スマホ向けのセル出荷、テレビ向けのオープンセル
IHS Markitのディスプレイ部門FPD部材部門担当シニアアナリストである宇野匡氏は、最近のFPD部材の動向として、「スマートフォン(スマホ)をはじめとする中小型液晶パネルではオープンセル(Open-Cell)ではなくセル出荷が通例となっている。オープンセルではバックライトが省かれるが、セルではバックライト・偏光板・ドライバーICがない状態で出荷される。セルはパネルメーカーから出荷され、モジュールメーカーやOEMが後加工を担当する。一方、大型液晶テレビではオープンセル(バックライトのみ省いたパネル)が主流となっている」と述べたほか、部材サプライチェーンにおける変化で一番大きかったのは、台湾Foxconnの韓国Samsungへの液晶パネル出荷カットという発表であるとして、これにより部材のサプライチェーンが影響を受けるとの予測を披露した。
Samsungが先行する有機EL部材技術
IHS Markit ディスプレイ部門FPD部材部門担当シニアアナリストの宇野匡氏 |
また、注目の有機ELについては、「低分子有機ELは発光材料が水と空気に触れるだけで発光しなくなるので、バリヤフィルムのコストと性能が鍵となる。Samsungはバリヤフィルムの間にタッチパネルや偏光板の機能を取り込む開発を積極的に進めており、技術の機密を守る動きを見せている。裏返すと、他のパネルメーカーの追随が難しい状況になっている」としたほか、大型パネルについては、「TFT基板サイズの真空蒸着チャンバーはサイズが大きくなりすぎ、金額も高騰しリスクが高くなる。また、プレミアテレビが65型以上のサイズとなっており、第10世代の基板が必要となっている。ウェットプロセスで加工できる有機EL発光材料は高分子材料があるが、発光効率や色の特性などで低分子材料に劣る。ウェットプロセスで使用できる低分子材料の開発が進められており、韓国メーカーは量産に向け、材料メーカーや装置メーカーと協力している」とするものの、有機ELについては、「ブルー材料の寿命やムラが課題と言われている」 とした。
量子ドット蛍光体カラーフィルター開発中
量子ドット(QD)蛍光体をカラーフィルターに配合する開発も進められているが、QD材料は熱に弱いため、カラーフィルターのプロセス温度を下げる必要がある。また、構成上、上偏光板がカラーフィルターの内側に位置する必要があり、解決に向けてワイヤーグリッド偏光板の内製化も検討されている。これにより、QDシートのバリヤーフィルムが削減できるため、コストの低減が期待できるからだ。
一方、ドライバーICは、DRD(ダブルレート・ドライビング)、TRD(トリプルレート・ドライビング)、GOA(ゲート・オン:アレイ)の採用が進んでいるが、4K液晶テレビが増加しても全体ではマイナス成長になるとの見通しを示している。
第10.5世代ガラス基板投資を積極的に展開へ
液晶テレビの需要は、2015年をピークに2016年と2017年の数量は減少を続けている。しかし、平均画面サイズは成長しており、面積としては堅調に成長している。ガラス基板を代表とする、面積依存の部材では安定した成長が予測されている。
ほとんどの部材はTFTの生産能力以上の生産能力を抱えており需給に問題はない。ガラス基板は従来から投資リスクが高く、パネルメーカーの能力ではなく、実需を満たす能力にとどまる傾向にある。2017年第1四半期は11%の供給過剰となっているが、1月の実際の注文は2016年第4四半期と同レベルである(旧正月に合わせて注文が減少するとの予測)。
パネルメーカーの積極的な第10世代投資計画に対して、ガラスメーカーは主要3社で対応しなければならない。 CorningはBOEで圧倒的なシェアを持っており、第10.5世代に対して予想通り窯の投資を発表した。しかし、従来と違って第10.5世代の窯投資は金額が高いためリスクが大きく、地方政府の投資援助を受けているが、表向きの投資形態はCorning100%となっている。これは合弁の場合、技術流出のリスクがあるためであり、政府の援助を受けることで単独での投資を実現している。
旭硝子はCSOT(China Star Optoelectronics Technology)で独占的なシェアを持っており、第10.5世代の投資に対応すべく検討を進めており、すでに研磨ラインについては新聞報道もされている。
日本電気硝子はLG Displayの第10.5世代の投資を検討している。同時に中国厦門にすでに投資した3窯に加えて新たに3窯の投資を進めている。同社はBOEに対してガラス供給はほとんどなかったが、第8世代のB10ラインに対して、東旭と後加工のラインを合弁で設立しており、6月以降に参入予定となっている。
従来は大規模な液晶ラインの投資に対しては、パネルメーカーがガラスメーカーに事前に打診を行ってきたが、中国の第8世代投資以降は、TFTラインの発表以降でガラスメーカーと相談を行っているようだ。Foxconnの第10世代投資についても、現在ガラスメーカーが競合している状況にあるという。
宇野氏によれば「ガラス基板だけではなく、ほかの部材メーカーも第10/10.5世代ラインへ参入しようと激しい競争が展開している」という。
ミドルレンジも組込方式が主流となるタッチパネル
IHS Markit ディスプレイ部門タッチパネル担当プリンシパルアナリストの大井祥子氏 |
IHS Markit ディスプレイ部門タッチパネル担当プリンシパルアナリストである大井祥子氏はタッチパネル市場について、「組込方式タッチパネル(ディスプレイに内蔵されたタッチパネル)の採用がミドルレンジのスマホにも拡大した。ディスプレイメーカーによる需要獲得競争やコントロールICメーカーによる付加価値維持の戦略とあいまったものである。タッチパネルの内蔵に許容されるコストはAdd-on(タッチパネル外付け)に引っ張られる形で下がり、生産には高歩留り、高効率化が求められる」と述べる。
また、メインアプリケーションである携帯電話市場の成熟化と組込方式の浸透のダブルパンチにより、外付けタッチパネル産業では淘汰を免れないメーカーが現れる可能性を示唆。その一方で、フレキシブル用途や車載用途では新たな技術とサプライチェーンの構築が求められ、これをきっかけに市場は再構築へと向かうとの見かたを示した。
成長が期待されるのは車載とフレキシブル化
他の電子部品同様、「フレキシブル化」と「車載」はタッチパネル産業にとっても今後の成長軸として期待される分野となっている。さらにこれらの実現には新たな材料や生産技術が求められ、そこが付加価値となると思われると同氏は指摘する。ただし、無制限のコストアップが許容されるわけではなく、技術革新とともに、いかに従来タッチパネルからのコストアップを抑えるかが求められるともしている。
現状打破の新市場開拓が必要に
最後に同氏は、「タッチパネルそのものはコモディティ化してきたが、タッチパネル材料や生産技術にとってはまだイノベーションの余地が多く残っている。さらに、新たな用途開拓が進めばより新しい技術が採用される可能性がある。新規市場開拓にはタッチパネルメーカー、セットメーカー、部材メーカーが協調して開発を行っていく事が必要となるであろう」と話を結んだ。