スウェーデンの通信機器大手、エリクソンは2025年9月8日に「エリクソン・フォーラム2025」を開催、世界の5Gの動向や日本での同社の取り組みなどについて説明がなされましたが、気になるのは日本だけでなく、世界的にも5Gのスタンドアローン(SA)運用への移行が停滞していること。SA運用への移行が進むには何が求められているのでしょうか。→「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の過去回はこちらを参照。
契約数は多いが事業者は少ない世界の5G SA
エリクソンは、日本でもソフトバンクなどの携帯電話会社に通信機器を提供するなど、古くから通信機器大手として知られています。とりわけ5Gの時代に入ってからは、5Gの大容量通信に不可欠とされる「Massive MIMO」に対応した小型のアンテナを開発するなど、日本市場に合わせた製品を多く投入することで大きく存在感を高めているようです。
そのエリクソンは、自社製品やサービス、世界の携帯電話業界の動向などについて紹介する「エリクソン・フォーラム」を毎年実施。2025年も9月8日に開催しているのですが、中でも話題の中心となっていたのが5G、ひいては5Gの実力を真に発揮できるとされる、5G SAに関する動向です。
エリクソンの日本法人であるエリクソン・ジャパンの代表取締役社長 ソフトバンクグループ事業担当であるジャワッド・マンスール氏は、世界的には2019年に5Gのサービスを開始してから7年間の間に、5Gは3Gや4Gより高い採用率を実現していると説明。3G、そして4Gで培われたスマートフォン、そしてアプリによる経済圏が、5Gで広がったことがその背景にあるようです。
さらに、マンスール氏は5G SAの普及状況についても言及しており、5G SAの契約数が既に5G契約数全体の55%を超えているとのこと。ただ一方で、マンスール氏は現時点で5G SAを立ち上げている国は多くないとも話しています。
それにもかかわらず、5G SAの契約数が大きく伸びているのには疑問も抱く所ですが、その理由としてマンスール氏は、人口の多い国や地域で5G SAの導入が進んだことを挙げています。
実際、中国は国内携帯3社が共に2020年より5G SAによるサービスを開始していますし、インドでも大手のリライアンス・ジオが5Gのサービス開始当初からSA運用でのサービスを提供。さらに米国では、TモバイルUSが5G SAを早期に導入しています。
それゆえ、5G SAの普及は世界的にもまだ途上というべき状況のようですが、マンスール氏は5G SAの導入により、通信事業者には2つの変革がもたらされるといいます。1つはビジネス面での変革で、5G SAによって利用できる、仮想的にネットワークを分割して品質を保証した通信を提供できる「ネットワークスライシング」などによって、新たなサービスの創出につながるとしています。
もう1つはオペレーションの効率化です。4Gのネットワークの中に5Gの基地局を導入して運用するノンスタンドアローン(NSA)運用では、5Gが4Gのネットワークに大きく依存しているため運用の自由度が低いのですが、SA運用に移行すれば純粋に5Gだけのネットワークを運用できることから、AIなど新しい技術を導入し、自動化や効率を図ることができるプログラマブルで自由度の高いネットワーク運用が可能になるといます。
投資に見合う収益化の道筋が求められる
では、日本の状況はどうなのでしょうか。エリクソン・ジャパンの代表取締役社長 戦略事業担当である野崎哲氏は、2024年に通信品質など、携帯電話ネットワークの顧客体感が重視されたことを受け、同社がMassive MIMOなどさまざまな技術を提供したことにより、国内での5G品質は改善が図られているとのこと。
さらに5G SAに関しても、野崎氏は「だいぶ拡張してきている」と説明。KDDIの5G SAのカバーエリアが急速に広がっていることなどを挙げ、5G SAが急速な広がりを見せているほか、やはりKDDIの「au 5G Fast Lane」の例を挙げ、差異化された通信体験を提供することでサービスの収益を向上する取り組みが進められるようになったとも話しています。
では、今後エリクソンは国内でどのような取り組みに注力しようとしているのかといいますと、1つに通信トラフィックの増加に対処することです。2023年から2030年の間に通信トラフィックは3.1倍に増加すると予想がなされているようですが、とりわけ今後急増が予想されるのが、主としてAIによるアップロードの通信トラフィックの増加です。
携帯電話のネットワークは、従来需要が大きかったダウンロードを高速化することに重きを置いて設計されていることから、アップロードの通信速度の高速化は限定的。現在でもビデオ会議に必要とされる4Mbpsの通信速度を、3割の接続では確保できていないといいます。
それに加えて、今後のXRの普及に求められる低遅延などを考慮すると、今後はより多くのMassive MIMOに対応した無線機を導入する必要があると野崎氏は説明。エリクソンでは自然災害の影響などで大きな機器を設置するのが難しい日本の事情を考慮し、小型のMassive MIMO対応無線機を開発して対応を進めているようです。
そしてもう1つは、差異化された接続をベースにしながら、携帯電話会社の収益化の手段を増やすこと。そのために重要な要素として位置付けているのがネットワークAPIです。
これは5Gのネットワークの機能を外部の事業者に提供し、アプリなどからそれらを制御できるようにする仕組み。エリクソンはそのネットワークAPIに関する事業を手がけるアドゥナ(Aduna)に出資しているのですが、アドゥナにはKDDIも出資しているほか、NTTドコモやソフトバンクもコマーシャルパートナーとして参画しているそうで、参画する携帯各社とネットワークAPIを活用した収益化に向けた取り組みを今後進めていきたい考えのようです。
ただ、以前にも触れたように、5G SAへの取り組み方は携帯電話会社によって温度差があることも確かで、それは5Gを活用したソリューション開拓が上手くいっておらず、SA運用に移行した後の収益性が見えていないからこそでもあります。
先行する事業者でネットワークAPIなどを活用しながら、いかに携帯電話会社に対して収益向上の道筋を見せることができるかが、エリクソンのような大手通信機器ベンダーには大きく問われる所ではないでしょうか。




