中秋の名月。月食と、月が印象的な秋でございます。そして、もう一つ話題になっている2025年の開催が迫る万博です。そして、月×万博といえば、60歳以上の人にとっては「1970年の日本万国博覧会(大阪万博)で展示された月の石」でございます(この記事の読者にどれくらいいるんだろうか……)。

月の石については、前も結構普通に見られるとご紹介したのですが、ズバリ万博の時に展示されたそのものの月の石もアメリカのオハイオ州の博物館で一般公開されているということを先日知りました。ということで、今回は、万博の月の石のことをご紹介いたします。

2025年万博はやっぱり楽しみ。なんたって世界中の本物が見られる

万博。国際博覧会。EXPOは、1851年にロンドンではじまった国際イベントですな。

世界中の珍しいもの、技術産品などを一堂に会し(当初はパビリオンが1つだけだったので、文字通り)紹介するイベントです。本物・実物をあちこちにいかなくても見て、体験できて、比べられることは、様々な「化学反応」を起こし、結構世の中を変えてきたのでございます。電話やエレベーターの普及やワインの格付け、モーターレース、近代オリンピックも万博から始まったといわれています。

万博のうち登録博というフルセットの万博は5年に1度。2025年の万博が予定されていますが、日本での開催は2005年のモリゾー&キッコロの愛知万博ぶり。2025年もなんだかんだいって、ミャクミャクさまのインパクトを忘れるくらい、心揺さぶられることでございましょう。私は行くつもりです。3回くらいは行くかな。チケット代が……どこかから取材費でないかな(せこ!)。

万博とサイエンスは熱い!

さて、この万博は当初から、サイエンス分野の出品が多数あり、呼び物になってきました。2005年の愛知万博では、冷凍マンモスが話題になりましたね。私も暑い中ならんで見ましたよ。おまえは寒そうだなと思いましたよ。その後の巡回展でじっくり見る機会があり、なんともいえぬインパクトを再度確認いたしました。

その他、どんなものが紹介されたかは、この連載の第232回でも取り上げたとおりです。あ、そうかもうちょっと最近のも紹介する予定だった。はい、やりますよ。

万博で展示された月 - 1900年パリ万博の超巨大望遠鏡と映像

さて、万博では「月」について1900年と1970年に月に関わるインパクトある展示がありました。

え? 1900年? はい、それは月を望遠鏡で見るというものでした。なに、しょぼい? 望遠鏡を月で見るくらいだったら、プラネタリウム施設やら、アマチュアの天文家や学校の先生がやるイベントやらで結構機会がある? はい、その通りなんですし、私もたまにはお手伝いしますが、1900年パリ万博のものはちょっと、いやかなーり違うんです!

図は当時の様子です。図の上の部分をよーく見たらわかるのですが、横長の巨大な建物の中に、大きな筒があり、左に何かの装置、右に映像が映っています。写っているのは月で大勢の人がそれを見ています。巨大な筒は横倒しになった口径125cmの史上最大の屈折望遠鏡(レンズのみパリ天文台に現存)です。そして、左の装置は直径2mもの巨大な鏡を、月の方向に向け続ける装置、シデロスタットなのでございます。

  • 1900年のパリ万博に登場した月を見せた巨大シデロスタット

    1900年のパリ万博に登場した月を見せた巨大シデロスタット

万博では、何かと大型映像が話題になりますが、こちらこそ元祖大型映像といえるでしょう。そして、そのコンテンツが月だったというわけです。ちなみに、大型映像の代表格であり、各地のシネコンでも楽しめるIMAX映画は1970年万博の富士グループ館(現みずほ銀行など)で登場しています。

ところで、このパビリオン。ライブの月を見せるわけで、曇ったり、そもそも月が昇ってない日はどうしてたんだろうなと思ってしまいますが、企画したのは冒険家のドロンドという人で、天文学的にどうというのはあまり考えなかったんでしょうかね。だからこそできたかも。

