週刊新潮の告発

「"彗星のよう現れた"ブラック企業"」と、とあるトレーニングジムを週刊新潮が名づけていました。トレーニング中の事故や、スタッフによる窃盗などの、意地悪な仕立ては新潮らしい記事といったところですが、そのトレーニングジムは法的手段も辞さないと身構えます。

私が同社を知ったのは、今から3年ほど前で、東京ローカル局のCMだったと記憶しています。個別指導の「筋トレ」を、お洒落な印象の強い都内の若者に人気の街で行うというギャップが目を惹きました。あれよあれよと店舗を拡大し、現在全国で展開しています。

私は30年来のダイエッターで、痩身のメカニズムには多少詳しく、筋トレだけで痩せるのは困難です。まして筋肉の個体差は激しく「結果にコミット」という謳い文句に懐疑的でした。そこで1年ほど前、本稿の「ネタ」になると取材を進めたのですが断念。それは見事なまでの「ネット対策」によります。

広告料が高い理由

どんなに優れたダイエットプログラムがあっても、効果には個人差があり、必ず不平不満を持つ人はいて、いまどきその発露はネットで行われます。これが簡単には見つからないように手を打っていたのです。ネガティブなキーワードとの組み合わせでの検索に、批判的な見出しのブログが並ぶものの、そのどれをクリックしても内容は礼賛です。そして自作自演ではありません。

礼賛しているのは「アフィリエイター」でした。ブログなどに貼られた「広告」をクリックしたユーザーが、成約に至ると一定の報酬が支払われる広告「アフィリエイト」を設置する人を「アフィリエイター」と呼びます。

一人でいくつもの「礼賛ブログ」を作っているアフィリエイターもいて、彼らが悪口を言うはずもなく、むしろクリックさせるために、美辞麗句を並べます。アフィリエイトそのものに違法性はありません。

週刊新潮は「売上に占める広告宣伝費の割合は約24%」という数字を、専門家の言葉を借りて「異常」と断じますが、アフィリエイターへの報酬としてみれば突出した数字ではありません。

そもそも、その企業はネット通販で成長した企業です。ネット通販の販売を手助けする、アフィリエイターとはいわば「販売代理人」であり、業務内容から判断すれば「外注費」の性質の強い費用が、帳簿上「広告宣伝費」になっているに過ぎません。新商品の説明会に参加しただけのアフィリエイターに、1万円もの謝礼を支払っているという報告もあります。

アフィリエイターのコミット

アフィリエイターを自称するA氏はダイエットに成功したとブログで紹介しています。もちろん、随所にジムのアフィリエイト広告が貼られています。シェイプされたボディには、一定の説得力がありますが、時系列で追うとほころびが目立ちすぎます。

まず、78キロから64キロの減量!と見出しで喧伝しますが、ジムへの申し込みから開始までに1ヶ月の猶予があり、その時点で食事制限と筋トレを開始しており、開始時には4キロの減量に成功していました。

つまり、トレーニングによる効果は74キロから64キロです。それでもたいしたものですが、2カ月のプログラム終了前夜、自身のBMIにおける理想体重は62キロだったと言い始め、パーソナルトレーナーとの記念写真が貼られた最終日のブログでは、そもそもの目標は59キロだったと告白する。色んな意味でコミットしていない「トレーニングジム0.2」です。

究極のダイエットとは

A氏は引き締まったお腹の仕組みも暴露します。痩身後の写真のキャプションには「無理して引っ込めている」と正直な感想を述べ、数ヶ月後、若干のリバウンドはありながらも「キープしている」と繰り返しつつも、電気刺激で筋肉を鍛える「EMS」にチャレンジする不思議さ。

さらに機械を充てたお腹は「ぶよぶよ」です。また、短時間の筋トレも謳い文句のひとつのはずが、「割れる腹筋」を目指すなら毎日100回以上の腹筋運動をするように命じられたとも記していました。効果効能には個人差があるということでしょう。

小学校時代、肥満のため養護施設に送られた友人と、大人になってから再会すると、スリムな好青年に変わっていました。ダイエットをしたと言い、秘訣を訊ねると「食べないこと。これ以外に痩せる方法はない」ときっぱり。

規模が拡大するにつれ、アフィリエイター以外の経験談もネットで見つけやすくなったトレーニングジム。ある体験談には「食事制限が95%、筋トレは5%」とありました。なるほど、友人もそのジムのアプローチに太鼓判を押すことでしょう。

ちなみに、すでに述べたように私は30年来のダイエッター。つまりそれは「失敗の歴史」の告白です。

エンタープライズ1.0への箴言


食べなきゃ痩せる

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」