前回は製造業における顧客情報の重要性とその活用についてご紹介しました。
製造業においては、顧客ニーズを起点にし、設計、調達、生産、物流、保守という流れでライフサイクルが回ってゆきます。そこで、製品を構成するための部品や原料(直接材)に関しては、そのサプライチェーンを最適化して、効率化を行い、原価を低減するための様々な取り組みがされてきました。一方で、直接製品の材料とはならないが、一連の生産プロセスに必要な部材などの間接材の調達に関する効率化は、直接材に比べるとあまり効率化の対象になっていないケースも多くあります。そこで、今回は間接材の効率化、最適化についてご紹介します。
間接材とは?
製造業における間接材というのはどのようなものがあるでしょうか。一般的には事務用品やパソコン、オフィスの設備などが該当しますが、製造業においては生産に関わる間接材もたくさんあります。それは工場設備や生産ラインの構成部品などです。たとえば、原料を送るための配管やバルブ、コンベアを動かすためのモーターやドリルなどの工具類など、意外と多くの間接材が必要です。ここでは、このような製造業に特有の間接材について説明してゆきたいと思います。
間接材管理の課題その1
事務用品と異なり、生産設備を構成する間接材は、劣化などにより故障や破損などが発生すると製造業の生命線ともいえる生産自体が停止してしまいます。そこで、そのような場合の備えて多くの企業では、故障などが発生してもすぐに交換できるように多くの在庫を保有しています。しかも、在庫切れが発生すると大きな問題になってしまうため、安心も含めて必要量よりも多めに在庫を保有する傾向にあります。これらの在庫は、最終的には使用されることがほとんどであるため、在庫が多すぎること自体が問題には思われないかもしれません。しかし、生産設備が更新されて使用する部品が変わってしまうと、これまで在庫していた部品が使用できなくなり、廃棄せざるを得ないという事態がたびたび発生します。また、製品によっては経時劣化をするため、使用できないまま廃棄するということもあるでしょう。
間接材管理の課題その2
間接材のもう1つの課題は、現場ごとに調達していることが多いため、調達の無駄が発生しやすいということです。
これは直接材においても起こりえますが、間接材は直接材ほど原価意識が高くない場合があり、効率化の対象になりにくかったという経緯がありました。たとえば、同じスペックの部材でも工場やラインごとに異なるサプライヤに発注し、異なる価格で調達していたり、発注の分散によりディスカウントを得られないなどということが発生します。しかしながら、どれが同じ部材であるのかなどはなかなか把握することができないのも現実です。そのため、多くの無駄が潜在的にあるにもかかわらず、有効な対策が立てられていないケースがあるのです。
間接材購買のコスト削減の取組み
間接財購買(MRO購買と呼ばれることもあります)について、これまでのコスト削減対策は、発注品や発注先、数量や頻度などを洗い出して、できる限り調達先を集中させ、一回の発注量を増やすことでディスカウントを引き出すということが中心でした。一般的には発注量が増えると単価が下がるため、分散している発注をまとめることで発注量をまとめ、その結果として少しでも有利な条件を引き出すための交渉が可能になるというアプローチでした。このような、ある意味アナログな取り組みによって調達単価を下げる努力は行われてきましたが、最適化という面では不十分とも言えました。
間接材購買の最適化
それでは、最適化をするためには何が必要になるでしょうか。
もちろん、上記のように分散した発注をまとめてより良い条件で調達することも必要です。それに加えて、本当に必要な在庫量をより正確に見積もることも必要になります。
先に述べた通り、現場では安全のために多めに在庫を持つ傾向にあります。最終的にはそれらの部品などは使用されるのだから問題ないのではないかと考える方もいらっしゃるでしょう。しかしながら、在庫はそれ自体がコストになります。保管や検品のコストに加え、使用されない時間が長いと、ものによっては経時劣化によって不良在庫化する可能性もあります。また、先に触れた例のように、生産設備の更新などによって、それ以前の部品が使えなくなってしまうことも起きうるでしょう。そのため、やはり過剰な在庫は資金繰りを悪化させ、コストを増大させてしまう可能性があるのです。
AIによる最適化
このような状況に対し、在庫状況を分析し、最適な発注を支援するクラウドサービスが出てきています。これまでなかなか積極的な対策が取りにくかった間接材調達において、既存のシステムと連携することにより、その購買の最適化を提案してくれるシステムです。
たとえば、米国のスタートアップ企業であるVerusen社によるソリューションでは、SAP S/4HANAなどの基幹システムと連携し、これまでの発注履歴などを分析して、最適な発注タイミングや数量を提案してくれます。また、別々の型番などで管理されている部品同士の情報をもとに、共通化できそうな部品の組み合わせも提案してくれる機能もあります。これまでアナログでは気づかなかったような組み合わせを見つけ出し、集中化することによって発注先への交渉を行ったり、在庫の総量を適切に水準にする支援をします。
なお、このソリューションでは、提案はしてくれますが、自動で発注や統合を行うわけではありません。当然、様々な事情によって特別な発注を行っていたり、あえて異なる調達先に個別に発注するケースもあるでしょう。あくまで提案にとどめることにより、最終的な判断は発注担当者が決定することができます。そのため、AIの活用に頼って想定外の結果になることを防ぎながら、発注の最適化を進めることができるのです。
目立たなくとも実効性のあるDX
このように、これまではアナログな努力によって対応されてきた間接材の購買領域についても、デジタルの力を使った最適化が可能になります。システム化に対する費用対効果が見込めないと思われている領域も、クラウドサービスを活用することでスモールスタートで検討することが可能です。もしすでに効率化が進んでいて、それ以上の最適化が望めなければ、いつでもやめることができます。このように少ないリスクで様々な領域に対するデジタル化を試し、進めることが可能になっています。ぜひ周辺を見回して、身近なDXに取り組んでみてはいかがでしょうか。
最終回となる次回は、プロジェクト管理と収支管理についてまとめたいと思います。
著者プロフィール
𡌶俊介(はが・しゅんすけ)大学卒業後、1994年、日系の監査法人系コンサルティング会社に入社。SEとして会計システム構築および社内システムの構築を担当。
2001年、日本マイクロソフト(現)に入社、主に製造業向けプリセールスや製品マーケティングを約10年にわたり担当。
2010年、デスクトップ仮想化やアプリケーション仮想化ソリューションを提供している最大手のシトリックス・システムズ・ジャパンに入社、約7年間にわたり、アライアンスやマーケティングを担当。
2018年より、NTTデータグローバルソリューションズに入社し、事業戦略推進部副推進部長として、マーケティング全般、人材育成に携わる。現在に至る。