衆院予算委員会で

本稿でも取り上げた、日本年金機構へのサイバーアタックによる情報流出事件。いまだ収束の気配が見えないどころか、次々と明らかになる機構の杜撰な対応を、野党は政府への攻撃材料としています。一部報道によれば漢字文化を持つ国の影が見え、日本国へのダメージを狙った攻撃なら、国会の混乱だけでも一定の「戦果」をあげたということになります。

機構が責められるのは当然としても、野党議員の政府への批判は不毛です。なぜなら、与野党問わず、国会議員のセキュリティ意識に「致命的」な欠陥があるからです。

衆院厚労委員会の開催を阻止するためと、渡辺 博道委員長へ民主党の議員らが「乱闘」を仕掛けました。「議論」の場であるはずの国会で、暴力による支配とは「議会0.2」です。さらに渡辺氏のフィーチャーフォンが「窃盗」されます。暴力を孕んだ窃盗ですから形式上は「強盗」です。もはや「法治国家0.2」です。

政治は国民を写す鏡だとすれば、残念ながら我々は先進国の国民ではなかったようです。そしてこの強盗事件が、与野党問わず、すべての国会議員のセキュリティ意識の低さを白日の下にさらしました。

携帯ショップのGJ

まず、強盗事件を振り返ってみます。

乱闘騒ぎの直後、渡辺氏はフィーチャーフォンの紛失に気がつきます。携帯ショップに相談し、搭載しているGPS機能から探し出します。国会議員の機密が詰まったフィーチャーフォンの捜索に、渡辺氏のとった迅速な行動と、携帯ショップの対応はGJといえるでしょう。

ところが、乱闘が起きたのは衆議院分館の3階。フィーチャーフォンが見つかったのはその1階。渡辺氏曰く「携帯が歩くわけがない」とはその通り。立ち寄ったこともないエリアということで、本人による落とし物の可能性は低く、しかも自動販売機の下にあったというのですから、誰かが隠したか、蹴り入れたかのどちらか。いずれにせよ「犯人」がいるのは間違いありません。

強盗事件の被害者である渡辺氏は刑事告訴も匂わせ、フィーチャーフォンに「ラップ」を巻き、指紋などの「証拠保全」に務めていますが、これがセキュリティ意識の低さを証明しました。

国会は公の空間

「監視カメラ(システム)」の不存在です。国会内に「監視カメラ」が設置され、専従の監視員がいて、録画保存されていたなら、「渡辺フィーチャーフォン強盗事件」の犯人は一瞬で特定できました。しかし、これがないから、渡辺氏はフィーチャーフォンにラップをまいて「指紋」を保存しているのです。これでは日本年金機構のセキュリティの甘さを追求する資格などない「セキュリティ意識0.2」です。

いまやちょっとした企業なら「監視カメラ」を設置しているもので、零細企業の弊社でも設置しています。出入り口はもちろん、主要な通路や、死角を抑えることで、不審者を捕捉すると同時に、その動きを牽制する狙いもあります。

出入り口に守衛が立ち、睨みをきかしていても、セキュリティとは必ず破られるものです。人間の講じた策に万全はなく、突破されたときの対応策をあらかじめ講じておくことがセキュリティの原則で、リアルもWebも同じです。監視カメラに侵入を阻止する機能はありませんが、その存在は一定の抑止力となり、迅速に犯人を特定できれば事件の拡大を防ぐことができます。

また、今回、フィーチャーフォンが発見された場所が「自動販売機」の下で、「喫茶店」のすぐ近くだったことも問題です。

国会襲撃の見取り図

自動販売機への補充業者や喫茶店従業員の家族関係を含めたすべての状況を毎日チェックすることは不可能です。

万が一、従業員のひとりが、テロリストの手先になっていたとすれば、油をまいて火をつけることぐらいは調理場にある資材だけで容易にできます。セキュリティへの取り組みは、常に「最悪」を想定して、可能な限りの手段を講じることです。猫の子一匹すら見逃さない、監視システムがあれば、被害を最小限に食い止めることができます。

今回の事件で、なによりも問題であるのは、国会議員の誰1人として「監視カメラ」の存在、あるいは必要性に触れていないことです。監視されていることを不快に思うとでも言うのでしょうか。しかし「国会」のなかは、どんな場所でも「公」のはず。

また、監視カメラは国民の視線と思えば、もう少し緊張感を持って政治に取り組む……とは言い過ぎですね。ちなみに「國會議員要覧(国政情報センター)」という冊子には、国会内の詳細な見取り図が掲載されており、これを見れば、どのルートを通れば最短距離で、テロリストはその「目的」を達成できるかわかります。

いまや国会内に「暴力闘争」を辞さない、つまりは法治国家においては「テロリスト」とも呼べる人物が、議員バッジをつけて闊歩しています。もはや、出入り口の監視だけでは、国会議員の身の安全は図れません。

エンタープライズ1.0への箴言


セキュリティは「破られる」を前提にする

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」