グラスホッパーの跳躍

スペースX社が再使用ロケットの実用化に向け、スペースX社はまず、ロケットを垂直に離陸させ、上空から再び垂直に下降して着陸させる実験を行うための、グラスホッパーと名付けられた実験機を開発した。

グラスホッパーはファルコン9 v1.0の第1段機体を流用して造られており、全長は32.3m、直径は3.66mほどの大きさを持つ。そこにファルコン9 v1.1でも使われているマーリン1Dロケットエンジンを1基のみ装備している。マーリン1Dは推力を調節できる機能を持っており、垂直離着陸を行うロケットにとっては必須の能力だ。スペースX社のイーロン・マスクCEOによれば、着陸の精度は「ヘリコプター並み」だという。

グラスホッパーの存在は2012年9月に公にされ、同じ月の21日に、テキサス州マクレガーにある同社の試験施設において、初の飛行を行った。このときはわずか1.8mほど浮いただけの、名前のとおりバッタかキリギリスが跳ねたようなものだったが、同年11月1日には高度5.4m、さらに12月17日には40mにまで上昇し、無事に着陸するという芸当を見せ付けた。年が変わって、2013年3月7日には80mに、そして4月17日には250mまで上昇、さらに6月14日には325mにまで到達し、そして着陸を果たした。

また8月13日には、初の横方向への飛行を実施した。グラスホッパーは離昇後、まずやや傾きつつ発射地点から高度250m、そして横方向に100mほどの地点まで上昇した。そしてその後、機体をそれまでと逆の方向に傾けつつ下降し、発射地点に舞い戻った。そして10月7日には、それまでの2倍以上にもなる高度744mにまで上昇した後、着陸した。

垂直離着陸ロケット実験機のグラスホッパー (C)SpaceX

グラスホッパーによる飛行試験はこの計8回で終了し、次にファルコン9再使用開発機(F9R Dev, Falcon 9 Reusable Development Vehicle)を使った試験へと移行した。F9R Devはファルコン9 v1.1の第1段機体に、マーリン1Dエンジンを3基のみ装備しており、より実際の打ち上げにおける再使用に近い試験ができることになる。

F9R Devは2014年4月17日に初飛行し、高度250mまで上昇し、かつ横方向への移動も行い、無事に着陸した。続いて5月1日に行われた2回目の試験飛行ではその4倍にもなる1,000mまで上昇した。

6月17日の3回目の試験飛行では、小さな安定翼(フィン)が取り付けられ、その機能性が試験された。このフィンは、よくある翼の形ではなく格子状をしており、第1段機体の周囲に90度間隔で4枚装備されている。こうした形状のフィンは、ロシアのロケットやミサイルでよく用いられている。打ち上げ時には折り畳まれており、再突入後に展開され、第1段のピッチ角、ヨー角、ロール角を制御する。

その後、4回目の試験も成功し、8月22日に5回目の試験に挑んだところ、ロケットが予定していない方向に向かって飛び始めるというトラブルが発生し、その異常を検知したコンピュータによって破壊(いわゆる自爆)された。その後の調査で、原因はあるセンサからのデータが来ていなかったということが分かっている。

F9R Devは失われたものの、すでに2号機のF9R Dev2の開発が進められており、近々試験が再開される見込みだ。また時期は未定だが、いずれはマクレガーの試験施設を離れ、ニュー・メキシコ州にあるアメリカ宇宙港(Spaceport America)に拠点を移し、より高高度にまで達する飛行試験を行う予定になっている。

F9R Dev (C)SpaceX

ファルコン9の第1段を使った着水試験

グラスホッパーやF9R Devの試験飛行と並行して、実際に宇宙へ向けて打ち上げられたファルコン9を使い、第1段機体の回収と再使用を行う試験も実施された。第1段機体が第2段機体から分離された後、第1段のロケットエンジンを再点火し、機体を大西洋上に着水させるという試みだ。

その最初の試験は2013年9月29日、ファルコン9の改良型であるv1.1の初打ち上げにおいて行われた。しかし、この時は再点火には成功したが、その後機体がスピン状態に陥り、推進剤が安定して供給されなくなったためにエンジンが停止したため、機体を制御しつつ大西洋へ着水させることは果たせなかった。

2回目の試験は2014年4月18日、ドラゴン補給船運用3号機の打ち上げにおいて実施された。さらにこの時には、第1段機体の下部に展開式の着陸脚が装備された。もちろん海の上に降りるので実際の役に立つものではないが、下降しつつ展開できるか、あるいは展開した状態でも機体を制御しつつ下降できるかといったことを試す意味があった。余談だが、この時NASAは、積み荷が国際宇宙ステーションに補給する物資を積んだ補給船だったことから、打ち上げ時に着陸脚が誤って展開し、それがきっかけで打ち上げが失敗しないよう、スペースX社に対して強く求めたという。

第2段との分離後、第1段はエンジンの再点火に成功し、速度を落としつつ大気圏に再突入し、順調に下降を始めた。そして機体に装備された窒素ガスのスラスターで機体を制御し、着水の直前に再びエンジンを点火し、着陸脚の展開にも成功し、大西洋上に舞い降りた。残念ながら天候や海が荒れていたため、機体は破壊されてしまい、回収まではできなかったが、大きな成果であった。

着陸脚を装備したファルコン9。打ち上げ時には機体に張り付くように折り畳まれている (C)SpaceX

ファルコン9が装備する着陸脚 (C)SpaceX

ロケットの搭載カメラが捉えた着水寸前の様子。着陸脚が展開していることが確認できる (C)SpaceX

続く3回目の試験は7月14日、オーブコム社の通信衛星OG2の打ち上げの際に実施された。この時も目標は大西洋上への着水で、着陸脚も装備していたが、前回までとは違い、第1段がそれまで飛行してきた経路を引き返すように飛び、より発射台に近い地点への着水を狙ったものだった。この試験でも、第2段との分離後のエンジン再点火や大気圏再突入、着水直前のエンジン再点火や着陸脚の展開には成功したものの、着水自体は失敗し、再び機体は破壊されたために回収はできなかった。

4回目の試験は9月21日、ドラゴン補給船運用4号機の打ち上げの際に実施された。この時も当初は着陸脚を装備しての回収試験を行う予定だったとされるが、何らかの事情により、別の打ち上げで使う予定の着陸脚を持たない第1段と交換されることになった。また回収のための船も出されなかったが、エンジンの再点火、着水などの試験は行われた。また、NASAとの共同実験として、再突入の模様を赤外線で捉える試みもなされた。

そして10月24日、マサチューセッツ工科大学において、イーロン・マスク氏はこの次のファルコン9の打ち上げで、スペースX社が次回のファルコン9ロケットの打ち上げで、第1段を大西洋上に浮かべたプラットフォーム(浮桟橋)へ着陸させる試験を行うことを明らかにした。再使用ロケットの実現に向けた、新しい段階のスタートだった。

(次回は1月21日に掲載予定です)

参考

・http://www.spacex.com/news/2013/03/31/reusability-key-making-human-life-multi-planetary
・http://www.spacex.com/news/2013/10/16/grasshopper-completes-half-mile-flight-last-test
・http://www.spacex.com/news/2014/04/29/first-stage-landing-video
・http://www.spacex.com/news/2014/12/16/x-marks-spot-falcon-9-attempts-ocean-platform-landing
・http://www.technologyreview.com/news/532066/spacex-plans-to-start-reusing-rockets-next-year/