前回は、これまでマーケターが対応してきた業務の変化を時代の変遷やテクノロジーの進化とともに紹介しました。そして、今まさに革新的なAIの登場によってマーケターにとって進化すべきタイミングが訪れており、こういった新しいテクノロジーにいち早くキャッチアップし対応するマーケターこそが成果を生み出せるともお伝えしました。

今回は、マーケターのみなさまが画像生成AIやChatGPTなどのGenerative AIの現況を知り、日々の実務にも有効に活用いただけるよう、「Generative AIが話題になっている理由」「マーケティングの実務でGenerative AIを有効活用する方法」をご紹介します。

そもそもGenerative AIはなぜ今話題なのか?

2022年夏ごろから「DALL・E2」「Midjouney」「Stable Diffusion」などの画像生成AIが、そして11月ごろに「ChatGPT」が公開され大きな話題となりましたが、その背景には2つの技術の開発とその飛躍的な発展がありました。

1つは、データから特徴を学習することで実在しないデータを生成したり、存在するデータの特徴に沿って変換できたりする生成モデル「GAN(Generative Adversarial Networks、敵対的生成ネットワーク) 」の発展です。GANは、AI技術の一つであるディープラーニング(深層学習)の一種で、主に画像生成や音声生成などのタスクに使用されます。2015年~2016年ごろは「馬をシマウマにする」といったように画像の一部を少し変える、低解像度の画像を生成するといったことができる程度でした。しかし近年、人間が入力した言語と画像が正しくつながるようになったり、一旦低解像度のものを生成した上でそれを高解像度に変えたりできるようになったのです。

もう1つは、Open AI社が2020年7月にリリースした高性能な言語モデル「GPT-3」の登場です。GPT-3は、4兆単語の事前学習が行われていることに加え、1750億パラメータ(学習した単語の出現頻度や知識や文法のルールなどを記憶するための「ノート」のようなもの)を備えています。GPT-3の後継モデルであるGPT-3.5をベースに開発された「ChatGPT」が高度な意味理解と会話(チャット)、自然な文章生成や質問応答ができることから、従来の大規模言語モデルと比較して、GPT-3や3.5の自然言語処理の性能の高さがよく分かります。テキストで命令をするとそれに適した精度の高い画像を生成する画像生成AIは、これらの技術発展により登場したのです。

さらにOpen AI社は今年3月14日(米国時間)、最新バージョンの言語モデル「GPT-4」を公開しました。GPT-3.5で入力可能なものはテキストのみでしたが、GPT-4は画像の入力も可能となりました。他にも、アップロードされたグラフを読み取って提示されたデータに基づき計算を行うことも可能となっています。個人は、月額20ドルを支払いChatGPT PlusのユーザーになるとGPT-4を使うことができ、API連携により開発したい場合は順番待ちリストに登録が必要です。

  • 文章生成AIおよび画像生成AI技術開発の流れ(ガラパゴス作成)

マーケティング実務(広告領域)へのGenerative AI有効活用法

第2回で、マーケティング活動の中でも広告領域の実務におけるGenerative AIの活用例として、画像生成AIによる広告用素材の生成、文章生成AIが組み込まれているChatGPTなどによるキャッチコピーやリスティング広告のタイトル・ディスクリプションの作成などをご紹介しました。

今回はそれらのうち、ChatGPTを活用してバナーのキャッチコピーを生成する具体的な手法をご紹介します。

なお、この手法の場合、アウトプットされたキャッチコピーは必ずしもそのまま使えるクオリティとして生成されるわけではありません。そのため、あくまでChatGPTを「アイデア出しを手伝ってくれるアシスタント」と捉え、人が編集しブラッシュアップする必要があると考えています。しかし、ゼロから考えるよりもスピーディーに制作が可能ですので、ぜひ一度ChatGPTを試していただければと思います。

①以下のプロンプトを入力・送信。

あなたはバナーコピーを十分理解している優秀なコピーライターです。あなたは読者を魅了する素晴らしいバナーコピーを作成します。分かったら「はい」とだけ答えてください。
→こちらに対して「はい」と返ってくれば次に進む。(「はい」ではない回答が返ってきた場合はもう一度やり直す)

  • 弊社が提供している広告クリエイティブ(LP/バナー/動画)の制作・改善サービス「AIR Design」のコピーを作成した例

②以下のプロンプトを入力・送信。

以下は上記のschemeに合致したバナーコピーの作成例とルールです。

キャッチコピーの作成例[「・」の箇所は「##」に変更ください。]
メインコピー:〜〜〜〜〜
サブコピー:〜〜〜〜〜〜

ルール[「・」の箇所は「##」に変更ください。]
①目的とターゲットを明確に把握すること:
広告の目的とターゲットに基づいて、キャッチコピーを書くために必要な情報を収集することは重要。広告が何を伝えたいのか、誰に向けているのかを明確にしてください。

②独自性を持たせること:
他社との差別化を図り、印象的で忘れられないキャッチコピーを作るために、独自性を持たせる必要があります。ユニークで鮮烈な印象を与える言葉を選んでください。