万博で展示された月 - 1970年の万博の月の石

さて、万博で展示された月ということですと、1970年アメリカ館に展示された「月の石」でございますな。1969年11月20日に月面にてアポロ12号が採取したホヤホヤのもので、サンプルナンバー12055。重さ900gあまりのものでした。

アメリカ館では1969年の人類初の月面有人着陸の成功を受け、これを前面に出して展示しており、実物の月面探査機アポロ8号(有人での月一周に初成功した)の帰還カプセルや、月着陸に初成功した時のアポロ11号付近の月面の再現展示などが行われました。あ、写真はNASAのものでございます。なんか後ろのミラーボールが気になりますが、なんか演出したんですかね。

  • アポロ8号の司令船

    1970年の大阪万博アメリカ館に展示されたアポロ8号の司令船 (C)NASA

で、普通ならこうした乗り物系が人気になると思いきや、なんといっても人気だったのは、月から持ち帰られたサンプル。月の石だったんですね。いや、鉱物好きとしてはうんうんといいたくなるのですが、宇宙船より石が人気になったんですなー。「宇宙船より石」。いやーよきかなよきかな。

で、このアメリカ館については、NASAのWebサイトに詳しい記録があるのですそこから参照します。

  • アポロ12号の月の石

    1970年の大阪万博アメリカ館で展示されたアポロ12号の月の石 (C)NASA

まず、アメリカ館は別に「月の石と宇宙探査」だけを展示したわけではないのです。9000m2のパビリオンで展示されたのはアメリカの魂の多様性(ダイバーシティ)と創造性でした。そして、スポーツや芸術などが7つの展示が展開されました。や、それも見たかったな。写真はパビリオンデザインをした方のWebサイトなどでみられますけどね。そしてやはり最大の展示は宇宙の展示だったのです。

ということで、月の石でございます。先ほどお話ししましたように、重さ900gほどのアポロ12号採取のサンプルが鎮座していたそうです。ちなみに嵐の海から採取されたので、30億年以上前の溶岩ですな。

そして、これを一目見るために、4時間待ちという行列が発生したそうです。記録によると、1時間に8000人、1日に8万人、半年間の万博期間に1400万人が見学したとこのことです。万博全体では6400万人の入場があった(97%が日本在住)そうで「私は見られなかった」という声をアラカンなみなさんからよく聞くのも宜なるかなという感じでございます。なお、上のNASAのサイトには「小さな女の子を警備員がかかえあげてみせてあげる光景」なんてのも紹介されていますが、ともかく大変な騒ぎだったのが分かります。

実は今でもいつでも見られる「1970年の大阪万博の月の石」

さて、この月の石ですが、展示用になっていたのであり、そのままオハイオ州クリーブランドの自然史博物館に常設展示されています。つまりいつ行っても見られるのです。えーってなもんですな。なお、ここで展示されている12055は、研究その他のためにいくつかのパーツに割られた1つとのことです。他にフィリピンとドイツのボンにも小さなかけらがあるのだとか。

ちなみにクリーブランドは、五大湖の1つエリー湖の湖岸にある都市で、シカゴとニューヨークの中間にあります。なかなか行く機会がないかもしれませんが、行って行けないことはない場所ではあります。

その他、1970年の大阪万博では、アメリカ館の人気を受けて、日本館でもアメリカから寄贈されていた月の石が展示されたってなのを、どこかで、ああ、自分で連載の第237回に書いていますね。

ちなみに、前の年に大阪市立博物館でアポロ11号の月の石も展示されたそうです。これは知らなかった。その後も、日本では結構月の石が展示され、上野の国立科学博物館と、北九州市の科学館には常設展示されています。月の石ともかく見たい勢はぜひチェックしてみてくださいませ。

あー、しかし2025年の万博では、どんなサイエンスのお宝が見られるのだろうか。いや、ほんと楽しみでございます。