KDDIは2025年9月14日、徳島県と南海トラフ巨大地震などの大規模災害に備えた「事前防災」の推進に向けた包括連携協定を締結、AIドローンや「Starlink」などを活用した防災のDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むとしています。防災を主体としたDXに関する協定の締結は2024年の石川県に続くものとなりますが、なぜKDDIは地域の防災DXに力を入れているのか、代表取締役社長の松田浩路氏に話を聞きました。→「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の過去回はこちらを参照。
ローソンを軸とした防災DXの取り組みを拡大
大規模な自然災害が非常に多い日本。2024年には能登半島地震、そして奥能登豪雨によって、石川県の能登半島で大きな被害が生じましたが、2025年も台風や豪雨などで多くの被害が発生しています。
そして今後、発生の懸念が高いとされているのが「南海トラフ巨大地震」であり、その被害を大きく受ける可能性が高いとされている都道府県の1つが徳島県です。そうしたこともあり、同県では南海トラフ巨大地震の発生に備えたさまざまな取り組みを進めているのですが、その1つとなるのが2025年9月14日にKDDIと締結した包括連携協定です。
この協定は、KDDIが持つ通信やデジタル技術を活用することで、南海トラフ巨大地震などの大規模災害による被害に備えた「事前防災」を推進するもの。
具体的な取り組みとして、1つにKDDIが運営に参画しているコンビニエンスストア「ローソン」の店舗を地域防災拠点とし、AI技術を活用したドローンや、Space Exploration Technologies(スペースX)の衛星通信サービス「Starlink」を配備するとのこと。
これにより、平時はドローンによる地域の安心安全や消防などに活用する一方、非常時にはStarlinkによる衛星通信で通信環境を確保するとともに、ドローンで被災状況を把握や、行方不明者の捜索などを行うようです。将来的にはドローンを活用し、映像データのデジタルマッピングで情報共有する取り組みなども進めていく方針です。
そしてもう1つは、徳島県での防災訓練における連携であり、南海トラフ巨大地震の発生で沿岸部に津波の被害が生じて集落が孤立することを想定し、AIドローンを遠隔操作して被害状況を把握する訓練を実施します。
ただ、KDDIは同じような協定を2024年10月に石川県と締結しています。石川県との協定では、能登半島地震からの「創造的復興」を進めるため地域でデジタルの活用で協力することとしていました。そして、徳島県との協定と同様に、ローソンの店舗を拠点としてStarlinkやドローンを配備し、災害時だけでなく平常時にも活用することを目指した実証を2024年12月に行いました。
KDDIの取り組みが関心を集める理由
コンビニエンスストアは幅広い商品を扱い、多くの地域に店舗があることから、防災拠点として有効活用しやすいですし、地上の被害の影響を直接受けることなく利用できる衛星通信やドローンも、災害発生時に有用な存在であることは間違いないでしょう。では一体なぜ、KDDIは防災のDXに関して自治体との協定締結を強化しているのでしょうか。
松田氏は今回の協定締結に至った理由について、徳島県から強い要望があったためと話しています。同県の後藤田正純知事は、先の石川県との協定による取り組みを以前より注目していたそうで、南海トラフ巨大地震への備えとしてKDDIに同様の取り組みを強く要望したことで、実現に至ったようです。
また、石川県との協定の際にも、同県の馳浩知事がKDDIとの協定を強く要望していた様子を見せていました。多くの地方自治体では新しいデジタル技術や、その知識を持つ人材が多いとは言えないだけに、防災をはじめさまざまな面でデジタル化に強い企業との連携を求めていることは確かでしょう。
そうした中にあって、KDDIの取り組みが関心を集めているのは、デジタル技術を災害時だけでなく、平時でも活用する「フェーズフリー」のモデルを取り入れていることが大きな理由のようです。
石川県との協定や実証においても平常時は事件や事故の初動対応など、警察活動の迅速化に活用する取り組みを実施しており、先端技術を災害時にとどまることなく、常時活用できることに大きな関心が寄せられているようです。
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2024年12月に石川県で実施された「地域防災コンビニ」を警察活動の高度化に活用する実証の様子。ドローンやStarlinkなどの災害時だけでなく、平常時にも利用できることが大きな関心を呼んでいるようだ
継続に不可欠な人材、コスト面の課題をどう解決した?
ただ一方で、地方自治体にそうした先端技術を導入していくうえで問題となるのが、1つに人材の問題です。先にも触れたように、地方自治体にはデジタル技術に長けた人材が不足していることが、DXが進まない大きな要因となっています。
松田氏は、この点について自社から社員を出向させることで、推進を図っていると述べています。その際には、各都道府県の出身者など“郷土愛”が強い人材を起用し、地域への愛着を持つ人が集まることでDXを加速させる狙いがあるようです。
もう1つ、大きな問題となるのがコストです。社会貢献のためどれだけ優れた技術を導入しても、維持するためのコストを支払えなければ継続することはできませんが、そのためにも重要になってくるのが、1つに先に触れたフェーズフリーの概念です。これにより、平常時の利用によるビジネスを確立することで、収益手段を得て非常時の備えを両立できる体制を整える訳です。
それに加えて松田氏が重視していると話すのがプラットフォーム化。ドローンやStarlinkの運用を共通基盤として確立したうえで、導入に際して各地域のニーズに応じたカスタマイズを加えることにより、コスト効率化を図りながらも多くの地域に展開できる体制を整えているとのことでした。
そうしたことから松田氏は、石川県や徳島県だけでなく、より多くの都道府県にこのモデルを導入し、全国への拡大を図っていきたいと話していました。しかし、デジタル化に対する関心と重要性の認識は自治体、さらに言えば自治体の長によっても差があるだけに、KDDIがさらなる拡大を図るうえでは、これら2県で確実な実績を作り、多くの自治体に関心を持ってもらうアピールも必要になってくるでしょう。


