前回は、HRTechのこれまでの変遷と現状、そして今後についての筆者の考えを述べてみた。今回は、HRTechの中で筆者が注目しているソリューション事例について、人事業務の中でもHRTechへの期待が特に大きい採用業務の例を紹介したい。

採用業務は人事業務の中でも人間が対応する範囲が広く、ITで支援できる業務が限られていた。しかし、AIなどの活用により従来は人間が対応していた業務をIT化できれば、業務の大幅な効率化と精度向上が期待できる。

1. ビデオ面接とAIアセスメントが新卒採用業務を激変させる

採用業務は、当然ながらいかに優秀な人材を多く採用できるかが問われる。そのため、新卒採用を担当するチームは、できるだけ大勢の採用母集団を形成しようと努力する。採用母集団の人数に関する考え方については企業ごとに異なるが、採用予定人数の100倍以上に設定する会社もあると聞いている。その母集団から面接などの選考で絞りこみ、優秀と思われる人材を採用していくことになる。

しかし新卒採用では、面接を含む選考を限られた期間に行う必要があるため、面接に対応する社内体制によって新卒採用業務が左右される場合もある。要は、決められた面接期間中に用意できる面接スタッフの人数や対応時間によって母集団の人数も限られる可能性があるということだ。

また、面接をするといっても準備はなかなか大変だ。いつ、どこの会場で、誰が、どの学生と面接するのかの調整と並行して、学生に対しても同様の調整を行う必要がある。採用担当チームにとって、1年で最も忙しい時期になるのも当然である。

これらの煩雑な採用面接業務を大幅に軽減できるとして最近注目されているのが、ビデオ(録画)面接だ。面接官が尋ねたい事項をあらかじめ録画し、面接を受ける学生は、その動画を見て自分の回答を録画するだけだ。従来の面接業務を、この一見単純なビデオ面接に切り替えるだけで、採用担当チームの負荷や社内コストは大幅に軽減する。なぜなら面接官と学生とのスケジュール調整、会場の確保が不要になるだけでなく、面接官や学生の移動時間(コスト)の削減なども図ることが可能だからだ。最近のコロナ禍でWeb面接を行う会社が急増したが、Web面接とビデオ面接には大きな違いがある。それはLIVEか否かということだ。

LIVEのWeb面接であっても移動に関する時間やコストの削減はできるが、面接官の確保や学生とのスケジュール調整といった一番手間のかかる業務は残ってしまう。この違いは非常に大きい。にもかかわらず、Web面接は急速に普及した。ビデオ面接については、対応するサービスが少ないこともあり、普及はこれからだ。

そこで、米国生まれの「HireVue」という、ビデオ面接が使える採用のクラウドサービスの例を紹介したい。ビデオ面接もLIVE面接も対応可能なため、1次面接など初期の段階はビデオ面接を利用し、選考が進み人数が絞られた時点での面接はLIVE面接と、使い分けられるという特徴を持っている。この「HireVue」には、ビデオ面接以外でも興味深い機能がある。

それが「AIアセスメント」だ。ビデオ面接やLIVE面接の動画から応募者の回答に含まれる「音声」「単語」「コンテンツ」「言語構造」を中心とした言語情報・非言語情報を分析することで、「社会人基礎力」の主要なコンピテンシーを5段階で判定するという。

  • 「HireVue」のAIアセスメントのイメージ 引用:タレンタ

このAIアセスメントの最大のメリットは、全社で選考レベルを均一にできる点と筆者は認識している。前述の通り、大量採用する企業では採用母集団が数千人規模になり面接対象者も相当数に及ぶ。そうなれば、面接官も数十名は必要だろう。その面接官が一定の教育を受けたうえで面接を担当したとしても、面接官の間で選考判断にバラツキが出てしまうのは、人間が行っている以上やむを得ないというのが、これまでの常識だった。

しかし、このAIアセスメントの結果を各面接官の評価に加味して検討することで、面接官の選考判断を補正し、選考レベルを全社レベルで均一化できる。選考レベルを高いレベルで均一化できれば、企業としては採用の質的向上につながることになり、ビデオ面接を併用すれば、採用業務の大幅な効率化と質的向上を一気に実現することも不可能ではなさそうだ。まさに従来人間でしか対応できなかった業務をIT化した、HRTechソリューションの効果が顕著に表れている例ではないかと考えている。

2.AIを活用し優秀者を見極めるハイパフォーマー分析

採用業務でAIを活用する動きが出てきている。「HireVue」のAIアセスメントもその一つだが、採用するからには、できるだけ優秀な人材を採用したいと企業側が思うのは当然のことだ。もっと分かりやすく言えば、入社後に活躍する可能性の高い人材に絞って採用できれば申し分ないということだ。

その目標に近づけるための分析として「ハイパフォーマー分析」がある。適性検査の結果などから、優秀者のモデルを作成してそのモデルに近い人材を採用しようというものだ。これらの分析は、部分的にITを活用しているが、基本的には人間がモデルを作成し適合度を判断しているケースが多い。そこにAIを活用すると、より精度の高いモデルとモデルへの適合度を判断できるはずだ。

現在高い評価を得て活躍している従業員(ハイパフォーマー)の適性検査結果などを一定数AIに読み込ませることで、AIにハイパフォーマーのモデルを作成させる。応募者の採用可否の判断をする際に、その適性検査結果をAIに読ませれば適合率を算出できるため、採用判断に活用することができるというものだ。

以下がその分析例だ。

a) 各応募者の適性検査の重要指標をハイパフォーマー平均と比較

  • 適性検査の指標を比較するイメージ

b) 分析サマリー
・応募者Aのハイパフォーマーモデルとの適合状況
・重要指標のレーダーチャート
・ハイパフォーマー適合判断(一致度)「青 適合度が高い」

  • 分析サマリーのイメージ

このような分析が、適性検査の結果を入力するだけで簡単に行える。各応募者が入社し、数年後の活躍状況をAIに入力する運用を継続していけば、分析精度はさらに高まって進化していくことになる。

今回はHRTechを活用することにより、採用業務がどのように変わるのかを紹介してきた。10年前までは、考えられないことが現在は実現されようとしている。特に人間が関わる業務の割合が高かった採用業務は、顕著な効果が期待できる業務の一つではなかろうか。次回も、今回に続きHRTechの活用例について紹介する予定である。