企業の情報システム部門の責任者に、業務内容や課題、DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組み等を聞く本連載。業種は異なっていても、情報システム部門が抱える課題には共通項目が多い。他社の課題解決の方法やDXを知り、ぜひ自社の改革に生かしてほしい。
第2回に登場するのは、SAPビジネスに特化したNTTデータ グローバルソリューションズ(以下、GSL)だ。同社は、NTTデータのSAP事業、NTTデータソルフィスのSAP事業、クニエのSAP-AMO(Application Management Outsourcing)事業を集約・統合し、2012年に誕生した企業だ。また、NTTデータソルフィスは、NTTデータアイテックとNTTデータサイエンスが統合され、2009年に誕生した。
企業統合によるデータ移行では苦労も
現在、社員数は600名弱。情報システム部門の社員は6名で、主に商談管理やワークフローといった基幹システムの開発と運用を行うチーム2名、インフラ管理やセキュリティを担当する2名、日常運用2名の3チームに分かれて業務を行っている。
同社の特徴は、企業文化の異なる企業が統合し誕生した点だ。そのため、各企業がもともと持っていたデータを統合する必要性があった。この点で苦労はなかったのかを聞くと、事業戦略推進部 IT戦略&マネジメントグループ マネージャー 馬場順一郎氏は、次のように語った。
「GSLになってシステムを刷新したわけではありません。2009年に2つの企業が合併し、NTTデータソルフィスが誕生した際は、メールサーバや基幹システム基盤を新規で作成するなど、大きくブラッシュアップしました。それが現在のGSLの社内システムのベースです。データ移行の際は、親会社(NTTデータ)の仕組みや基準に合わせないといけない、ファイルサーバがパンクしそうになった、データを転送する間、回線の帯域を占有されてしまうなどの問題はありました。そもそも社内にデータを入れる基盤がないものや、レガシーなナレッジシステムのデータをマイグレーションする必要があるなど、いろいろ苦労ありました」
リモート勤務はコロナ禍前から準備
現在、同社の勤務は7割以上がリモートだというが、この環境はコロナ禍以前から準備していたという。
「新しいオフィスに移転(2019年7月)した際、いつかは全員がリモート勤務する日が来るだろうと考え、その事態に備えて設計しました。1年~2年ぐらいかけて準備しようと思っていた矢先、新型コロナウイルスの感染拡大により緊急事態宣言が出されました。当時は全社員の4割程度しかリモート環境を配備していませんでしたが、その年の4月上旬には準備が整い、全社フルリモート勤務を開始しました」(馬場氏)
リモート勤務において、一番の懸念はセキュリティだという。リモート勤務になれば自宅の回線から接続される。そのため、セキュリティをどう担保していくのかなどや、トラブルサポートで苦労したという。
社員が出社していれば、サポートやPC状況の確認もオンサイトでできるが、例えばパスワードをリセットする必要があるようなトラブルが発生した場合、そもそもPCにログインできないため、リモートでのやり取りでは初期化できない。そのために最寄りのオフィスに出社して、対応する必要があったという。
ソフトウェアに関しても、社内LANにつながっていれば、アップデートやインストール用のリンク貼って案内すれば良かった。しかし、リモート勤務になると社員が利用する回線が異なるため、容量が大きいファイルはダウンロードさせられないという悩みもあったという。
「セキュリティも、LANにつながっている前提で考えていました。社員が会社に一切来なくてもできる管理方法を一つ一つ確立していかなければならない日々でした。一番大変だったのは、『つながらない』『遅い』といった問い合わせに対し、『ルータのメーカーを教えてください』、『マニュアルを見てVPNのパス設定をオンにしてください』といったやり取りを行ったことです。それでも、ルータ自体が分からない人も存在し、結局社員の自宅を訪問し、対応したこともありました」(馬場氏)
その後同社は、リモート勤務での利便性向上に向け、スマートフォンでMicrosoft Outlook、Teams、社内ポータル等を使えるソリューションも展開したという。
システム環境はオンプレミスからクラウドへ
同社は2012年の設立当時、オンプレミス環境でシステムを運用していた。運用から5年程度経った頃、契約しているデータセンターが廃止されることになり、それを契機にクラウド移行を決断。本番系システムをパブリックウラウド基盤上に移行した。
親会社との接続用に別のデータセンターを借り、4台の物理サーバは運用しているものの、それ以外の本番系はパブリックウラウド基盤に移行した。移行後は、特に大きなトラブルもなく順調だったという。
「当時はクラウド移行の過渡期ということで、クラウドに移管するサービスを専門で行っている部隊や有識者が、社内に多く在籍し、いろいろなツールを試し、サービス検証も含めて行いました。クラウド基盤上で新規で構築したものはほとんどありませんでした。100台前後のオンプレミス仮想サーバをクラウド基盤に一気に移行しました」(馬場氏)
同社のシステムはクラウドに移行して6年以上経つが、オンプレミスとクラウドの比較について馬場氏は、まず、コストだけを比べると、一定年数以上使うのであれば、オンプレミスの方にメリットがあるパターンが多いと述べた。
また、基幹システムとして、止まらず、遅くならず、何事もなく動き続けるという当たり前なことを実現するために、SAPシステムのようにアプリケーション単一で設計するのであれば、どちらでも変わらないと考えられるという。
ただ、「当社は大型プロジェクトが短期間で立ち上がり、『協力会社の人が100人程度増えるので、来月からPCを用意してください、メールアカウント用意してください、ファイルサーバの容量増やしてください』という依頼が来ます。そうした機動性が高い基幹システムが必要な場合は、クラウドのほうがスケーリングしやすいと思います。一方、クラウドは物理基盤部分が基本ブラックボックスなので、そこでハマってしまうと大変です。そういう意味で適材適所だとは考えます。ただ、拡張性や物理的サーバを保守する必要がないという点でクラウドにメリットがあることは間違いないでしょう」と馬場氏は語っていた。