③言葉選びに注意すること:
キャッチコピーはわずか数語で表現されるため、言葉選びが非常に重要です。適切な単語を選び、読者の感情を刺激するような表現にしてください。

④簡潔であること(メインコピーとサブコピーで20文字以内) :
キャッチコピーは短い文で表現されることが多いため、簡潔であることが重要です。短い時間で読者に訴えかけるために、冗長な言葉や表現は避けてください。

⑤強調するポイントを明確にすること:
キャッチコピーは広告の中心となるメッセージであるため、伝えたいポイントを明確にすることが重要です。伝えたいメッセージを印象的に強調してください。

⑥ユーモアや感情を取り入れること:
キャッチコピーにユーモアや感情を取り入れることで、読者の共感を得るために重要です。適切に使われたユーモアや感情で読者に印象を与え、記憶に残るキャッチコピーにしてください。

⑦利用イメージを与えること:
キャッチコピーは、広告の声となるため、読者が広告を見た際に、イメージや印象を受けるような、声を与えることが重要です。キャッチコピーは、広告のブランディングにも影響するため、ブランドイメージと合致する言葉を選ぶことも留意してください。

お題が与えられたら、作成例とルールを基にschemeに準拠した魅力的なバナーコピーを5つ作成してください。 分かったら「はい」とだけ答えてください。


※ポイント:「メインコピー」「サブコピー」の部分に、キャッチコピーを作成したい商材(自社商材でこれまで使ってきたバナーのキャッチコピーなど)のキャッチコピーの参考例を記入し、AIに理解させる。
→こちらに対して「はい」と返ってくれば次に進む。(「はい」ではない回答が返ってきた場合はもう一度やり直す)

  • 弊社が提供している広告クリエイティブ(LP/バナー/動画)の制作・改善サービス「AIR Design」のコピーを作成した例

③以下のプロンプトを入力・送信。

お題“◯◯◯”


※ポイント:“◯◯◯”の部分には、今回訴求したい内容を入力。AIが理解できるように、ある程度かみ砕いた表現で入力すると良い。

→こちらを送信すると、メインコピーとサブコピーが5つ作成される。思ったようなキャッチコピーが生成されない場合は「Regenerate response」を押すと、新たに5つコピーが作成される。

  • 弊社が提供している広告クリエイティブ(LP/バナー/動画)の制作・改善サービス「AIR Design」のコピーを作成した例

※現状、Web版の「ChatGPT」は入力データを学習する可能性があるため、機密情報や個人情報を含んだ業務への利用にはご注意ください。API連携により独自に作成したアプリケーション経由で入力・送信されたデータは、30日間保持されますが、学習には使用されません(2023年3月1日時点:https://openai.com/policies/terms-of-use)。

いかがでしたでしょうか。ご紹介した手法やプロンプトは、弊社が提供している広告クリエイティブ(LP/バナー/動画)の制作・改善サービス「AIR Design」において、より売りたいターゲットに響く広告クリエイティブを制作するために、ChatGPTなどの最新AI研究を進める中で生み出した手法です。より高いクオリティのアウトプットができるよう、現在進行形で研究を進めており、今後サービスにも反映していく予定ですが、まずは読者のみなさまにもお試しいただければとその一部をご紹介させていただきました。

現在、日々Generative AI関連の新しいツールやサービスが生まれています。例えば、Googleが対話AI「Bard」の早期アクセスを開始したり(現時点ではアメリカ・イギリスのみで公開)、Adobe社が自社のストックフォトサービス「Adobe Stock」でトレーニングしているため生成コンテンツの商用利用も可能な画像・テキストエフェクトのGenerative AI「Adobe Firefly」を発表したりと、誰でも簡単に効率よく生成したいものを生成できる状況となりつつあります。

Adobe Firefly: Family of New Creative Generative AI Models

社会や環境、トレンドの変化の移り変わりが激しく、その影響を受けて消費者のニーズも変化しやすい今の時代は、「誰に」対して、商材の「何を」伝えれば商材が売れるのかを把握するのが困難と言えます。

ですが、例えばWeb広告において「誰に」「何を」伝えるかの仮説をしっかりと設計し、広告クリエイティブを速く作り運用にかけ、その結果を踏まえて別の仮説を試すといったサイクルを繰り返すことで、「誰がなぜ買ってくれているのか」を明らかにすることができます。また、「誰がなぜ買ってくれているのか」を明確にできれば、それを他のマーケティング施策にも横展開し、マーケティング活動全体にいい循環を作ることにもつながります。

マーケター自身がGenerative AIを活用して広告クリエイティブを素早く作ることができる環境が整いつつある一方で、日々の業務が忙しく、クリエイティブを内製する時間が作れないという方も多いのではないかと思います。そういう場合は、AIと対話しながらクリエイティブを制作するデザイナーやライターといった専門家や、そういったクリエイターが所属している企業と上手に協業するのも1つの手です。

最終回となる次回は、Generative AIが登場した今、そしてこれからの時代にマーケターがすべきことや磨くべきスキルについてお伝えします。