自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。その背景には、国内外の競争激化や物価の上昇などがある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B(企業間取引)企業も出始めている。本連載では、ITなどを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。
第16回は、情報システムの開発・販売を手掛けるビビッドソウルを取り上げる。同社は、自社と経営者のフェイスブックを通じて自社の製品情報のほか、モノ作りの理念を発信。SNSを通じて新規顧客の約半分を開拓している。
貝沼翔社長は「われわれのような中小企業は資金力に乏しく、ブランディングは難しい面があるが、SNSのようなお金のかからない方法で情報発信していけば、顧客を紹介してくれる人が増えていく」と話す。聞き手は全研本社の本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。
学生プログラマーを経て、金融系や組み込み系を中心にプログラマー経験を積む。その後、Webディレクター、アプリディレクター、事業開発、経営へと進み、ビビッドソウルを設立。基幹・業務システムパッケージ「KikanTree」など、3事業を展開。思いやりあふれる世界に近づけることが人生のミッション。
ポイント
- ブランディングは自社の理念を知ってもらうための手段- ブランディングは社員の採用面接から意識、企業イメージに沿った採用を
- ツイッターではなく、一定の長さの深い記事を書けるフェイスブックを活用
- 4人で構成するPRチームを結成し、ルールを設けて情報発信
本村:ビビッドソウルは企業の情報システム開発などを手掛けています。御社の特徴や強みを教えてください。
貝沼:当社は社員15名の小規模な企業ですが、デザイナーやプログラマー、ディレクター、プランナーを抱え、一気通貫でシステムを開発できます。それぞれの業務を他社と分業する企業に比べ、顧客の要望に対して柔軟・迅速に開発できる利点があります。平均年齢が約40歳とIT企業としては比較的高く、経験値が高い人が多いことも、顧客が安心して仕事を任せられ、リピート客が増加していることにつながっています。
本村:システム開発は、ゼロから作り上げる高コストの「フルスクラッチ」と、低コストだが柔軟性に乏しい方法に二極化しているイメージがあります。御社の場合はその長所を両方持っているやり方のように思います。そうした御社の良さを伝えるのに、ブランディングはどんな役割を果たしていますか。
貝沼:私はブランディングを「自社の理念を外部の方々に知ってもらう手段だ」と考えています。当社は情報システムの会社ですが、「思いやりのモノ作り」という理念を掲げ、それに基づいて2020年ころに行動指針を定めました。モノ作りは製作期間が長く、つい本質を忘れがちになるからです。
顧客を思いやり、寄り添えば、製品にも工夫が生まれます。こうした当社の理念を多くの方々に知ってもらえれば、結果として仕事も増え、採用力も強化できると考えています。
本村:機械メーカーなどでは「思いやりのモノ作り」というフレーズを聞くことがありますが、システム会社などIT企業でそうした理念を掲げているのは珍しいですね。
貝沼:「変わった会社」とも言われますが、そうしたイメージは当社のブランディングにはむしろ役立っています。採用面接をする際も、経営計画書と当社の理念を説明し、共感してくれる方かどうかを判断しています。スキルだけでなく当社のイメージを崩さない人であるかを重視しています。
本村:御社の場合、採用面接から企業ブランディングが始まっているということですね。ただ、御社の規模は必ずしも大きくありません。中小企業にとってブランディングは簡単ではないように思いますが、いかがですか。
貝沼:確かに、中小企業のブランディングは難しいと思います。大手に比べて広告などに回せる資金に限界があるからです。当社の場合、利益の20%程度をブランド作りにまわしていますが、同じ割合であれば利益が大きければ大きいほどブランディングは容易です。
中小企業は回せるお金が少ないだけに工夫が必要になります。中小は売上高を増やすことに気を取られがちで、ブランディングのノウハウがないのも後手に回る要因となっています。
本村:御社のブランディングの成功例を教えてください。
貝沼:当社の場合、フェイスブックを活用しています。会社で投稿した記事を私が個人でシェアしてコメントをする方法をとっています。会社では4人で構成するPRチームをつくってフェイスブックを通じて定期的に情報発信しています。発信してすぐに発注がくるわけではありませんが、しばらく時間をおいてダイレクトメッセージを送ってもらえることが多くあります。
例えば、プライム市場に上場している現在の顧客は、それまで取引もなく、知り合いもいませんでした。しかし、私のフェイスブックを見てくれたことがきっかけで、数千万円規模の情報システムリニューアルの仕事を発注してくれることになりました。
現在は新規受注の半分程度がフェイスブック経由です。フェイスブックを通じた情報発信や企業イメージづくりを通じて、取引先や潜在顧客の方々が困った時に最初に当社を思い出してもらえるようにすることが重要だと考えています。
フェイスブックは、短い文章が多くどんどん更新されるツイッターと違い、一定の長さの深い記事を長く見てもらえる利点もあります。私は経営者とはいえ、プレイヤーでもあります。1日何度も投稿できるわけではないので、フェイスブックは当社のブランディングに向いていると判断しています。
本村:SNSの中でもフェイスブックが御社のブランディングには向いているということですね。ブランディングで失敗例はありますか。
貝沼:失敗とまでは言えませんが、効果が薄かった例をお話しさせてください。会社のフェイスブックは2019年に開始した当初、ルールを決めずに「ひとまず投稿してみよう」と見切り発車で始めてしまいました。ブランディングのために始めたつもりだったのですが、何を投稿していいかもわからず、最初の記事は、人気ラーメン店のこだわりにフォーカスした感想でした。
モノづくりという共通点はあるものの、「自社のブランディングにはなりづらい」とPRチームと話し合ってルールを決めました。例えば「会社の文化を発信する」「週2回投稿する」「できる限り人が写真に入るようにする」「写真を加工しすぎない」といったルールです。軸が決まったことでブランド作りにもプラスになり、PRチームも投稿しやすくなったと思います。
本村:全研本社のサイトに御社の記事が掲載されています。どのような効果がありましたか。
貝沼:ユーザーが当社の業務システムのパッケージを理解してくれた上で当社のホームページに流入してくれるのが最大の利点です。フェイスブックで会社全般を理解してもらい、全研本社のサイトで当社のサービスを詳しく知ってもらうという流れです。
掲載は2023年2月からで、まだ半年しか経過していませんが、今後、大きな効果が出てくると期待しています。
(編集協力 P&Rコンサルティング)