2016年7月4日、木星に到達する木星探査機ジュノー。2003年に探査を終了したガリレオ以来の木星探査機でございます。いやー、久しぶりの木星だよ。今回は、原稿執筆(木星到着前)・掲載(木星到着後)のタイミングから、マヌケなことにならぬよう祈りつつの紹介でございます。ま、万一の時はおもしろい記録ということで……。
7月4日は、アメリカの独立記念日、インディペンデンス・デイでございます。で、アメリカ人はこの日が好きなようで、宇宙探査にもこれをからめてくるのですな。1997年には、火星探査機マーズ・パスファインダーの火星到着が7月4日。2005年には、彗星探査機ディープ・インパクトの彗星衝突実験が7月4日でございます。
そして2016年、今度は木星探査機ジュノーが、木星の周回軌道に入る……ってるはず……がこの日(米国の現地時で)なのです。えー、原稿掲載の都合上、まだちょっと成功か判明していないのですが、たぶんうまくいくと思われます。大丈夫かな。35分間の逆噴射が成功しないといけないんだが。まあ、マヌケな原稿にならぬことを祈るしかありません。
さて、木星探査機ジュノーさん、何しに、木星まで行くのでしょうか。かんたんにいえば、木星の身体がどうなっているのかを調べにいくのです。
木星は、いままでもパイオニア10号、11号、ボイジャー1号、2号、ユリシーズ、カッシーニ、ニュー・ホライズンズの7機がフライ・バイ観測をしています。フライ・バイ(側を飛ぶ)というのは、木星とすれちがいざまに探査をするってことですな。このうち、ユリシーズとカッシーニは米欧共同で、ほかは米国の探査機でございます。
こうしたフライ・バイ探査では、チラッと通過することでわかる、上っ面を調べるのですな。天体の写真や、天体の熱分布や、磁場、放射線の強さなど、チラッと見ればわかるものがメインになります。フライ・バイ探査は、とりあえず木星のわきをかすめさせればいいので、成功の可能性が高い観測ですな。
一方、フライ・バイに対してオービター(軌道探査)というのがあります。これはその天体の人工衛星となって、ジロジロじっくりみたり、変化を見続けるということですね。たまにしか起きないような現象もキャッチできる可能性があります。たとえば、富士山を夏だけチェックしても、雪が降ることはわからんわけですが、四季を通じて見ればわかるってなもんですな。木星については1995年~2003年にかけて米国のガリレオ探査機がオービターになっています。結果、衛星のエウロパの地下に湖があるらしいことや、木星の上空にやたら放射線が強い場所があること、衛星のイオは火山噴火でどんどん表面の様子が変化していることなんてことを発見しています。さらに、木星へプローブという突入子機を落として、木星の大気の様子を直接調べたりもしております。
このオービターは、軌道投入という山場があります。まあ、なんというか、超スピードでつっこんでいって、スピンターンしながらの車庫入れって感じですね。失敗すると、そのまま宇宙の彼方にさようならーです。日本はかつて火星探査機のぞみで軌道投入に失敗しています。金星探査機あかつきも一度は失敗し、その後名人芸のようなリカバリーで5年越しの成功をしたのは記憶に新しいところです。他国でも米国も欧州もロシアもやはり火星探査機で失敗しております。鬼門なんですな。でも、上のようにオービターにはオービターのすばらしさがあるので挑戦するんですねー。
で、今回のジュノーさんもオービターなのでございます。ただ、なんというか、もうオイシイところ全部、ガリレオ探査機に持ってかれてるやろ。と思いたくもなるわけですな。ただ、今回はちょっと違うのです。ジュノーは、木星を北極と南極の上部を通り、20カ月間かけてタテ周りに37回まわることになっています。これで木星の磁場などをとらえて、一種のCTスキャンをやろうという感じなんですな。それによって、ちょっと専門的になっちゃいますが、こんなことを調べます。
1. 木星の内部に固体の中心核があるかどうかを調べる
木星は気体と液体ばかりでできているらしいのですが、その中心に固体の核があるのかどうかを調べるわけです。図鑑だと地球の5倍サイズで重さが15倍くらいのものがあることになっているのですが、木星全体は地球の300倍もの重さがあるので、これほど小さいとあるんだかないんだか、ってな感じなんですね。それをしっかり調べようってわけです。
2. 木星のキョーレツな磁場の起源をさぐる
地球も全体が磁石なのですが、木星もそうなんですね。しかも、表面では15倍ほどで、全体では2万倍くらいの強さがあるらしいのです。これは、中で強力な電磁石現象が起こっているためなんですが、いったいどうなっているのか、磁場の形状を詳しくしらべながら、内部を知ろうってなわけです。
3. 木星の雲の内部やその成分を調べる
木星は、全体がすっぽりと雲で覆われた星です。しかも、その厚さは地球の入道雲の100倍以上の1000kmを越えます。雲の内部のことは外からながめてもよくわかりません。ただ、電波の一種のマイクロ波などを使うと、ある程度、雲の内部がわかるんですね。これは、木星にへばりついてやらないとできないのでございます。
4. そのほか、木星のオーロラや放射線などを調べる
木星には、地球よりかなり強烈なオーロラが発生しています。その様子や、木星をとりまく非常に強烈な(こればっかですな)放射線帯も調べます。放射線で壊れないよう、ジュノーさんは放射線シールドが施されています。
もちろん、ジュノーさんは、フツーのカメラも搭載しています。これはどっちかというと、研究用というより一般向けの機器ですな。撮影のリクエストができるなんてお話があります。このカメラJunoCAMでは、最も木星に近づくときは木星上空5000km、半径7万kmの木星をなめるようにまわりながら写真を撮影します。初めて、木星の南北極の詳しい写真を撮影するなど、これまでより格段に高精細、ド迫力の木星の写真を見ることができるはずなのでございます。まあ、前任のガリレオさんが800×800~64万画素のカメラだったのに対し、軽くHD解像度なので期待できますな。
ほかにも、ジュノーさんははじめて太陽電池パネルだけに頼る木星探査機だとか、メカ的な楽しみもございます。
なお、ジュノーさん。今時の探査機らしく、Twitterのアカウント @NASAJunoを持っていて、日々つぶやいています。Flickerでは、ジュノー探査機を送り出しているチームが、ジュノーの大きさの絵のまわりで喜んでいたりします。まずはうまいこと車庫入れできているように、この執筆時点では祈るばかりなのでございます。いや、最終の最後で間に合うかな。二通り用意しておこう。編集さんに最後に取り消し線を引っ張ってもらおうかな。
ジュノーさん、木星軌道への投入は見事成功。これからの探査が本番です。期待してまっせ!
ああああ、なんてこったい! 打ち上げから5年間の旅路が……いや、なんともかける言葉がないよ、ジュノーさん。それほど宇宙探査は難しいということ。いや、これまでの旅の成果から沢山得るものはあるはず。
そして木星そのものは、夕方の西の空に、1番星として、とても明るく輝いております。
著者プロフィール
東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。