りますが、"テロ投稿"はこれだけにとどまらず、彼らに対して「豚小屋に帰れ」といったものや、殺害をほのめかすような過激なコメントを書き連ねており、宅配便を受け取るためにレジで提示した運転免許証を撮影してTwitterに公開するという立派な犯罪も行っていました。当然、こうした投稿はネットニュースに取り上げられ、コンビニ本社へ問い合わせがあったために事態が発覚。その結果、"バイトテロリスト"が解雇されたのは当然の結果です。

テロリストは事件が発覚する1年以上前から、同様のテロ(バカッター)を繰り返していました。レジのカウンターから撮影したと見られる「立ち読み盗撮写真」も数多く、テロリストはずっと勤務時間中に「スマホ」を操作していたということです。

食器洗浄機に入った蕎麦屋、冷蔵庫に入ったステーキハウスも、厨房にスマホを持ち込んだ上での"バイトテロ"でした。これを逆手に取れば、職場や厨房、作業場へスマートフォンの持ち込みを厳しく制限していれば、これらのテロは未然に防げていたことになります。

「基本の確認と徹底」が重要な対策ポイントであるのは、リアルのテロもバイトテロも同じです。ついでに振り返ると、この大手コンビニは別の店舗でも同様の「店内撮影テロ」がありました。つまり、コンビニ全体として危機意識を共有していなかった「情報共有0.2」なのです。

「1件の重大なトラブルの裏には、29件の軽微なミス、そして300件のミス未満の騒動がある」という経験則をハインリッヒの法則と呼びます。ここから逆算すれば、この2件の"バイトテロ"が起きた大手コンビニには、600件の「テロ予備軍」がいるということです。情報共有が徹底されないのであれば、またしても同時多発的にバイトテロが起こってもおかしくはないのでしょうか。

嫌な話だが

さらに付け加えれば「管理責任」も問われます。店内撮影テロのコンビニは、1人で店舗運営を担う「ワンオペ」の可能性が指摘されています。コンビニはもちろん、ワンオペとなる職場には、ほぼ100%「防犯カメラ」が設置されています。

防犯カメラとは、裏を返せば「監視カメラ」で、この映像を日頃から確認していれば、バイトテロへと繋がった「スマホ利用」を発見し、対処することができたのです。また、それはワンオペ時の接客態度のチェックも兼ねるもの。それを怠っていた可能性に「管理責任」という言葉が浮かぶのです。

たったひとりでも真面目に働いてくれているはず。そう思う性善説は、「テロは起こらない」「他国が攻めてくるわけがない」という妄想と同じで、ネット上で「お花畑(平和論)」と揶揄されている"が思考停止"そのものです。

そして靖国神社のトイレで、爆弾テロが発生しました。人的被害がでなかったのは、ただの偶然で、テロリストの自滅に過ぎません。しかし、防犯カメラの映像を解析して得られた情報を、関係各所で情報共有ができていたからこそ、ノコノコと再来日してきたテロリストを拘束し、さらなるテロを未然に防ぐことができました。何かと不祥事ばかりが報じられる警察組織ですが、今回ばかりはGJ(グッジョブ)。

テロもバイトテロも100%防ぐことはできませんが、再発防止は不可能ではありません。

エンタープライズ1.0への箴言


テロもバイトテロも再発防止策が基本

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」