米国の宇宙企業「ロケット・ラボ」は2018年1月21日、新開発の超小型ロケット「エレクトロン」の打ち上げに初めて成功した。このエレクトロンとはどんなロケットなのか。なぜこうした超小型ロケットが求められているのか、そしてどのような可能性があるのだろうか。

連載の第1回では、エレクトロンがどのようなロケットなのかについて解説した

第2回では、なぜエレクトロンのような超小型ロケットが必要だったのか、そしてロケット・ラボはエレクトロンで、その課題にどのような答えを出したのかについて解説したい。

  • ロケット・ラボが開発した「エレクトロン」の打ち上げ

    ロケット・ラボが開発した「エレクトロン」の打ち上げ (C) Rocket Lab

宇宙ビジネスのトレンド、小型衛星

米国を中心に10年前から、また日本でもここ数年、「宇宙ビジネス」という単語がよく聞かれるようになった。

かつて宇宙開発といえば、国が威信をかけて行う大事業だった。もちろん民間企業も関わってはいたが、そうした国の事業を請け負って行う、いわば公共事業だった。

しかし近年になり、民間が自力で開発したロケットを使い、やはり民間が自力で開発した衛星を打ち上げ、そして事業やサービスを行う、完全にビジネスとしての宇宙開発が行われるようになった。こうして始まった宇宙ビジネスの波は世界を席巻しつつあり、さまざまなベンチャー企業が立ち上がっているばかりか、これまで宇宙とは縁もゆかりもなかった企業も参入している。

その中でも、現在最も活気があふれているのは小型衛星の分野である。

近年、電子部品の技術進歩と低コスト化により、高性能な小型衛星が、安価に造れるようになった。従来、衛星といえばトン単位のものが普通だったが、いまでは数百kgから数十kg、中には数kgというものもある。

小型で安価ということは造りやすく、さらに大型衛星ではできなかったような、まったく新しい利用方法も生み出せる。

たとえば、小型の地球観測衛星を数十機ほど打ち上げて、地球を絶え間なく観測しようという計画がある。地上はもちろん、従来の地球観測衛星でも得られなかったような情報を得られることから、それを一般企業の意思決定や、ヘッジファンドによる先物取引などに利用することが期待されており、すでに一部は実現しつつある。

また、数千機以上もの衛星を地球を覆うように打ち上げ、全世界をインターネットでつなごうという計画もあり、まもなく実際に打ち上げが始まろうとしている。

だが、こうした小型衛星ビジネスは、本来ならもっと早いペースで展開され、いま以上にさまざまな企業が参入していてもおかしくないほどの可能性があった。しかし、ある理由によってそれが妨げられていた。打ち上げに適したロケットがなかったのである。

  • 小型の地球観測衛星を数十機ほど打ち上げて、地球を絶え間なく観測しようという計画は、すでに始まっている

    小型の地球観測衛星を数十機ほど打ち上げて、地球を絶え間なく観測しようという計画は、すでに始まっている。画像はプラネット・ラボズが運用するスカイサット(これはあくまで想像図で、実際にはこれほど密集して飛行しているわけではない) (C) Rocket Lab

大は小を兼ねない

現在、定常的に打ち上げられているロケットは、小型のものでも1トン近い打ち上げ能力をもつものしかなく、数百kg、あるいは数kgという小型・超小型衛星を打ち上げるには能力が高すぎる。もちろん打ち上げること自体はできるが、小さな衛星をひとつ打ち上げるのに数十億円もかかるようでは、とても使い物にならない。

そのため現在では、大型ロケットが大型衛星を打ち上げる際に生じる余力を利用し、そこに小型衛星を載せて、"ついで"に打ち上げてもらう方法や、ひとつの小型、中型ロケットに、数十機から100機ほどの小型衛星を一度に載せて打ち上げるといった方法が主流となっている。

しかし、いずれの方法も、個々の衛星がそれぞれ行きたい軌道に入ることができなかったり、打ち上げ時期が選べなかったりという欠点があった。

とくに地球を観測する衛星にとって、質の高い写真を撮影するためには、ある決められた軌道に正確に入っている必要がある。その軌道が選べないということは、商品である撮影画像、情報の価値の低下を意味する。

また、宇宙からインターネットをつなぐ衛星の場合、最初は大型ロケットで何十機も一気に打ち上げて配備することになるが、そのうちの1機が故障した場合に、代替機をすぐに打ち上げることができない。

そこで、小型・超小型衛星を1機から数機単位で、好きなときに好きな軌道へ打ち上げることができ、それでいて低コストな超小型ロケットが待ち望まれていたのである。

  • 大型ロケットで複数の小型・超小型衛星を打ち上げる際の想像図

    大型ロケットで複数の小型・超小型衛星を打ち上げる際の想像図。これはこれで需要はあるものの、各々が好きなときに好きな軌道へ投入することができないという問題もあった (C) Spaceflight

エレクトロンの狙い

エレクトロンはまさに、こうした需要に応えるために開発された。いわば、小型衛星ビジネスの本格的な発展のために足らなかった、超小型ロケットという最後の1ピースを埋める存在なのである。

さらにそれだけにとどまらない。第1回で触れたように、エレクトロンには第3段として、小型の「キック・ステージ」ロケットを搭載できるようになっている。これは地球観測衛星のような、正確な軌道に投入する必要がある衛星の打ち上げや、複数の超小型衛星をそれぞれ異なる軌道に投入する際に活躍する。

  • エレクトロンのキック・ステージ

    エレクトロンのキック・ステージ。地球観測衛星のような、正確な軌道に投入する必要がある衛星の打ち上げや、複数の超小型衛星をそれぞれ異なる軌道に投入する際に活躍する (C) Rocket Lab

また、年間50~100機もの高い頻度で打ち上げができるようにすることで、これからさらに増加する小型衛星の打ち上げ需要、柔軟に応えられるようになっている。打ち上げ回数が増えれば増えるほど、コストも販売価格も下がる。

見方を変えれば、エレクトロンのこうした能力は、小型衛星の市場の拡大を手助けすることにもなろう。開発者でもあるペーター・ベック氏が、「今日、商業宇宙飛行の新たな時代の幕が開いた」という言葉を残したのにはこうした背景がある。

ことエレクトロンについては、第1回で触れたような新型エンジンや3Dプリンタの活用、炭素繊維複合材料の機体に目が行きがちである。だが、それらはすべて、小型衛星の需要に応えるため、そして今後のさらなる発展を喚起するために、どんなロケットがいいのかを、ロケット・ラボが考えた末の結論であり、その実現のために必要な手段だったのである。

(第3回に続く)

参考

Rocket Lab successfully circularizes orbit with new Electron kick stage | Rocket Lab
Rocket Lab successfully reaches orbit and deploys payloads | Rocket Lab
Rocket Lab | Electron - satellite launch vehicle | Rocket Lab
Rocket Lab | Dedicated Satellite Launch | Rocket Lab
Rocket Lab | Rideshare Satellite Launch | Rocket Lab

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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