comm終了。

吉高由里子さんのCMを大量出向し、2012年10月より鳴り物入りでサービスインした「DeNA」の無料通話アプリ「comm」が、今年の4月21日でサービスを終了すると発表し、ネット界隈で話題を集めました。

話題に乏しい「ネタ枯れ」だったタイミングでの発表は、泣き面に蜂的な不運といえます。何故なら、利用者が少ないからサービスを終了するのであり、必然的に影響は限定的で、本来であれば「話題になりにくいから」です。

comm終了を告げる「まとめサイト」の見出しは「悲報LINEのパクリ終了(要約)」とありました。確かに「スタンプ」を始め、サービス開始当初から「パクリ」という批判はありましたが、これは運営会社「DeNA」の足跡を辿れば、原口あきまささんのネタを「モノマネ」と揶揄し、江戸家猫八さんのウグイスの鳴き声を「ニセ者」と糾弾するようなものです。

凡庸なデザイン

DeNAは世界的コンサルティング会社「マッキンゼー」でパートナー(役員)まで登り詰めた南場智子氏が創業しました。

コンサルタントは「市場調査」が大好きです。現状分析を建前としますが、すでに生まれているマーケットの「余白」を見つけて追加参入するやり方なら、即効性を期待できリスクを最小限に抑えることができるからです。

革新的なサービスや、新しい市場を創造することはできませんが、グーグルやAppleを目指さないのなら、ひとつの営業戦略であり経営哲学といえます。

DeNAも「市場調査」を大切にしているようです。commのCM発表会でも、マクロミルによる調査結果を引用し、「無料通話の高品質化」のマーケットニーズを語っていました。「スタンプ」にしても「調査を重ね、あらゆる年代や性別に支持されそうなスタンプを独自に作成(日経新聞Web版)」とあります。

万人ウケするデザインとは凡庸で、別の言い方をすれば「どこかで見たことがある」ものです。その既視感は「パクリ」と批判されることもありますが、デザイン選定の責任者は当時新卒1年目の女性社員で、いわば「DeNA」しか社会を知らない社員が、市場調査を繰り返す方法を採用したのであれば、それこそが「DeNAらしさ」なのかもしれません。

DeNAという会社

創業者の南場智子氏は、1999年11月にオークションサイト「ビッダーズ」を立ち上げます。この時すでに「ヤフオク」がありました。後にショッピングモール機能を追加しますが、国内では「楽天市場」がトップランナーとして、この道を驀進しています。ガラケーをプラットフォームとした「ソーシャルゲーム」で名を馳せましたが、先鞭をつけたのは「グリー」です。さらにIT企業の「プロ野球参入」も、楽天に次いでとなります。

足跡を素直に表現すればDeNAは「後追い経営」なのです。直近では昨年末に「キュレーションサイト」も始めており、躍進する「LINE」を見て、後追いをしたのはむしろ「当然」で、DeNAの遺伝子を色濃く受け継いだサービスが「comm」だということです。

それが理由か偶然かはわかりませんが、commのサービス終了日は、創業者の南場智子氏の誕生日です。つまり「パクリ」との誹りは、ものまねタレントを「ものまね」と非難するような「批判0.2」です。

ただし「comm」への取り組み姿勢に疑問は残ります。同様のネットサービスの先行者を相手に、スタンプの責任者は入社半年の社員で、comm事業の責任者も新卒の3年目、迎え撃つ「LINE」は2003年からIT業界で戦っている森川亮氏(当時)。どれだけ優秀だったとしても、平幕と三役力士ほどの力の差はあるとみるべきです。

神話の崩壊

当時すでに100人規模で開発していたLINEに対して70人体制では、すべてにおいて「格落ち」でした。プロモーションに10億円を投じると意気込んでいましたが、テレビCMを流せば、必ず成功するというのであれば、凋落しか話題がなくなったフジテレビは、他局のCM枠を買い占めることでしょう。

これは「テレビCMを流せばユーザーは増える」という「モバゲー」の成功体験からの「成功神話0.2」です。しかもCMキャラクターの吉高由里子さんは、「花子とアン」に出演前で、福田彩乃さんが真似する「ハイボール飲んでウィー」の印象が強く、「あらゆる世代や性別に支持されそうな」キャラクターではありません。

得意とする「市場調査」が「0.2」だったのでしょうか。ちなみにLINEが、2011年末にテレビCMを開始したときに起用したタレントは、ビデオリサーチによる同年8月度女性1位の「ベッキー」さんです。

もっとも、「敗戦」は早い段階で自覚していたようで、CM放送から半年後には開発体制は縮小しており、DeNAの企業サイトの「沿革」に「comm」は記されていますが、「IR・投資家情報」には記載されていません。サービス開始翌年の2013年の株主総会での質疑応答では逃げ腰で、2014年には事実上の「放置」と回頭しています(株主のブログより)。自社が提供するサービスなので、市場調査をするまでもないでしょうが。

ちなみに、LINEは東日本大震災をきっかけにLINEが開発されたという「美談」がありますが、同じ韓国出身の「カカオトーク」のパクリ疑惑があります。

エンタープライズ1.0への箴言


市場調査から革新は生まれないが、余白は見つかる

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」