今回は「歯車」についてお話します。というか、ふと「ん-、歯車の発明っていつごろかなー」と思って調べはじめたら、簡単にいかず迷子になってしまったのですが、発明者不肖、でもまあ紀元前250年ごろの古代ギリシアのアルキメデスは使っていて、さらに紀元前3世紀頃のエジプトの前くらいにあったらしいとは言えます。

「ギア」は歯車のことです。なんかギアというとメカというイメージだったり、自動車のシフトチェンジの機構みたいですが、直訳すると歯車なんですな。歯車は、お財布をさぐると五円玉に刻まれています。世界でも珍しい現行の穴あき通貨、五円玉のデザインは、稲穂、水面、歯車で、農業、水産業、工業を表しており、日々大阪の桜宮の造幣局で作られているわけですが、面に算用数字がない唯一の硬貨だったり、色々おもしろいですな。ちなみに尺貫法の1匁(もんめ)の3.75gなのだそうです。

  • 五円玉にも歯車が描かれています

    五円玉にも歯車が描かれています

さて、歯車です。メカニカルに動くものには、たいてい使われている、基礎的な機構でございますな。回転の速度を変える、向きを変える、回転を前後運動に、またその逆にするなど、歯車によって、いろいろなことがやれるわけです。そして、それを見ているだけでも、なんともおもしろいわけで、科学センターなどでは定番の展示になっていますし、オモチャでもありますな。

また、この歯車この歯車がらみの説明動画は結構な人気があります。

などなど「歯車」「gear」で検索すると、わんさかでてまいります。ちょっとみつけられないのですが、多段の減速歯車をつかって、片っぽを高速で回しても、もう片方はコンクリートで固定してもOKってなのもどっかの博物館にありました。

  • 歯車同士を組み合わせると、回転数とトルクの制御が可能

    歯車同士を組み合わせると、回転数とトルクの制御が可能となります

サイエンスチャンネル:メーキングの歯車作りもおもしろいですなー。

その巧妙な仕組みの究極がしかけ時計などですな。少し前に歯車がぐるぐるまわっているのは、それだけでアートっぽいところがあります。さらに病的な応用をした東北芸術工科大学(いまは卒業)の鈴木完吾さんの「書き時計」は、話題になりましたな。売れっ子WEBライターのヨッピ-さんのインタビューが聞き手も上手でおもしろいですね。

また、そういえば、パスカルは歯車をつかって計算機を作り(パリのメチエ工芸博物館に展示されてます)。それを超絶応用したのが、みんな大好き、エイダさんも一緒の、英国のバベッジの階差機関などですな。

ということで、歯車について語り出すと、切りがありません。ここまで語って、普通の時計とか、自動車とか、そういう話がでてこなくても、おなかいっぱいなのでございますよ。歯車は偉大、歯車は偉大なのでございます。

ところで、その歯車ですが、いつごろ、誰が発明したんでしょうか。……ん? 全く知らないぞ。

えー、古代ギリシャで作られたアンティキシラマシン(アンティキティラ島の機械)というのがございます。海から引き上げられた歯車の断片で、それを解析すると、古代の天文計算機だったらしいというものでございますな。2000年前の。パスカルよりよっぽど古いじゃないかってなもんです。ここでも歯車はバッチリ使われています。

それより前というと、紀元前1世紀の、ローマの建築家マルクス・ウィトルウィウスの石臼を回転させる歯車の記載があります。

さらに前には、天才アルキメデスでございますな。死んだ年だけは、戦争であやまって殺してしまったという話から明確にわかっている(紀元前212年)人ですが。まあ、いろんな発明をした人です。で、彼の発明の中に、ウォーム歯車を使ったものがいくつかあるんですと。

でも、もっと前がありそうですよね。でも、なんというか、本を読んだらたいてい記憶している私が、まったく思い出せないのでございますよ。

もちろん、目が節穴という可能性もあるので、身の回りにある「科学技術史体系1」とか、「1000の発明発見」とか「発明の歴史」とか「科学と発見の年表」とか片っ端から調べてみたのですが、全然のっていない。

ということで、近所の科学館にやってきました。ここは、図書館だったら禁帯出になりそうなミョーに古いデカい本が置いてあるのです。で、調べたらありましたありました。

1977年講談社刊行の「発明とアイデアの歴史」です。エドワード・デ・ボノという英国の人が、1974年に出版したものの訳書です。そのp223に歯車という項目を見つけました。いままであげた本には、この項目すらないものがほとんどなのですよ。

で、そこにあるのは古代エジプトで紀元前3世紀ころに、井戸の水をくみ上げるのに歯車を使っていたという図解でございました。

また、九州大学の松川先生たちのレポート「歯車の歴史とその発展経緯に関する考察」には、紀元前350年にアリストテレスが歯車っぽいものに言及していると書かれています。

まあ、この辺かなあというところですね。松川先生のレポートは本当にありがたいです。

なお、さっきのエドワードさんの本には、歯車の発展で16世紀のトリアーノがプラネタリウムを作るために歯を切る機械を作ったってなことが書かれていました。プラネタリウムは1923年に誕生していますが、こちらは原型となる惑星の運動をテーブルの上でみせるオーラリのことでしょうね。プラネタリウムも歯車のおばけですからね。

さて、そんなわけで古い古い歴史を誇る歯車ですが、いまでも新しい歯車が発明されています。最近話題になったのは、2021年に山形大学の多田隈理一郎先生らの発表したボール状の歯車で、どの方向にも自由に回転できるので、ロボットの関節など多方面に応用できそうというものですなー。

いや、歯車、奥が深い!