サイエンスはミステリの謎解きになぞらえられることがあります。実際、小さな情報の断片を一つ一つ拾い上げ、それを統合して「あ、そうだったんだ」みたいなストーリーが開けることがあるのですな。今回は、そのピースのひとつ「セイファート銀河」のご紹介をいたします。

私の知り合いには、天文・宇宙業界の人も多いのですが、アマチュアで楽しんでいる人が大勢いるのもこの界隈です。その知り合いが秋の星座くじら座にあるM77の写真を撮っていました。なかなか見栄えがする天体です。こちらはハッブル宇宙望遠鏡が撮影したものです。

  • ハッブル宇宙望遠鏡によるM77の写真

    ハッブル宇宙望遠鏡によるM77の写真 (C)NASA, ESA & A. van der Hoeven

で、M77といえば、むかし「格好いいな、その名前」というので覚えていた「セイファート銀河」のひとつです。このセイファート銀河は何で、何につながるのでしょうか。このミステリ小説はまだ完結しておりませんが紹介しますね。

さて、いきなり脱線しますが、ミステリ小説といえば、2022年のノーベル生理学医学賞は、まさにサイエンス=ミステリな感じの中身でワクワクしましたよ。受賞者のスバンテ・ペーボ氏の研究は古代遺伝子学。4万年前に滅んで現生人類と入れ替わったネアンデルタール人とデニソワ人や現生人類の間に子供がいて、その遺伝子は現生人類につながっているで、ってなことをバラバラの破片になった遺伝子情報から読み取ったという内容でございました。さらには、このネアンデルタール人由来の遺伝情報が、新型コロナウイルス感染症の重症化の抑制に一役かっているってな研究もでています。うーん、そうくるかという感じです。

ノーベル賞は日本人が受賞しないと世間一般にはスルーされがちなのですが(株の市場番組でも「日本人期待されたんですけどね」で片付けられてました)、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のメンバーでもあるということが話題になるや、新聞報道が増えていますね。詳しくは、OISTのリリースが要点ビシリなのでご覧ください。

さてまだまだ続くノーベル賞。物理学賞、化学賞もおもしろければ続報しますが、ここは銀河の話に戻ります。

さて、セイファート銀河というのは、中心部が異常に明るい渦巻き銀河です。1943年に最初にこれに注目し、分類したアメリカの天文学者カール・キーナン・セイファートにちなんでこのように呼ばれています。渦巻き銀河は中心部に恒星が集中し、そのまわりに渦をまいたような円盤構造がくっついています。代表的な渦巻き銀河というとアンドロメダ銀河M31とか、M51などがありますな。写真は、eVscopeで撮影したM51でございます。最初に注目された渦巻き銀河ですが、そりゃ望遠鏡でこんなのが予告もなしに見えたらびっくりしますね。

  • eVscopeで撮影したM51

で、中心が明るいというだけなら「渦巻き銀河ならみんなそうじゃん」「じゃあ渦巻きは……」と渦巻きに注目がいってしまうのですが、セイファートさんは中心部に注目しました。

そしてわかったことは、単に「他の銀河に比べてやけに明るいなあ」だけではなく、通常の銀河と比べて(1)青~紫外線にかけて強い光が出ている。(2)ガスから出る特定の色だけが異常に明るい(スペクトルでいうと輝線スペクトルが強い)そして、2つのタイプがあり、ものすごく高速にガスがうごめいている特徴を示す 1型と、それはみられない 2型があることが後にわかったのです。

んー、天文学の教科書みたいですね。ちと難しいな。ようは天文学者は「この異常に明るい中心部、なにか変なものが活発に活動しているぞ」「しかも2パターンあるとは」と思うような内容なのです。

なお、この中心部のさらに真ん中へんの明るさは、それだけで「銀河のほかの部分全部」に匹敵する青い=エネルギーが高い、ガスがうごめいている光です。中心部がやったら活発なのをAGN(活動銀河中心核)と天文学者はいうのですが、セイファート銀河はAGNがある銀河の一種なのでございますな。素材の会社ではありません(それはAGC!)。ちなみに渦巻き銀河だけでなく、渦巻き構造がないレンズ銀河や楕円銀河にもセイファート銀河は後に見つかっています。

さて、このAGNですが、セイファート銀河の専売特許ではなりません。1962年にハザードは電波での観測で、おとめ座の3C273とナンバリングされた電波の強い領域を調べていました。3Cは英国のケンブリッジ(Cambridge)大学の電波受信アンテナで宇宙をチェックした3回目の捜査活動のカタログという意味です。そこの273番目の天体が3C273なのですな。

いまでこそ、電波での観測で光学的にはわからないブラックホールの周囲の構造を描けるほど、視力がいいのですが、かつてはボケボケでした。ハザードは3C273が、おとめ座という誕生日の星座(太陽、月、惑星の通り道)にあり、月が通過することを利用します。そして、月に隠されるときの電波強度の変化を調べることで、3C273が「点」といっていいほど小さく強力な電波源であることを発見します。そして、そこを調べると、13等級の星だったのです。ただ、恒星というには、あまりにも電波が強力すぎます。そこで、恒星(Stellar)のようなQuasi電波源(Radio Source)つまり Quasi-Stellar-Radio source(QUASAR:クェーサー)と呼ばれるようになります。

クェーサーの光を分析すると、それはセイファート銀河(1型)とそっくりな(1)青い光、(2)特定の色が異常に明るい、しかも、それは激しく動き回っているガスの存在を示唆。という特徴が見いだされました。クェーサーは、セイファート銀河の真ん中だけ、つまりむき出しのAGNみたいに見える存在だったわけです。

また、後に、電波は発さないAGNだけの天体も多く見つかり、これもクェーサーと呼ばれるようになります。電波はAGNだけでなく飛び出したジェットからもたらされていることもわかってきました。そうした天体は電波も強くなります。

  • alt属性はこちら

    AGNを持つ銀河の想像図。中心のブラックホールに殺到する物質が宇宙にジェットとして吐き出される。そりゃまあ、こんな激しければ明るくなりますわね。電波もでてくるよね (C) NASA, ESA, Joseph Olmsted (STScI)

その後、1990年代になって、この「点のようにしか見えない」クェーサーを、超分解能を誇るハッブル宇宙望遠鏡などで調べると……クェーサーは、セイファート銀河となんら変わらないことがわかってきます。明るさなどで区別はしますが、セイファート銀河もクェーサーの一種だといっても、そんなに間違っていません。

さて、このクェーサーというかAGNは、何かというと、もうそこには、ガスをぶん回す、超重量級のコンパクトな天体、すなわち太陽の100万倍から10億倍もの質量を持つ、巨大ブラックホールがあるからだということが了解事項になっています。1971年にはくちょう座X-1がブラックホール(太陽の数倍の重さの)と考えられる以前から、人類は、巨大ブラックホールによる現象を見ていたというわけでございますな。

セイファート銀河というと、そんな話を思い出したのでご紹介してみました。