ここ最近好調に契約数を伸ばしている楽天モバイルですが、その要因の1つは価格やサービス面での特徴を生かして法人契約を伸ばしていること。そこで、同社は法人契約のさらなる拡大を狙って新サービス「Rakuten AI for Business」の導入を打ち出していますが、その狙いは功を奏するのでしょうか。

法人プラン提供から2年で累計1.8万社の契約を獲得

参入当初からしばらくは苦戦が続いていたものの、ここ最近契約数が好調に伸びている楽天モバイル。MVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)としてのサービスを含めれば、すでに830万契約を超えているそうで、急速に契約数を増やしている様子がうかがえます。

その理由は大きく2つあると見られており、1つは2024年に「最強家族プラン」など、コンシューマー向けの割引サービスを相次いで打ち出し、お得感を強化した結果、ファミリー層の契約獲得につながったこと。そしてもう1つが、法人契約の伸びが好調なことです。

楽天モバイルは2023年1月より法人向けの専用プランを提供開始、それ以降は法人契約の獲得に力を入れたことが、同社の契約拡大に大きく貢献しています。実際、2025年1月までの2年間で、楽天モバイルの契約企業数は累計で1万8000社を超えるとのことで(MVNOの契約数も含む)、短期間のうちに大幅に契約を伸ばしている様子を見て取ることができるでしょう。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第5回

    楽天モバイルは法人向けプランの提供開始から約2年で、契約企業数を累計1万8000社にまで拡大している

そのために力を入れてきたのが1つにパートナー企業とのソリューション開拓です。中でも代表例となるのが、2024年10月15日に親会社の楽天グループが、サイエンツアーツと資本業務提携を締結したことではないでしょうか。

サイエンツアーツはスマートフォンをトランシーバーとして活用できる「Buddycom」というサービスを提供している企業。楽天モバイルも法人向けのビジネス強化にあたって、自社回線とBuddycomを「楽天トラベル」の宿泊施設に提供する取り組みなどを進めてきました。

それが契約拡大につながったこともあってか、両社は関係をより強化して資本業務提携に至ったようです。それゆえこの提携により、楽天モバイルの法人向け料金プラン「Rakuten最強プラン ビジネス」とBuddycomのセットプランを法人向けに販売するほか、楽天グループのAI技術を活用したサービス開発なども共同で進めていくとしています。

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    楽天グループは「Buddycom」を提供するサイエンスアーツと2024年10月に資本業務提携し、楽天モバイルの回線とBuddycomのセットプランなどを提供している

敷居の低い法人向けAIチャットで中小企業を狙う

しかし、楽天モバイルは自社でも法人契約拡大に向けた新たな施策を打ち出しており、それが2025年1月29日に発表した「Rakuten AI for Business」です。

これは楽天グループ独自のAI「Rakuten AI」を活用した、法人向けのAIチャットサービス。楽天モバイルはコンシューマー向けにも、ポータルアプリの「Rakuten Link」上で利用できるAIチャットサービス「Rakuten Link AI」を提供しており、Rakuten AI for Businessはある意味でその法人向けバージョンといえるものです。

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    コンシューマー向けに「Rakuten Link AI」を提供している楽天モバイルだが、2025年1月29日には法人向けの「Rakuten AI for Business」の提供を発表している

ただ、提供先が法人向けということもあって、サービス内容を見てもRakuten Link AIとは異なる部分がいくつか見られます。

1つ目はRakuten Link上でなくても利用できることで、スマートフォンだけでなく企業の利用が多いPCでも利用でき、画像や資料などを添付し、その内容に応じた質問などができる点は、法人向けのサービスならではといえるでしょう。

2つ目はセキュリティを強化していることで、社内の機密情報となるワードを送信できないようにする「NGワード登録」などの機能が用意されています。AIチャットでプロンプトに入力した情報などがAIの学習に利用されてしまうことを懸念する企業が非常に多いことから、そうした懸念に配慮した内容となっていることが分かります。

そして3つ目は、AIチャットを使ったことがない企業でも利用しやすい仕組みを導入すること。プロンプトの入力をより簡単にできるよう、職業や業務に応じたプロンプトのテンプレートをあらかじめ用意しているほか、有料にはなりますが楽天モバイルによるAI活用に向けたコンサルティングなども実施するとのこと。

楽天グループでもRakuten AIの業務活用を積極的に進めていることから、そのノウハウを活用してRakuten AI for Businessの導入と活用を積極化していく方針のようです。

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    Rakuten AI for Businessの画面。スマートフォンだけでなくパソコンでも利用でき、テンプレートを用いることでプロンプトの入力も容易にできる仕組みを備えている

ただRakuten AI for Businessは、提供元が楽天モバイルではあるものの、実は楽天モバイルの回線と直接紐づいたサービスという訳ではありません。楽天モバイルの契約がなくても月額1100円を支払えば単独でサービスを利用できてしまうのですが、楽天モバイルとしてはこれを他のパートナー企業のソリューションなどと同様に、楽天モバイルの回線契約とセットで販売していく方針のようです。

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    Rakuten AI for Businessは初期費用不要で、月額1100円での利用が可能。加えてRakuten Link AIとは違い、モバイル回線に紐づいたサービスでもない

Rakuten AI for Businessは初期投資が不要で月額料金を支払うだけで利用できることから、とりわけ楽天グループの取引先に多い中小企業の利用を獲得するのに貢献するソリューションとなる可能性があります。ただ生成AIの利活用は現状パソコンが主で、とりわけビジネス向けの活用となるとスマートフォンとどこまでマッチするのかは未知数です。

それだけにRakuten AI for Businessの提供が、楽天モバイルの法人契約を大きく伸ばすことにつながるかは見極めが必要でしょうが、パートナー企業との連携に力を入れる楽天モバイルだけに、今後このサービスと自社回線、そして他社ソリューションを組み合わせたサービス提供で開拓を進めてくる可能性もありそうです。

AIが楽天モバイルの法人事業にどのような成果をもたらすか、今後は大いに関心を呼ぶことは間違いないでしょう。